2006年の開業以来、「おひさまネットワーク」という独自の連携スタイルを確立し、関西・関東で約1400人の在宅患者を受け持つ法人へと成長したおひさま会(神戸市垂水区)。最終回では理事長の山口高秀氏に、自身のマネジメント論を聞きました。
マネジメントとは、現場の「やりたい」をサポートすること
医療現場は、経営層が意識的にマネジメントしなくても、ある程度はうまく行ってしまうと思うんです。なぜなら、熱い思いを持った医師や看護師が現場にいるから。わざわざ経営層が理念を語ったりしなくても、現場に理念が落ちていますから。わたし自身、普段の診療は“理念探し”のためにやっているようなところもあるんです。
ただ本来、マネジメント不在というのは、よくないことだと考えています。ここで言うマネジメントとは、現場にある「これをやりたい」という思いをサポートして、スタッフを成長させること。理念を浸透させてやり方を統一するということでも、「点数が稼げそうな診療行為を現場に強いる」ということでもありません。特に診療報酬が下がっている今、「点数の高い診療内容に特化して経営改善を図りたい」というプレッシャーは経営者にとって大きい。しかし、それを現場に強制することがマネジメントのすべてだと勘違いしてしまうと、経営者として方向を見誤ってしまうのではないでしょうか。
専門的な教育を受けたスタッフが日々人の命と対峙するなかで「必要だ」と思うことなんだから、現場の声はきっと正しいんだと信じて、サポートする―こんな経営者がいる環境だったら、スタッフはそこに居続けるはずです。診療報酬や経営指標の数値ばかり見るのではなくて、「理念は現場にある」という前提に立つこと。これが難しくて、わたし自身も日々悪戦苦闘していますが、医療機関の経営層に求められていることだと感じます。
生きる上での安心感とモチベーション、両方提供したい
―おひさま会の今後の展望について教えてください。
当院の患者さんには、病気への不安は忘れて、楽しいことに専念してほしいですね。
体に関する不安は当院に任せておけば大丈夫だろうと思ってもらえるような組織をつくって、その結果生まれてくる心の余裕に対して、楽しいものを持ち込む。それができて初めて、生きる価値を提供できるのではないかと思っています。
神奈川県茅ヶ崎市に作ったサービス付き高齢者向け住宅では、楽しいことが大好きな高齢者に入居してもらう試みを始めています。ケアの内容はシンプルだけれど、その代わり
食べ物やイベントは盛りだくさん、という施設です。横浜のレストランの料理人を顧問にして、ワインセラーも備えましたし、劇団四季の元団員で現役のアーティストによるステージなど、楽しめる内容が目白押しです。
今後はそうした元気な人が入居する高齢者施設を作り、医療以外の形でのコーディネートをしていきたいと思っています。生きるモチベーションを与えながら、生きることへの安心感も醸成する。その2本柱がないといけないなと思うのです。これらをどう組み合わせて融合させるのが、これから磨いていかなければならない将来図ですね。
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