野々下みどり(ののした・みどり)
株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理士会評議員などを務める。
「将来は、信頼される診療情報管理士になりたいです!」
私は、福岡県にある医療福祉専門学校で診療情報管理科の非常勤講師を務めています。多分に漏れず、新型コロナウィルス(以下、コロナ)の影響で、しばらく休講せざるを得ませんでした。5月の初めからオンライン講義が始まり、初めて画面越しの講義をしました。
これから、ビジネスやサービスの提供は様変わりをするでしょう。私も「ITを駆使し、動画やオンラインなどのコンテンツなどを考えなければ」と思いつつ、動画配信に対して二の足を踏み、敬遠していました。今回のオンライン講義を機に、何事もチャレンジだと思い、数日前から3年生にむけた教材用の動画をいくつか撮影しました。
カメラに向かい1人で淡々と話す不自然さに戸惑いながら、慣れない業務にぐったり。初めて会う新入生に対しては、初めてライブでのオンライン講義となり、ぐったりに加えて少し緊張しながらその日を迎えました。
まだほとんど登校できずに、クラスメートの名前も分からない、先日まで高校生だった学生たち。まず順番に、自己紹介と、抱いている診療情報管理士の仕事のイメージ、そして将来どんな診療情報管理士になりたいか、を発表してもらいました。
「将来は、信頼される診療情報管理士になりたいです!」
ほとんど、いや全員が、信頼される診療情報管理士に、信頼される人間になりたい、と目指す姿を力強く語ってくれました。
発表を聞く前は、「もしかするとコロナの影響で、医療界に対して不安を抱えているかもしれない」と心配していましたが、彼らのキラキラした表情と、素直で新鮮な気持ちに、とても勇気付けられました。
「信用」と「信頼」は何が違う?
さて、ここで出てきた「信頼」という言葉ですが、みなさんは「信用」と「信頼」の違い、ご存知ですか。
簡単に言うと、以下のような違いがあるそうです。
・「信用」はその人の過去の実績について
・「信頼」はその人の未来の行動への期待
これまで目の前のことにしっかり取り組み、積み上げてきた実績が信用に。そして、まだ目の前にはないけれども、「この人が未来に積み上げていく実績も確かなものであろう」と期待されることが信頼と言えるのでしょうか。
つまり、先程の専門学校の学生たちは、診療情報管理士になったら、実績を積み上げていき、将来も期待される人材になろうと意気込んでいるのです。
コロナで改めて感じた「命」のはかなさ
コロナによって、私たちはいま誰もが経験したことのない世界を生きています。
多くの方がコロナに感染し、亡くなっていく――。その報道を見るたびに、なんと命とははかないものか、と改めて感じています。
私は、前職の病院に入職したばかりの時、当時の院長先生に「医療者たる者、死生観を持っていなければならない」と言われたことを今でも覚えています。私はこれから医療現場、命の現場で働くのだな、生死と隣り合わせの業界に入るんだな、と気を引き締めたのです。
そして入職以来、救急の現場や緩和ケアの現場での経験、さまざまな方との関わりの中で、私なりに「明日、生きていることは決して当たり前じゃない」と強く感じ始めました。毎朝家を出る時には、「夕方、この家に帰ることはないかもしれない」「もう家族と会うことはないかもしれない」「今日が人生の最後かもしれない」と思うようになりました。
しかし、コロナで亡くなった方々や、感染を防ぐために最期まで対面できなかったご家族の報道を見た時、また、最前線の現場に立たれている救急医が「遺書を書きました」と言っているインタビューを見た時、私の死に対する考えはまだまだイメージに過ぎず、現実感や覚悟がなかったことを痛感しました。 そのインタビューを見て、「遺書か、私も…」と考えてみましたが、とても怖くて書き出すことはできませんでした。しかし、私は「明日は生きていないかもしれない」ということがより現実となり、コロナにより、生と死をさらに見つめ直すようになりました。
アフターコロナの価値観と働き方
コロナを経て、人の価値観は変わっていくことでしょう。
2021年卒予定の学生に就職観を尋ねるアンケート調査(※)では、例年トップの「楽しく働きたい」との回答は今年もトップだったものの前年より減少し、「人のためになる仕事がしたい」と答えた人が増加したそうです。コロナの流行が学生の就活観に影響を及ぼしているとみられています。(※2021年卒マイナビ大学生就職意識調査、2019年12月1日~2020年3月20日)
また、医療業界の働き方や意識も変わってきています。
現在、私のもとに、病院からは「短時間の勤務でもいいので、医師や看護師を探してほしい」という相談、子育て中で仕事を休んでいた元医療従事者からは「働きたいが、どこかいい職場を知らないか」という相談がそれぞれ寄せられています。女性の社会進出、今年度の診療報酬改定の柱の一つである「働き方改革」に加えて、コロナの影響もさらに大きくなるとみています。
未来で「信頼」を交わそう
さて、冒頭の診療情報管理士の専門学校に話を戻しましょう。
私がオンライン講義をした生徒たちは、将来、アフターコロナの世界の医療現場で働くことになります。
これまで私は非常勤講師として、多くの学生と関わってきました。入学当初はほとんどの学生が、キラキラした目で「将来、信頼されるスタッフとして働きたいです!こんな病院で働きたいです!」と話し、意欲にあふれていますが、病院実習を終えるとそのキラキラ感が少なくなる傾向があるように感じます。病院実習で医療現場の現実を知ったり、診療情報管理士の試験や就職を前に緊張・不安を感じたりすることが影響しているのかもしれません。そうだとしたら、とても残念です。
コロナの影響で、医療者の離職や休職が増えていると聞きます。
事務長の皆さんにお願いしたいことがあります。キラキラした目をして実習に行く学生たちに、現場のみなさんの姿から「なりたい職業、働きたい職場」像をぜひ示してください。アフターコロナの医療の世界で、医療者として働くことに希望を持てるように。医療は「人」無くして、「心」無くして、存在しません。ぜひ、若い人たちが働きたいと思えるような職場を作って、病院の将来へ、医療の未来へつなげていきましょう。
私も専門学校でのオンライン講義を通して、未来の医療や介護、福祉を、いや日本を担っていくであろう若者たちに、精一杯向き合おうと気持ちを新たにしました。 信頼できる人財を送り出しますので、信頼される病院として待っていてください。
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