厚労省の再集計が裏付けた“病院損税”―消費増税の負担軽減、不公平感の解消どこまで―医療ニュースの背景が分かる

医師法に抵触しないけど初診時は報酬なし オンライン診療は普及するか

安倍晋三首相が10月15日、消費増税を2019年10月に予定通り行う考えを表明しました。すると、日本医師会の横倉義武会長はその2日後、消費税率を引き上げて社会保障の充実のための財源にすることは「国民との約束」だと、安倍首相の表明を支持するコメントを早速出しました。

政府は、リーマンショックのようなことが起こらない限り、消費増税を実施する方針です。社会保障の財源を確保できるというのなら、消費増税は医療界にとって歓迎すべきはずなのに、病院関係者の間には、今のままなら「高度急性期病院はやっていけなくなる」などと、むしろ危機感が広がっています。
<CBニュース記者・兼松昭夫>

「厚生労働省の二重三重の不手際だ。猛省を促す」「1%の利益があるかないかの中でわれわれは病院を運営している」

中央社会保険医療協議会の「医療機関等における消費税負担に関する分科会」が7月25日に開いた会合では、異様な雰囲気に会場が包まれました。

分科会のこの日のテーマは、「消費税率8%への引き上げに伴う補てん状況の把握結果について」。

消費税率が8%に引き上げられた2014年4月、医薬品や医療機器を医療機関が仕入れる際の負担増を和らげるために行った診療報酬の上乗せで、実際に負担増がどれだけ補填されたか、厚労省が行った集計結果が注目を集めました。

病院建て替えなら億単位の消費税負担

医療機関にとって消費税はとても悩ましい存在です。医療機関は、医薬品や医療材料などを消費税込みの値段で仕入れますが、消費税分を患者に請求しませんし、確定申告の際に仕入れ税額控除もできません。これは、医療機関が患者に提供する社会保険診療が税制上、「消費税非課税」とされているためで、仕入れ時の負担は医療機関が負担してきました。

医療機関にとってはこれが大問題です。頻繁に使う医薬品や医療材料を仕入れる際の負担はもちろんですが、例えば病院を建て替えるとなるともっと深刻です。消費税による負担は多くの場合、億単位に上ります。しかも消費税率を引き上げるということは、何もしないのに負担だけが増えることを意味します。

負担増に耐え切れず、病棟を建て替えたくても建て替えられないという病院が、いつか出てくるかもしれません。社会保障を強化・充実させる財源を確保するはずの消費増税が医療機関を窮地に追いやるとは、何とも皮肉な話です。

こうした負担増を和らげるため、国はこれまで、税制を見直すのではなく医療保険制度の中で対応してきました。2014年4月の消費増税の際には、診療報酬のうち初・再診料や入院料などの「基本診療料」を中心に点数が上乗せされました。

病院は一転、大幅な補填不足に

厚労省が今回、中医協の分科会に集計結果を報告したのは、2019年10月に予定されている次の消費増税への対応を話し合う際の参考資料にするためでした。

2015年11月に公表された前回の集計結果によると、2014年度の補填率(年間・1施設当たり)は、病院が102.36%、歯科を除く一般診療所が105.72%、歯科診療所が100.68%、保険薬局が86.03%でした。

補填率は、「税率引き上げに伴う負担増の相当額」に占める「診療報酬への上乗せ分」の割合なので、これが100%を超えていたら補填が過剰なことを、下回っているなら不足していることを意味します。この時の集計では、保険薬局への補填不足が目立ちますが、マクロではおおむね補填されているというのが厚労省の受け止め方でした。

ところが、今回の集計によると、前回と同じ2014年度の補填率は病院82.9%、一般診療所106.6%、歯科診療所101.6%、保険薬局88.6%。病院に対してはおおむね補填されているはずだったのに、今回は一転して大幅な補填不足です。

診療報酬による補填の状況は、例えば点数が上乗せされた報酬をどれだけ算定しているかによって医療機関ごとにも異なりますし、その後の診療報酬改定を経ても変わります。診療報酬による補填では、こうした状況の違いを踏まえて平均的な医療機関を想定しているので、ばらつきを完全になくすことはそもそも不可能です。

それにしても、どちらも同じ2014年度のデータのはずなのに、病院への補填率が2回の集計でこれほど大きく変化したのはなぜなのか。

厚労省によると、問題はどうやら、2015年の集計の際に使ったDPC対象病院の包括部分の収入データにあったようです。この時の集計では、ナショナルデータベース(NDB)から抽出したデータの入院日数を使って補填状況を割り出しましたが、複数月にまたがる入院の日数を誤って重複カウントしたため、病院の収入がその分、高く出てしまったということです。そこで今回の集計では、NDBのデータではなくDPCのデータを使ったと同省は説明しました。

「必ずどこかに不公平」

さて、厚労省はこの日、今回新たに集計した2016年度の補填率も報告しました。それによると、同年度は病院への補填率が85.0%だったのに対して、一般診療所の補填率は111.2%。ばらつきが一層目立ちます=図表1=。

図表1(厚労省「医療機関等における消費税負担に関する分科会」資料から抜粋)

2014年4月の消費税率引き上げの際、「病院は大幅な損税を抱えることになるのではないか」という声が、実は政府内にもありました。今回の集計がいみじくもそれを裏付けた形です。

ただ、一口に「病院」といっても種類や開設者によって状況は異なることも分かりました。病院の種類別の補填率は、精神科や特定機能病院などを除く「一般病院」が85.4%、「精神科病院」が129.0%。また、一般病院への補填率を開設者別に見ると、「医療法人」の92.6%に対し、「公立」では69.5%にとどまりました。

中医協の分科会と同じ7月25日に開かれた四病院団体協議会(四病協)の記者会見では、「話にならない」「病院の存続に関わる大きな問題だ」などと厚労省の対応に批判が相次ぎました。中医協の診療側委員でもある全日本病院協会の猪口雄二会長は、消費増税による負担増を診療報酬でカバーするのは「もう無理」と述べたほどです。病院への補填不足が4年以上にわたり見過ごされてきたのだから当然でしょう。

2014年4月の消費増税に向けて、診療報酬での対応の枠組みを中医協総会で話し合った際には、財源のほとんどを初・再診料に上乗せする内容の厚労省案に支払側が強く反発し、診療側と折り合えませんでした。結局、この年の2月5日、中立の公益委員の裁定によって決着した経緯があります。

この日の議事録を見ると、森田朗・中医協会長(当時)のコメントが印象的です。

「(医療機関の消費税負担に)診療報酬で対応しようとすることは、そもそも技術的に非常に困難」「どのような方法を採用するにせよ、現時点では必ずどこかに不公平な問題が生じてしまう」

まるで、今回の騒動を予見するような言葉です。

「診療報酬+税制」での対応案が浮上

次の消費増税まで1年を切り、医療機関の負担増をどう和らげるかは引き続き検討することになっています。厚労省は、基本診療料への財源の配分で対応するという基本的な枠組みは変えない方針で、財源を配分する際の根拠となる算定回数の見込みを精緻化するなど、補填率のばらつきの改善を目指します。

厚労省が8月末にまとめた2019年度の税制改正要望では、医療保険制度による手当ての在り方を検討する方向性を示しつつ、個別の医療機関や薬局への補填の過不足を解消できる税制上の「新たな措置」を求めました。

日医、日本薬剤師会、日本歯科医師会の「三師会」と四病協も、診療報酬で上乗せされている「仕入れ税額相当額」と実際の負担額に過不足があった場合、医療機関からの申告を踏まえて対応する税制上の仕組みづくりを要望しました。診療報酬に補填分を上乗せするこれまでの仕組みに、税制上の対応を組み合わせるという点は厚労省と同じです。日医の横倉会長は8月29日の合同記者会見で、こうした新たな仕組みの創設は「医療界の統一した意見だ」と強調しました。

2019年度に行う税制改正の内容は、与党の税制調査会が2018年末にまとめる税制改正大綱の中で明らかにされます。医療現場の不公平感を今度は払拭できるでしょうか。

※2018年10月下旬現在の情報を基に執筆しています。

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