「単価の低い療養病床こそ、地域包括ケア病床への転換による増収効果は高い」。わかっていても、地域包括ケア病棟への転換はハードルが高い…そう考えている療養型病院は少なくないのではないでしょうか。2019年7月に開催された「療養病棟からの地域包括転換対策セミナー」では、全国各地の病院経営支援に携わるエムスリーキャリアの福田陽子氏が、主に収益増の観点から導入による効果やポイントを詳しく解説。その一部をまとめました。
≪目次≫
・ 集患をめぐる競争が激化、療養型病院を取り巻く環境とは
・ 回復期リハ、地域包括ケア…どちらに転換すべき?
・ 収益増だけでなく、人件費にも注目を
・ 療養病床から地域包括ケア病床への転換のポイント
集患をめぐる競争が激化、療養型病院を取り巻く環境とは
2025年の慢性期病床の必要量28.4万床に対し、病床機能報告によると、2018年時点で慢性期病床を届出ているのは約33.3万床(速報値)にのぼります。在宅復帰を下支えする回復期のニーズが急増する一方、慢性期の病床が過剰になっている現状について、福田氏は「療養型病院を取り巻く外部環境は厳しさを増しつつある」と指摘します。
その理由として、福田氏が挙げたのは“他院との競争激化”“利益率の圧迫”の2点です。
日本慢性期医療協会(以下、日慢協)が2018年に実施したアンケートによると、看護職員配置25:1の医療療養病床(旧療養2)を持つ病院では、介護医療院への転換を検討している割合が約13%に留まります。
同協会の武久洋三会長は「25:1医療療養(引用者注:旧療養2)から介護医療院への転換を考えている施設は思っていたよりも少ない。日慢協では意識の高い施設が多いことから、機能強化を行おうと考えているようだ」とコメント。同アンケートでは看護職員配置20:1の医療療養病床を持つ病院の約9割が将来も現状維持を予定していることもわかっています。
アンケート結果を踏まえ、福田氏は「20:1が現状維持を続ける中、25:1も20:1にランクアップして加わってくれば、競合が増えることになる。医療区分2・3の患者さんの奪い合いが、今後ますます激化していくでしょう」と指摘します。
また、2018年度の診療報酬改定により、療養病棟入院基本料では看護職員配置の要件が20:1に一本化されました。旧療養2(25:1)を届け出ていた病院は看護配置を引き上げなければならなくなったため、診療点数の上昇を人件費の増加幅が上回り、利益率が圧迫されています。
福田氏によると、こうした動向の背景には療養病床の利益率の高さがあると言います。2017年度の福祉医療機構の調査によると、2017年の一般病院の利益率が1.2%なのに対し、療養型病院は4.7%と実に4倍近い値を示しています。「これだけ利益率が高いのであれば、少し負担を増やしてもまだ余裕があるだろう」という見立てが、前述したような入院料の再編・統合につながっている可能性が高いということです。
回復期リハ、地域包括ケア…どちらに転換すべき?
このように、療養病棟を持つ病院にとって今後の展開は決して楽観視できません。それでは、打開策としてどのような選択肢が考えられるのでしょうか。福田氏は、主に以下の4つが想定しうると言います。
- 地域包括ケア病棟・病床への転換
- 回復期リハビリテーション病棟・病床への転換
- 現状維持(医療療養病床)
- 介護医療院など介護保険適用施設への転換
医療保険適用施設としての存続を検討している病院にとって、4は自ずと除外されます。また、3は将来的にも一定のニーズがあるものの、前述したように生き残りをかけ競争が激化していくと考えられます。一方で、今後ニーズ増が見込まれているのが1・2です。
「収益という観点から考えると、回復期リハビリテーション病棟は出来高算定のため、確実な集患が見込めるのであれば大幅増収につながる可能性もあります。ただし、療養型病院では自院内の手術件数が少ない、という施設も珍しくないでしょう。その場合、前方病院に集患を依存することになりますから、近隣施設の状況もふまえ検討する必要があります。
福田氏
また、回復期リハビリテーション病棟への転換は病棟単位で実行しなければならないため、転換にかかるコストも小さくありません。せっかくセラピストを揃え病棟を丸ごと転換したのに、思うように集患できなかった時のリスクは大きいと言えます。
地域包括ケア病床もベッドコントロールを意識しなければならない点は同様ですが、疾患の制限がないため幅広い患者様を受け入れられるので集患を比較的にしやすいですし、病室単位で転換できるのでハードルが低いと言えます。まずは地域包括ケア病床から挑戦して、リハの対象患者が多いようであれば回復期リハビリテーションに転換するなど、ニーズを見極めながら段階的に機能転換をしていく選択肢もあるでしょう」
収益増だけでなく、人件費にも注目を
それでは地域包括ケア病棟・病床の導入により、どの程度の増収効果が期待できるのでしょうか。地域包括ケア病床の入院単価は平均すると1日あたり3万円弱ですから、療養病床からの転換であれば1ベッドにつき1日あたり1万~1万5千円程度の増収が見込めます(図4)。100床の病院なら、単純計算で1日あたり100~150万円の増収となるということです。
一方で、看護師の配置人数など要件を満たすため、追加の人件費といったコストが高額にのぼる可能性も福田氏は指摘しています。現在の配置状況を鑑み、利益とコストの両面から増収効果を見積もっておくことが重要だということです。
療養病床から地域包括ケア病床への転換のポイント
このように、地域包括ケア病床への転換は療養型病院にとって生命線ともなりえます。しかし、療養病棟から地域包括ケア病床への転換に成功している病院はごく一部だそうです。一体、なぜなのでしょうか。福田氏は「ベッドコントロール」と「人員の確保」がボトルネックになっている、と解説します。
療養型では平均在院日数が200~300日、短くて100日強という病院が多いでしょうから、地域包括ケア病床の60日回転に短縮した上で稼働率を維持するのは簡単なことではありません。
福田氏
たとえば、平均在院日数が200日の療養病床から転換する場合、同じ稼働水準をキープするためには3.3倍の新規患者を獲得する必要があります。前方病院からの集患や退院調整など、地域連携機能を大幅に強化する必要があるでしょう。
さらに、地域包括ケア病棟入院料1または2を算定するには在宅復帰率7割以上が要件となりますから、現在の患者さんには転院あるいは転棟していただくなどして患者層を入れ替える必要があります。また、“13:1および正看比率7割以上、夜勤2名体制(看護補助者はカウント不可)”の確保がネックとなるケースが多いですね。
こうした課題を解消するには、一体どうすればよいのでしょうか。福田氏によると、カギとなるのは「退院支援の重視」です。
療養型の病院では、事前に入院期間や目標を設定せず、患者様やご家族が希望する期間だけ在院する、というあり方が根づいているケースが少なくありません。こうしたケースでは、「院内で退院支援への意識が希薄になりがち」と福田氏は指摘します。しかし、地域包括ケア病床では60日という在院日数の制限がありますし、診療報酬においても退院や在宅復帰の支援が最重要項目として評価される報酬体系になっていきます。あくまでも患者様の医療ニーズに即していることが前提にはなりますが、院内外に対し「地域で生活できるよう支援していく」という姿勢を明確に打ち出し、“終の住処”という認識を払拭していく必要があるということです。
このように、療養病床から地域包括ケア病床への転換はハードルが高い側面も確かにあります。しかしながら、今のうちに中長期的な視点から打ち手をきちんと講じることができるか否かが、病院の未来を左右すると言えるでしょう。
福田氏
とはいえ、従来の体質を変えることは簡単ではありません。本来業務がある中で病床転換のプロジェクトを進めるのは負担も大きい。また、こうした院内全体にまたがる調整ごとでは第三者が入った方がスムーズなケースも少なくありません。もしお困りの際や疑問・不安があれば、ぜひセミナーやウェブサイトからお気軽にお問い合わせください 。
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<写真・文:角田歩樹>
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