2017年4月に着任した新院長のもと、7月から地域包括ケア病床が稼働した福井県坂井市立三国病院(105床)。人事異動や経営方針の見直しとともに、再スタートを切った2017年はまさに「改革」の年とも言えるでしょう。導入から約1年、医師たちの目には地域包括ケア病床がどのように映っているのでしょうか。長年、大学病院に勤めてきた飴嶋愼吾院長には同院の役割について、勤続の長い内科医・阿部和男先生(勤続20年以上)と整形外科医・吉川啓先生(勤続10年以上)には病床導入前後の変化について伺いました。
福井県坂井市に位置する、一般病床105床の公立病院。産婦人科や小児科といった地域医療を守り続ける一方で、経営赤字のため9年前から改革を実施。2017年7月には、一般病床43床を地域包括ケア病床に転換した。
内科、整形外科、救急科、産婦人科…公立病院こそ地域医療の中心に
――飴嶋院長は大学病院出身とお伺いしました。新たな環境にチャレンジしたきっかけを教えてください。
飴嶋氏:当院の前院長が定年退職を迎えるタイミングで、声を掛けていただいたのがきっかけです。近隣の大学病院で勤務をしていた時から、三国病院には内科医が足りないと聞いていましたから、わたしが専門とする呼吸器内科の知見も生かさなければならないと思っていました。いずれにしても、お声掛けいただいたからには責任を持って役割を全うしようと思い、三国病院へ移ることに決めました。
――院長に就任されて、まずはどんなことに力を入れましたか。
飴嶋氏:患者紹介や非常勤医の招聘といった、大学病院との連携強化です。新たなチャレンジという意味では、地域包括ケア病床ですね。わたしが着任したタイミングで導入は決まっていましたから、その病床を使っていかに経営していくか、着任当時から学びと実践を繰り返す日々でした。
――地域の公立病院ならではの注力ポイントはありましたか。
飴嶋氏:これは現在進行形でもあるのですが、地方は高齢化の影響が都心よりも顕著です。様々な合併症を伴った疾患、大腿骨や椎体骨折などに対応する整形外科のニーズが高く、救急を含めて、それらに対応できる体制を整えることは特に注力しています。一方で、産婦人科や小児科といった、若い層へのニーズも同じくらいに応えていかなければなりません。公立病院は地域が求めるニーズに応えてこそ、その意義が認められるものだと考えているので、手を入れなければいけない部分はまだまだ数多くあります。
――飴嶋先生が思う、公立病院の立ち位置とは何でしょうか。
飴嶋氏:大学病院などの高度・最先端医療を行う場所と、診療所や介護施設といった患者さんの日常生活に寄り添う場所、その中間に位置すると考えています。公私立を問わず全国にある200床前後の中小病院が同じ立ち位置にあると思いますが、公立病院こそ、その中心を担うべきでしょう。自院で治療を行いつつも場合によってはより高度な医療を受けるための手助けをしたり、介護施設や自宅でのケアもサポートできる存在であったりすることが、最も理想的な立ち位置なのだと思います。
医師たちが語る改革ビフォー・アフター
――長年にわたって同院にお勤めのお2人は、過去の様子もご存知かと思いますが、地域包括ケア病床の導入に伴い、どのような変化が起きましたか。
阿部氏:院内体制が見直され、スタッフ同士のコミュニケーションが増えたと思います。これまでは病棟となる3階と4階が科目別で分かれていて、階が違えば医師・看護師ともにほぼ初対面のように、それぞれが独立した存在になってしまっていました。病床転換後は、3階が一般病床、4階は地域包括ケア病床となったので、科目を問わないのはもちろん、スムーズな入退院を実現するための交流が生まれているのだと思います。
さらには、毎週のベットコントロール会議や、経営戦略会議をはじめとした委員会活動も活発になっています。135年以上の歴史の中では、わたしの父も当院で働いていた経験があり、昔のこともある程度聞いているのですが、最近は地域のニーズに応えられるよう、より積極的なアクションを起こせるようになったと思いますね。
――それ以外に起こった変化や、逆に意識しなければいけなくなったポイントはありますか。
吉川氏:これまで赤字続きの不安を抱えていましたが、収益という部分では正直、次元が違うと言えるぐらい伸びたのではないでしょうか。これは地域包括ケア病床の導入によって、漫然と長期リハビリになっていた人たちの入院日数に区切りが付きやすくなったことも影響していると思います。
気を付けているのは、一般病床から地域包括ケア病床に移る際は、病室や担当者が変わることになりますから、そこはしっかりと説明してご理解いただかなければなりません。慣れ親しんだ環境を維持するために、場合によってはベッドごとそのまま移動させることもあります。
もっとこの病床を生かして、より手厚いサポートをしていくのであれば包括的な診断・治療を専門とする総合診療医がいたら良いなと思います。もちろん、我々のような臓器別専門医も、地域から求められているプライマリ・ケアを学んでいく必要があると思いますので、医師の専門性が変化していくのかもしれません。
職員の意識改革が、ひいては病院経営につながる
――改めて、地域包括ケア病床を導入したことによる具体的なメリットとは何でしょうか。
飴嶋氏:やはり収益向上にはかなり大きなものがありました。その半面、より充実した体制を整えるために、非常勤医の雇用や既存職員の給与アップなども行いましたから、支出も一定数増えているのが現状です。そこはある意味、先行投資的な意味合いも強いです。とはいえ、以前は稼働率5割程度で推移していた病床稼働率も7割台にまで上がってきましたから、今後も水準を上げていきたいと思います。
――地域包括ケア病床の導入に際し、必要な要素とはどういったものなのでしょうか。
飴嶋氏:医師や看護師の意識改革ではないでしょうか。まずはスタッフ一人ひとりがスキルアップを図りつつ、外部組織との連携を強めることで、地域からのニーズにより幅広く応えられる体力を付けていかなければなりません。その結果、受け入れ患者数を増やすことにつながり、より安定した病院経営にも影響してくると考えています。
「稼働率が低い方が仕事も楽で良い」と考える人もいるかもしれませんが、そういった意識からも改革が必要になるはずです。病床転換から1年弱で経営改善の途中ではありますが、つぶさに効果検証をしていきながら、健全な経営のもとで地域ニーズに応えていきたいですね。
<取材・写真・編集:小野茉奈佳 / 制作:(株)デファクトコミュニケーションズ>
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