病院マーケティングサミットJAPAN Summer Seminar 2018 開催報告―病院マーケティング新時代(2)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がリレー形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。

病院マーケティングサミットJAPANは2018年7月21日(土)にSummer Seminar 2018を開催しました。
キーワードは「医療広告ガイドライン」。2018年6月1日、新たな医療広告ガイドラインが施行されました。大きな問題は、ホームページが正式に医療広告として位置付けられたこと。Summer Seminar 2018では、医療広告ガイドライン改正への対応と、攻めの広報を展開していくポイントをご紹介させていただきました。

連載vol.2では少しだけ、Summer Seminar 2018のポイントをプログラム順にご紹介したいと思います。

病院の情報発信で認識すべきこと

プログラム1:「生き残るための医療広報とは」小山晃英(京都府立医科大学 地域保健医療疫学)

医療者の情報発信が義務であると言わざるを得ない時代になったことは明らかです。そのとき、病院関係者は以下の点を認識し、行動していかなくてはいけません。

働きたいと思わせる病院になること

病院は患者さんが集まることはもちろんのこと、患者さんに医療を提供する医療従事者がいないことには成り立ちません。みなさんご存知のように、生産年齢人口はこのさき極端に減少していきます。生き残るためには集患だけではなくリクルートにも目を向け、働きたいと思わせる病院になることも重要です。

人間は必ずしも合理的な選択はしない

2017年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学リチャード・セイラー教授は「人間は必ずしも合理的な行動をしない」と述べています。それではどうやって行動を起こさせるのか?? ヒントになる学問領域として、海外ではBehavior Design、日本では仕掛学と言われるものがあります。これらに共通する定義は、(1)誰も不利益を被らないこと、(2)行動変容を強要するものではなく行動をいざなうこと、(3)仕掛ける側の目的(解決したい問題)と仕掛けられる側の目的(行動したくなる理由)が異なること―の3つのポイントがあります。これらを踏まえた情報発信をできるかどうかが、採用や集患にも影響してくるでしょう。

医療機関からの情報発信は再考する時代

2015年には第四次産業革命(別名、デジタル革命)とも呼ばれる時代に突入し、近年ますますWebを活用した情報発信が重要性を増してきました。今やWebへのアクセス数はスマホがパソコンを追い抜いたことも考慮する必要がありますし、ほかにも、今年7月にはGoogleが検索品質ガイドラインをアップデートし、医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く有益な情報が上位表示されることを評価するようになりました。

集患・採用・紹介を促進する病院サイト2指標

プログラム2:「スマホ時代の病院ブランディング戦略」 竹田陽介(株式会社ヴァイタリー 代表取締役)

現代では、ライフスタイルに急速に浸透した「スマホ」を使って病院webサイトを閲覧しています。最近ではwebを”オンラインのコミュニケーション機会”として捉え、メディア掲載に頼らず病院webサイトやSNSを活用した情報発信に積極的に取り組む病院も増えてきました。しかし、多くの病院webサイトはまだ十分に活用されておりません。今回は訪問ユーザー数とユーザー親和性に焦点をあてた病院webコンテンツの課題解決法をご紹介します。

訪問ユーザー数を増やす病院webコンテンツの作り方

病院の従来の知名度に依存している状態では、病院webサイトの訪問ユーザー数は変わりません。訪問ユーザー数を増加させるには、まだ自院を知らない人々にいかに情報暴露の機会を作れるか、つまり検索エンジンを介した偶発的訪問を増やすことが重要です。

そのためには「症状、病名に着目した患者目線の更新コンテンツ」が必要です。検索エンジン経由に偶発的なサイト訪問を惹起させるコンテンツは、医師による患者目線(症状、検査、治療)のまとめ記事(たとえば1記事3,000字以上で月4回ペースの更新)です。そして病院webサイトのコンテンツを更新した後、SNSを活用した情報拡散を行うことも重要です。

ユーザー親和性を上げる病院webコンテンツの作り方

ユーザー(患者、求職者)が知りたい情報は、病院内の「組織」「人」です。病院webサイトで最初に閲覧されるページの50%はTopページですが、2ページ目以降で見られているページの40%は診療科・部署紹介、医師紹介のページです。

患者に「ここで診てほしい」と思わせるには、医師の紹介も写真付きで詳しく紹介するコンテンツ、求職者に「ここで働きたい」と思わせるには、実際に働いている「人(診療風景、研修風景)」をいかに魅せるかが重要です。また紹介元の開業医に「ここに紹介したい」と思わせるには、丁寧な治療方法の紹介や実績の公開、業績集やスタッフ紹介も含めて、日頃の患者紹介への感謝の気持ちを伝えるコンテンツが必要です。

スマホ画面の先の「人(患者、医療職)」を意識した病院webコンテンツの企画・制作を通じて、ことで患者、是非自院webサイトのユーザー数、ユーザー親和性を改善していただければと思います。

保険医療機関が押さえるべき医療広告ガイドライン改正

プログラム3:「弁護士が解説する2018年医療広告ガイドライン改正」今井智一(今井関口法律事務所 弁護士)

従来は、医療法等の広告規制対象ではなかったwebサイト(病院、その他)が、本年6月1日の医療法や医療広告ガイドライン等の改正を機に、広告規制の対象になりました。
そもそも医療法等が規制対象としている「広告」の定義とはなにか?ということですが、2つの要件、つまり誘引性と特定性があれば広告とみなされます。今回の改正は、一部の自由診療(主に美容外科)における患者とのトラブル(webサイト記載の表現と実際に提供した医療の乖離)の増加が背景となっています。多くの病院が保険診療下とはいえ、広告規制の対象にはなりますから、webサイトについて心配されている医療機関がほとんどだと思います。

今回は病院webサイトでも広告可能事項が限定的に解除される「限定解除4要件」についてご説明します。

改正医療法及び同法施行規則では、次の(1)~(4)の要件をすべて満たした場合には,広告可能事項が限定的に解除されるとしています。

(1)患者等が自ら求めて入手する情報を表示するwebサイトその他これに準じる広告であること
(2)情報の内容について容易に照会できるよう、問合せ先を記載する等の方法により明示すること
(3)自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
(4)自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

保険診療のみの場合は、要件(1)(2)さえ満たせばOK!要件(1)(2)を満たすことは難しくないはずです。

そうすると、保険診療のみを行っている医療機関にとって重要なのは、『ネガティブ・リスト』に該当しないことが重要となります。

保険診療の面から考えれば、病院webサイトでは以下ネガティブ・リストの1)—8)の項目をしっかり注意してwebコンテンツを作成する必要があります。ウェブサイトが広告規制の対象となったからといって閉鎖的にならずに、医療機関からの情報発信は積極的に行うべきでしょう。

ネガティブ・リスト

1)虚偽広告
2)比較優良広告
3)誇大広告
4)患者などの主観に基づく治療内容や効果の体験談(いわゆるステマ)
5)治療内容or効果を誤認する恐れのある治療前後の写真(詳細な説明あればOK)
6)公序良俗に反する内容の広告
7)品位を損ねる内容の広告(費用を強調、医療内容と関係ない事項で誘引など)
8)他法令or他法令に関する広告ガイドラインで禁止される内容の広告(薬機法、健康増進法、景品表示法、不正競争防止法など)

少予算で効果的なコミュニケーションのための“ひと工夫”

プログラム4:「病院マーケティング実践論」松本卓(小倉記念病院 経営企画部 企画広報課)

ブランディングとは生活者との接点(ブランドタッチポイント)においてユニークで好ましいコミュニケーションの積み重ねを行うことです。
小倉記念病院ではマーケティング戦略のなかでコミュニケーションをとても重要視しています。でも使っているコミュニケーションツールはどこの病院でも利用しているようなものばかりです。
ではどうやって差別化するのか!? それは“ひと工夫”を積み重ね続けるだけです。その”ひと工夫”を少し紹介します。

ホームページ

・TOP画面では街で暮らす人々を紹介。地域に根ざし、患者さんの生活を大切にする病院であることをイメージしやすくなります。
・医師紹介は動画を使用。医師の雰囲気も含めて伝えることができます。

広報誌

・原稿で紙面を埋め尽くさず、ビジュアルブックのようなテイストで。
・裏拍子にはQRコードで特集した診療科の部長よりメッセージを動画配信。
・医療機関への郵送先は厚生局からの最新データを活用。


小倉記念病院の広報誌

市民公開講座

・チラシはデザイン会社を起用し、病院らしくないアイディアで。
・全市民センター・全老人クラブへチラシを郵送。
・開場から開始までの待ち時間は、PR動画を放映して有効活用。

などなど、予算が少なくツールが限られているなかで効果的な運用方法をご紹介しました。

参加者の皆さんは刺激を受けてくださったようで、前向きなコメントをいただきました。

  1. 広報って大変な事も多いんですが、やりがいや楽しさもたくさんあると改めて思いました。ありがとうございました。
  2. 日本の医療のマーケティングを高めなくてはダメだと思う。そのためには、成果が必要で業界を盛り上げていくためにもマーケティングが必要だと思います。
  3. まだまだ自分が足りていなかった部分の発見がありました。またロジックに考える大切さを再認識することができました。大変勉強になりました。ありがとうございました。
  4. みなさん、真剣で先を見据えていらっしゃるので、とても刺激を受けました。
  5. 初めてでしたが、とてもおもしろく、刺激になりました。また参加したいです。もっと頑張らなければという気持ちになりました。

好評を受け、11月にも特別企画として「病院マーケティング Autumn Seminar 2018」を開催します。ゲストには今回同様に弁護士の今井先生をお呼びし、医療広告ガイドライン改正についてお話しいただきます。テーマは「集患力を高める病院広報」です。
今回初めてご参加される方はもちろん、Summer Seminar 2018にご参加いただいた方にも、集患のノウハウについてより詳しく学んでいただける会となっています。ご興味を持たれた方はぜひご参加ください。

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