【質問者】クリニック事務長 Aさん
30代後半男性 医事課歴12年、クリニック事務長歴3年
新卒で病院やクリニック、介護老人保健施設(老健)を運営する法人に入職しました。入職してからの12年間は、病院の医事課で係長までステップアップし、2年前からはクリニックの事務長を務めています。最近、法人本部から「介護保険請求についても学んでほしい」と老健の事務長を勧められていますが、今後のキャリアについて悩みがあり、相談しました。
率直に言うと、できれば病院の医事課に戻りたい思いが強くなってきています。病院からクリニックに異動して、スタッフの管理や医師とのコミュニケーションなど学びも多かったのですが、医事課でレセプト業務や施設基準の取得などに関わっていた頃の働き方の方が性にあっていたと気付きました。
今、老健へ異動すると医事課から離れる期間が長くなるだけでなく、2年ごとの診療報酬改定についていけず、二度と病院の医事課には戻れないのではという不安があります。ただ、法人本部からは「キャリアアップのための異動」と聞いています。こんなとき、医事課に戻りたい思いは捨てて、老健の事務長就任を受け入れた方が良いのでしょうか。
【回答者】雪竹舞子(事務職専門コンサルタント)
ご質問ありがとうございます。ご希望の業務と、法人の方針との間にギャップがあり、悩んでいらっしゃるのですね。私からはジョブローテーションについての見解と、異動によるキャリアへの影響についてお話します。
まず、一般的なお話をさせてください。事務長に代表されるジェネラリストを目指したい方にとっては、ジョブローテーションによって法人内のさまざまな施設、部署を知ることができる環境は恵まれているかと思います。各部門の現場がわかる事務長なら、大きなプロジェクトを動かすときもスムーズに院内連携が取れたり、業務改善でも力を発揮できたり、ご本人はもちろん、病院にとっても貴重な人材になると思っています。
ここからは、Aさんの「医事課でキャリアを形成したい」という思いを踏まえて、老健に異動した場合のキャリアパスについても考えたいと思います。
まず「医療保険請求」と「介護保険請求」は内容がかなり異なりますし、介護施設から医療機関への転向はそれほど多くありません。加えて、施設基準の取得やレセプト業務に直結する診療報酬改定は2年ごと、介護報酬改定は3年ごとにありますから、一度、医療機関から離れて戻れるのかという不安を抱くのも致し方ないと思います。
ただ、医療機関の管理職に期待されているのはレセプト業務の実践スキルではなく、経営と紐づけた企画力と、業務の効率化やスタッフの管理といった現場のマネジメントです。5年以上など、長期で医療機関を離れてしまうと復帰は難しいかもしれませんが、Aさんほどの経験をお持ちであれば、2~3年ほど医療機関から離れたとしても医事課の管理職を目指せると思います。
むしろ、超高齢社会において医療・介護の連携は重要な課題ですから、長い目で見れば、介護保険請求を学ぶことは有用だと思います。法人本部の方の「キャリアアップのための異動」というお話もうなずける話です。とはいえ、Aさんがイキイキと働けるかどうかが最も大切なことです。医療機関に戻れる時期が不透明なことも考慮すると、キャリアの展望だけでなく、今現在のご自身の気持ちを整えることが必要だと思います。
その上で、医事課に戻りたい気持ちなど、今後のキャリア形成について考えていることを法人本部の方にお伝えしてみてはいかがでしょうか。ご勤務先としても、貴重な人材のモチベーションをいたずらに下げたいとは思っていないはずです。老健への異動を承諾するにしても、今回に限らず今後も折を見て希望を伝え、ご勤務先とのコミュニケーションを取っていくべきでしょう。
・ジョブローテーションが病院事務職にもたらすもの―千葉県済生会習志野病院 石井仁事務次長
・転職が“攻めの経営”にチャレンジするきっかけに―福岡輝栄会病院 小林敬一事務次長
・病院事務職キャリア相談室:ポスト満席で昇進見込めず…事務長職での転職は可能?
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 事務職紹介グループ
大学卒業後、企業にてBtoC営業とセミナー企画・運営に従事。兄弟が先天性の疾患を抱えていたことから、思い入れの強かった医療業界に飛び込むべく、エムスリーキャリアに入社。現在は、前職での営業経験も活かしながら「顧客ファースト」を信念にキャリアコンサルタントとして活動中。趣味はミュージカル・舞台鑑賞で、月1回の鑑賞を欠かさない。
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