女性事務職のキャリアをあきらめない、長く働く環境は自分でつくる ―嶋田病院 企画広報部部長 野々下みどり氏

救急医療の治療を強みに、がんや生活習慣病の早期発見・早期治療に取り組み、地域医療支援病院の指定も受けている医療法人社団シマダ 嶋田病院(福岡県小郡市、150床)。
病院創設から55年、2015年からの専門センター化構想をはじめ、設備投資にも積極的な同院で事務職として活躍しているのが野々下みどり氏です。野々下氏は2児の母でもありながら、医事課員から診療支援部、2017年4月からは企画広報部の部長へのキャリアアップを実現。また、事務職員としては院内初の産休育休を取得し、結婚や出産後の女性も働き続けられる環境を切り拓いてきました。そんな野々下氏に、職員同士でカバーしあい、長く働ける環境のつくり方について聞きました。

手に職をつけ、長く働くために選んだ病院事務職

―まずは、これまでのキャリアについて教えてください。
私は一般企業で営業職を経験後、当院の医事課に入職しました。手に職をつけて子どもが産まれても長く働きたいと思って、とりあえず女性に人気とうたわれていた医療事務の勉強をしている時に、偶然目に入った求人案内を見て面接に行ったことが当院に転職したきっかけです。医療事務の認定試験はすぐに合格して入職できたものの、2年ごとに改正される診療報酬、医療関連法規や複雑な制度など、求められる知識量に圧倒されて非常にギャップを感じましたね。当時はマニュアルや教育制度もなく、先輩の仕事を見よう見まねでやって、何とかこなしていました。その後、診療情報管理士の認定試験に合格し、診療情報管理課へ異動後、診療情報管理士指導者に合格、病院では診療支援部部長に。医事課、診療情報管理課、医師事務作業補助者、健診センターの管理業務を経て、今年の4月からは企画広報部へ異動し、新たな業務に挑戦させてもらっています。

―これまでのキャリアでのターニングポイントはありましたか。
2つあります。
1つは、診療情報管理士を取得したこと。子どもが生まれる前から通信教育を始めていて、ちょうど一人目の育休中に受験して合格しました。実は当院での産休育休取得者は私が初めてでしたが、出産しても働きたくて産後5か月弱で復職しました。ずっと家にいるのが苦手だったのもありますが(笑)。二人目の育休復帰から半年後には、当院がDPC対象病院になるために、診療情報管理士でもあった私に、院長から導入の責任者になるよう指示がありました。資格を取ったことで、その後も電子カルテの導入など、新しい仕事を任せていただけるようになり、資格が武器になったという自信がついてきました。また以前から医事課員の勉強会の場が少ないと感じていたので、資格取得をきっかけに日本診療情報管理学会や研修会など、院外へ情報収集に行けるようになったことが嬉しかったですね。

2つめは入職15年目、40歳手前で、医療経営を学びに九州大学大学院医学系学府へ入学したことです。当院はDPCの導入をはじめ、院長の指示を形にするのは得意でも、自ら課題や問題点を院長に提案し、行動するということは不得意だったように感じます。私自身、患者さんが高齢化する中で、このまま救急や急性期医療を継続していくことに危機感があったので、思い切って院外で学ぶことにしたのです。進学後は、今まで嶋田病院内でしか考えられなかった物事が、医療制度や日本経済の枠組みを踏まえて考えられるようになりましたね。
一番大きな収穫は、尊敬できる教授やさまざまな職種の同期とディスカッションする中で、自分がいかに井の中の蛙だったか、無知の知という境地でしょうか(笑)、何もできない、知らないということを思い知らされました。それは叩きのめされるというより、今までの古いものをすべて削ぎ落とせた、かえって清々しい気分になれる出来事でした。また、経営を学んだことで、起業された方や一般企業の方とも多く話すようになり、患者さんはお客様という原点に立ち返ることもできました。

早期に入院を学ぶ体制、レセプト期間の残業抑制…
病院の当たり前を塗り替える

―野々下さんは業務改善にも積極的に取り組まれていますが、そのモチベーションはどこから湧いているのでしょうか。
私の業務改善の精神は「めんどくさい」です。どうしたらこの作業を楽に、一発でできるかを考えていけば、巷にあふれる病院の当たり前も、きっと塗り替えられる。当院のような中小病院では、役割分担よりも何でもできる職員を増やしたほうが、業務効率が上がると考えました。

―マルチプレイヤーを増やすということですね。中でも若手職員への教育はどのように進めていますか。
若手職員にはカルテを読み解く力を身に付け、いち早く戦力になってもらいたいので、疾病を学ぶことから始めてもらいます。当院をはじめ、多くの病院は外来から研修が始まると思いますが、早めに入院業務に挑戦した方がいいのではと感じます。私も入職間もない頃に入院業務をしながら、本で学んだことがレセプトで実践できてストンと腑に落ちたのを覚えています。カルテには入院の原因やきっかけから医師の診断、それからの治療過程まで書いてあるので、外来よりも病気の流れがつかみやすい。実際、今の日本人に多い病気、たとえば生活習慣病である高血圧や糖尿病から、脳梗塞や心筋梗塞などになることも多く、検査、診断、治療法がつながるので、点で学ぶよりも線で教えたほうがDPC決定やレセプト点検、症状詳記などに役立つと思います。

―若手職員に限らず、全職員がマルチプレイヤーになるための教育方法はありますか。
業務を明文化、手順化することはもちろん、教育係をどんどんバトンタッチする仕組みがおすすめです。私がAさん、Bさん、Cさんと順々に教えるのではなく、私がAさんに教えたら、AさんはBさんに、BさんはCさんに伝えていく。この仕組みであれば、指導者不在のリスクも減りますし、お互い集中して教え合うようになります。

―こうした取り組みの結果、現在のレセプト期間中の残業はどのくらいなのですか。
現在、当院医事課のレセプト期間中の残業時間数は一人当たり1時間以内です。残業を抑えるのは、そもそも院長から「残業は当たり前ではない」と言われているのもありますが、何より、私自身が早く帰りたいと思っていることが影響していると思います。今、当院で子育て中の女性は私を含めて数名、もちろん予備軍もいますので、部下のためにも早く帰れる環境をつくっておきたいんです。残業が当たり前の環境だと、結婚や出産といったライフイベントを迎えた女性は働き続けられませんからね。

考え方次第で、行動が変わる

―最後に、スキルアップに悩む事務職にメッセージをお願いします。
とりあえず資格を取得するのも、院外へ勉強に行くのもひとつの手。決断して行動するには勇気がいりますが、自分の人生、自分次第でどうにでも変えられます。蒔いた種はいつか芽が出ますよ。私は思い立ったら即行動タイプなので、今、悩んでいる方にアドバイスするなら、漠然と行動するのではなく、最初に自分がどうなりたいのかを描くことをおすすめします。それが分からないから悩んでいる、という方は現状分析をしてみてください。目標と現状を比べたとき自分に何が足りないのかを考えて、必要な行動を起こせばいいと思います。そのギャップから、自分はどうしたらいいのか、どんな勉強をしたらいいのかは、自然に見えてくるのではないでしょうか。

キャリアがうまく描けない方は、自分が所属する病院でどのように活躍したいのか、誰誰さんみたいになりたいとか、いや自院だけではなく幅広く活躍したいとか、出来るかどうかではなく自由に自分と見つめ合って、どんな自分になりたいのか、どんな自分だったら好きか、考えてください。私も以前の上司に「どこの病院でも通用する病院事務職」を目指せと言われたことがあります。自分自身をベンチマークしてみれば、自然と道は開けるのではないでしょうか。

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