多くの病院は医師の確保に頭を悩ませていますが、地方の公立病院は顕著です。公立病院は経営難や薄給のイメージがあり、ましてや中小病院となると知名度も低く、医師採用における苦労は尽きません。人口4万人の街にある加東市民病院(兵庫県、139床)も、そんな病院の一つでした。しかし同院は、1年半で3人の医師を招聘することに成功。2年間で4億5000万円の医業収支改善も果たしました。
一連の成果を生んだのが、採用担当・村上計太氏(経営企画主査)による、院外の関係者をも巻き込んだ積極的な採用活動にあったようです。同氏に話を伺いました。
(取材日:2018年10月)
1年半で働き盛りの医師3人を採用
―貴院について簡単に教えてください。
村上氏
当院は兵庫県の内陸部にあり、急性期病棟と地域包括ケア病棟を持つ中規模病院です。そして当院のある加東市は人口4万人の街で、市としては小さめですが、高齢化率は26.1%で全国平均(26.6%)より少し低い程度です。
アクセスの面では神戸市、大阪市からは車で1時間程度、電車とバスだと神戸駅から90分ほどの距離で、そう遠くはありません。しかし人口10万人あたり医師数は、神戸市の3割以下、全国平均の約半分です。
―そうした状況でも、医師採用に力を入れ始めてから成果が上がっているそうですね。
そうですね。2017年からの1年半で、5人の医師が面接に応募してくださり、そのうち3人が入職してくださいました。30代から50代まで、まだまだ働き盛りの方々です。
いずれの医師も兵庫県での勤務を希望している方でしたが、県内には神戸市などの大きな都市がありますし、医師によっては京都府・大阪府・兵庫県の広範なエリアで検討していた方もいます。それでも当院を選んでくださったのは大変ありがたいですね。
事実をスピーディーに分かりやすく
―京都・大阪・兵庫はいずれも大きな都市があります。その中から貴院を選んだのはなぜなのでしょうか。
どの医師に対しても言えることですが、無理に良いとこばかりアピールしても仕方ないと思ったんですね。だから、当院の現状を包み隠さず、ただし念入りにご説明しました。具体的には、なぜ医師を募集していて、なぜその医師に来てもらいたいのか、そしてお任せしたい業務内容は何なのかなどです。若い方だったので、当院の医師の平均年齢が高いことも念のためお伝えしました。そういうことをお伝えしていたら、興味を持っていただけたんです。
逆に、医師から新しい外来や手技などの提案を受けた場合、「始めること自体は良いのですが、この地域だと患者が少なくて物足りないかもしれません」といったこともお話しています。その医師は入職に至りませんでしたが、過度な期待を持たせてしまうよりは良いと思います。
―医師の興味を引くために「良いことを言わなければ」と思いがちですが、ありのままを伝えるということですね。ほかに心掛けていることはありますか。
医師採用が最優先ですから、問い合わせへの返事をすぐにします。できれば1時間以内、遅くとも24時間以内ですね。特に紹介会社からの問い合わせは、早く返答するほどエージェントが動きやすくなります。その分、当院を積極的に紹介してくれるでしょう。
返答内容も、医師にイメージしてもらいやすいように心掛けています。たとえば、インセンティブ手当への問い合わせがあった場合、その医師の専門科も踏まえて、見込まれる件数や、想定される収入アップ幅などをお示ししています。こういったものも、24時間以内には出していますね。
「ウリがない」から「ウリをつくる」へ
―以前から採用は順調だったのでしょうか。
そもそも採用はあまりせず、大学医局から派遣してもらっていました。しかし、徐々に派遣もなくなってしまったのです。いまは大学医局も医局員の確保で苦労していて、人気のない関連病院は維持しにくいと聞きます。結局、医局派遣にしろ、自院採用にしろ、医師が働きたいと思えるようなウリがないと来てもらえないのです。
ところが、当院には医師に対するウリがありません。中小病院でコモン・ディジーズの疾患が多く、手術が多いわけでもありません。ましてや臨床研修病院でもなく、若手医師が集まる土壌もない。そうすると、院内の活気も乏しくなりますし、マンパワーも不足しますし、中堅の医師もなかなか来たがりません。
だから、採用と言っても何をすれば良いのか分かりませんでした。自分たちでは採用できないから、大学の医師にお願いしていたわけで。もうとにかく、やれることは何でもやろうという気持ちでしたね。可能性がわずかでもあるなら、採用の手段をどんどん増やしていこうと。その一つが民間のサービスでした。費用がかかりますが、大学の寄付講座がなくなることを考えれば、十分にまかなえる範囲だと考えたのです。
その中で当たりだったのが、医師採用アウトソーシング(OS)サービスです。利用3か月目で面接が1件あり、そのまま入職までこぎつけたんです。通常は5~6か月かかるそうで、運もあると思います。ただ、そこから何件か面接を組めるようになっていきました。
―貴院はウリがないと言っていましたが、医師たちは何に魅力を感じたのでしょうか。
実は、採用を進めていて分かったのが、地方で中小の公立病院でもウリはつくれることです。たとえば当院は、週5日勤務しないと常勤医として認められていませんでした。それを、院内外の関係各所に掛け合い、週4日でも常勤扱いできるようにしてもらいました。他にも、冒頭の2府1県で探していた若手医師のときは、交通費の支給で規定変更に応じてくれています。
―周囲を説得して、ルール自体を変えたのですね。そこまで熱心に活動し始めたきっかけはあったのでしょうか。
医師が求める4大条件というものを知ったことですね。医師採用OSのセミナーで学んだのですが、転職する医師の多くが(1)年収、(2)キャリア、(3)ワークライフバランス(WLB)、(4)アクセス―を求めているそうです。これらを当院に当てはめて考えると、勝負できるのはWLBだけ。セミナーに参加する前は「規定があるし、週5じゃないと…」と思っていましたが、WLBで勝負すると決めたおかげで、そこに全力を注ぐことができました。とにかく、変えようとする努力を怠らないことが大事なんだと痛感しています。
インセンティブ手当で売上増 赤字6.5億円を大幅改善
―公立病院の6割が赤字という調査結果もありますが、貴院では収支が改善しているとか。
2015年に医業収支で約6億5000万円の赤字でしたが、2年目で売上が35.6%増加し、その後も順調に伸びています。2018年度にはなんとか経常収支の黒字化を達成できたらと考えています。
当院の経営健全化基本計画では、医師の確保による医業収益向上を最優先課題に位置づけてきました。それでも年間1名増の計画です。実際は3名も入職してもらえたのが大幅な改善に寄与しましたね。
―医師数名の増員で、収支がそこまで改善するのでしょうか。
院長とわたしの認識では、インセンティブ手当が成功要因だと感じています。忙しい現場ですが、手当があることで前向きになってもらえますし、手術や入院を増やす動機づけにもなって医業収益増につながるからです。
それと、インセンティブ手当の導入で支出が増えると思われるかもしれませんが、基本給を下げて、頑張れば従来よりも給与が上がる仕組みにしていますので、予算の総額はそれほど変わらないのです。
頑張っても頑張らなくても同じという環境ではなく、頑張った人を相応に評価できるようにして、程々に働いた人には程々の評価をするということですね。
収支改善は、診療体制が整わないことには始まりません。それがようやく整い始めました。 最終仕上げとして、次は医事課を強化して収支管理等に力を入れたいと考えています。特にそうした方面に明るい医事課長を採用できれば、黒字化できるはずです。
病院・行政・議会と採用現場をつなぐ
―今後の抱負を教えてください。
民間病院に比べると、公立病院は行政や議会との兼ね合いもあり、病院の一存で決められないことも多いんですよ。そこにもどかしさを感じることもあります。しかし、今はそんなことを言っていられる状況ではありません。幸いなのは、院長が意欲的で、市長も医療に理解がありますし、市議会も同様です。そういった方々に、採用現場のニーズをしっかり伝えるのがわたしの役割です。自分が一歩踏み出せるかどうかで地域医療の存続が掛かっている――。大袈裟かもしれませんが、そんな心持ちで動いています。
稼働できていない病床もまだありますし、これまで以上にオール加東市で医師を迎え入れていきたいと思います。
<取材・写真:大村圭・今城慶太・柳牛寛行、文:塚田大輔>
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