高崎健康福祉大学 健康福祉学部 医療情報学科 4年 木村研究室
花輪雪乃
松本静流
上編
・はじめに
・高齢化率と当期純利益の関
・人口当たり病床数と黒字病院の割合における相関
・人口当たり医師数と黒字病院の割合における相関
中編
・超高齢社会がもたらす経営難への打開策を探る
・認知症治療病棟入院料1への転換シミュレーション
下編
・地域包括ケア病棟への転換シミュレーション
・終わりに
地域包括ケア病棟への転換シミュレーション
続いて地域包括ケア病棟について考える。
地域包括ケア病棟の導入病院数については秋田県が11病院、群馬県が12病院であり同等数であった。
平成25年度と、地域包括ケアが新設された平成26年度の当期純利益額の差額を見ると、導入病院では秋田県は11件中7件(64%)が前年よりもプラス、群馬県では12件中6件(50%)が前年よりもプラスとなった。導入してない病院では秋田県で49件中21件(43%)が前年よりもプラス、群馬県では86件中38件(44%)が前年よりもプラスとなった。
前年の当期純利益額と比較すると、秋田県では地域包括ケア病棟を導入した病院では前年よりもプラス、導入していない病院では前年よりもマイナスになった病院が多く見られた。この傾向が診療報酬の面からもみられるか、50床30日分を想定した地域包括ケア病棟と一般病棟で入院した場合の入院料を比較した。
(1)一般病棟入院基本料 | |
7対1 | 1591点 |
10対1 | 1332点 |
13対1 | 1121点 |
15対1 | 960点 |
(2)地域包括ケア病棟 | |
地域包括ケア病棟入院料1 | 2558点 |
地域包括ケア入院医療管理料1 | 2558点 |
地域包括ケア病棟入院料2 | 2058点 |
地域包括ケア入院医療管理料2 | 2058点 |
看護職員配置加算 | 150点 |
(3)リハビリテーション | |
運動器リハビリテーション料I | 185点(1単位) |
脳血管疾患リハビリテーション料I | 245点(1単位) |
早期リハビリテーション加算 | 30点(1単位につき) |
初期加算 | 45点(1単位につき) |
7対1 | 10対1 | 13対1 | |
1日点数 | 1591点 | 1332点 | 1121点 |
入院基本料 | 238,650 | 199,800 | 168,150 |
リハビリテーション | 49,608 | 49,608 | 49,608 |
合計 | 288,258 | 249,408 | 217,758 |
患者1人1日当たり | 19.2 | 16.6 | 14.5 |
7対1・10対1 | 13対1 | |
1日点数 | 2558点 | 2558点 |
入院基本料 | 383,700 | 383,700 |
加算 | 22,500 | ― |
合計 | 406,200 | 383,700 |
患者1人1日当たり | 27.1 | 25.6 |
東北大学大学院藤森らの研究より、地域包括ケア病棟に入院する症例は上位から大腿部近位部骨折が50%、誤嚥性肺炎が20%、脳梗塞が15%となっている。それらの内訳から一般病棟において入院料、1日2単位分のリハビリの点数を算出し、比較した。大腿部近位部骨折には運動器リハビリテーションⅠ(1単位185点)を適用した。脳梗塞には脳血管疾患リハビリテーション料Ⅰ(1単位245点)を適用した。
運動器リハビリテーション、脳血管疾患リハビリテーション、いずれのリハビリテーションにも早期リハビリテーション加算(1単位につき30点)を1日当たり2単位、最大である30日分取得したと想定し所定点数に加算した。また運動器リハビリテーション、脳疾患血管リハビリテーションいずれのリハビリテーションにも初期加算(1単位につき45点)を1日2単位、最大である14日分取得したと想定し所定点数に加算した。
地域包括ケア病棟においては7対1及び10対1を取得している場合は、看護職員配置加算(1日150点)を所定点数に加算した。
7対1 | 10対1 | 13対1 | |
差額 | 7,863 | 10,453 | 11,063 |
これらのリハビリテーションや加算を合わせて患者1日1人当たりの入院料を算出した結果、いずれの看護配置でも地域包括ケア病棟の入院料が高く、それぞれ7対1では7900円、10対1では10500円、13対1では11100円であった。
これらの結果をふまえて、地域包括ケア病棟に病床を転換した場合に出る年間差額をシミュレーションした。
年間差額 | |||
7対1 | 10対1 | 13対1 | |
40床転換 | 92,477 | 129,773 | 160,157 |
50床転換 | 115,596 | 162,216 | 200,196 |
60床転換 | 138,715 | 194,659 | 240,235 |
1病棟40床の病棟を5病棟所有している病院であれば、そのうちの1病棟を地域包括ケア病棟に転換したとすると、年間で7対1の病棟では9247万6800円、10対1の病棟では1億2997万2800円、13対1では1億6015万6800円の増収が見込まれた。
以上のことから、一般病棟だけでなく、地域包括ケア病棟も導入した方が利益向上を期待できる。
ただし、地域包括ケアは医療行為が包括診療であるため、差額を上回る医療行為を行う症例を入院させる病院の場合は一般病棟として一般病棟入院基本料を選択する方が良いと考えられる。
終わりに
秋田県と群馬県を比較した結果、65歳以上人口当たり療養病床が多い方が黒字経営をすることができる。高齢化に伴い、経営が厳しい病院では一般病床から療養病床への転換をすることで経営向上が期待できる。
病院経営は、医療政策で厳しくなる方向に誘導されているため、精神病棟では病棟の一部を認知症治療病棟に転換すること、一般病棟では病床の一部を地域包括ケア病棟に転換することで高齢化が進む中で経営向上への一つの手段として期待される。
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