多くの医療機関が赤字に陥っている昨今。病院経営はかじ取りが難しい時代となっています。健全経営を続けるためにはどのような点に留意していく必要があるのでしょうか。医療機関の経営コンサルティングに携わる専門家が、事例とともに赤字経営になりやすいポイントと、解決策について解説します。
第3回目の事例は集患に課題がある急性期病院です。
解説者:加藤隆之氏 株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員/中小企業診断士/経営学修士(MBA)
目次
C病院(199床の急性期病院)の事例
【基本情報】
- 東京都郊外にあり、病床数は199床(一般病床159床、地域包括ケア病床40床)
- 二次救急
【補足メモ】
- 整形外科の病院として、地域に密着した病院運営をしてきた
C病院で起きている経営課題
「今日も病床はガラガラじゃないか!どうにかして患者を増やせ!」
院長が運営会議の場で、職員たちに言い放った。しかし院長の権幕とは裏腹に、職員たちは下を向いたまま反応しない。「いつものことだ」というように、この時間をやり過ごしている様子だ。
以前は救急車を積極的に受け入れ、多くの手術をしてきたC病院だが、ここ数年はなぜか救急搬送が減ってしまい、代わりに軽度な骨折や他院からの急性期を脱した患者の受け入れが増えた。そのせいで病床稼働率は低迷し、手術件数も激減。赤字経営への一途をたどっている。
集患の課題は今に始まったことではないのに、依然として幹部から職員に具体的な対策の指示はない。病院ホームページはここ数年更新されておらず、これまで行ってきた広告宣伝と言えば、電柱や地域のショッピングモールに看板を出しているくらいのものだ。地域連携室はあるものの、紹介患者獲得のための他院への“営業活動”は皆無で、職員は「地域包括病床の退院支援こそが、自分たちの仕事である」と信じている。地域の病院との関係づくりのためにしていることといえば、関係施設にお歳暮を贈っているくらいだろうか。
職員からは「『病床を埋めろ』と言われても、うちはそもそも急性期をやるのか、回復期をやるのかもよくわからない状態なのに……」とため息交じりの声が聞こえてきた。
C病院の経営を改善するヒント
- どんな患者を増やしたいのかを明確にする
- 課題に対して「誰に対して」「何を」「どういった方法で」アプローチするかを考える
【解説】
急性期?回復期? 集患に取り組む前に、まずは経営方針を明確に
院長から「どうにかして患者を増やせ」と言われているC病院。場当たり的に集患の取り組みをしても効果は限定的なので、まずは、病院経営のためにはどんな患者を増やすべきなのかを検討することが必要です。
職員の声にもあるように、これからも急性期にこだわるのか、回復期やほかの機能への切り替えを検討するのか、という方針を定めないことには、集患対策も進めようがありません。方向性を定め、周知するのは経営層の役目です。
急性期にこだわるなら、集患対策は手術症例を紹介してくれるクリニックとの関係性強化や救急隊へのアプローチが必要ですし、回復期で他院からの紹介を増やしたいということでしたら、急性期病院や在宅診療に力をいれている医療機関、さらには高齢者住宅、地域包括支援センターなどとの関係性を強化した方がいいでしょう。
「どんな患者を増やしたいか」によって、アプローチの方法は変わる
集患対策で重要になるのが、マーケティングとそれをふまえた広報戦略です。
マーケティングというと小難しく感じるかもしれませんが、
- 課題(目的)は何か
- その解決のために、「誰に対して」「何を」「どういった方法で」アプローチするか
という点を押さえていただければと思います。 具体的には、以下の表のような型を使って検討していきます。
例えば「地域から入院に繋がる外来患者を増やしたい」ということでしたら、地域住民にアプローチする必要があるということが確認できました。
次に、手法の具体的な検討に入ります。「どういった方法で」に書いた手法について、それぞれのコストのほか、「集患」「認知・ブランディング」への効果をふまえ、比較検討してみましょう。
以下は私が考えた例です。効果については、実施レベルによっても変わりますし、測定が難しい面もあるため、あくまでも主観で記載しています。地域や施設によって効果は異なるので、ぜひ自病院に置き換えて考えてみてください。
C病院のように、昔から掲載している電柱広告をずっと継続している病院も多いと思いますが、「効果がいまいちわからない」という声もよく聞きます。アナログ広告は、効果測定が難しく、掲載を取りやめた場合の影響が見えにくいことから、中止の判断が難しいのでしょう。しかし、今は表示回数やクリック数などで効果が測定できるネット広告もあります。集患の目的によっては、予算をかけずに院内にチラシを掲示するだけで高い効果を発揮する手法もあるかもしれません。
職員で知恵を絞りながら、集患対策・広報を見直してみてはいかがでしょうか。
また、マーケティングに基づく課題へのアプローチは、集患以外の経営課題にも有効です。
職員の離職が課題なら、対策として「職員」に対する「病院の理念の浸透」「コミュニケーションの活性化」「帰属意識を育む取り組み」などが考えられますし、医師の採用が課題であれば、「医師紹介会社」や「大学医局」に対して「営業活動を強化する」というような考え方になります。
自院の経営について漠然とした課題感を抱えていて、「何か対策をしなければ」と思っている場合は、まずは課題を整理し、「誰に対して」「何を」「どういった方法で」解決するのかを明確にした上で着実に取り組みを進めていきましょう。
【筆者プロフィール】
株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員 加藤隆之
中小企業診断士 経営学修士(MBA)
「事例でまなぶ病院経営 中小病院事務長塾」 著者
病院専門コンサルティング会社にて全国の急性期病院での経営改善に従事。その後、専門病院の立上げを行う医療法人に事務長として参画。院内運営体制の確立、病院ブランドの育成に貢献。現在は日本M&Aセンターで医療機関向けの事業企画・コンサルティング業務等に従事する傍ら、アクティブに活躍する病院事務職の育成を目指して、各種勉強会の企画や講演・執筆活動を行っている。
病院経営に関するご相談、事業承継に関するご相談は、
株式会社日本M&Aセンター(https://www.nihon-ma.co.jp/)まで(代表:0120-03-4150)
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