皮膚科・美容皮膚科などを展開する「千里中央花ふさ皮ふ科」(大阪府豊中市)。花房崇明院長は、5年前のクリニック開業時から自動精算機・ウェブ問診の導入などDXの推進に取り組んできました。中でも、発注漏れ・消費期限切れに悩んでいた在庫管理の自動化は効果が大きかったといいます。
在庫の重さを検知し、自動で管理・発注ができるシステムの導入は、クリニック経営にどのような影響を与えたのでしょうか。失敗から学んだ、DX推進時の注意点も伺いました。
目次
クリニックの規模が大きくなるにつれ、在庫管理が負担に
――クリニック開業以来、DXに取り組んでいらっしゃるとお聞きしました。
日本は人口減少社会ですから、当然働き手も減っていきます。少数精鋭の優秀な運営体制で、多くの患者さんを対応できるようにするには、いかに業務効率を上げるかが重要になりますよね。
当院は開業当初、経費削減という名の下に、看護師も雇わず私1人であらゆる業務をこなしていました。自分だけで様々なことを抱え込んだ結果、次第に疲弊してきました。
医師が担わなくてもいい業務は看護師や看護助手、医療事務の力を借りて、任せていくべきですし、外注化も進めたい。自然と「人間がしなくてもいい業務はAIに」と考えるようになりました。
電子カルテやペーパーレス化はもちろん、自動精算機、ウェブ問診システム、電子マネーなど積極的に導入しています。
――中でも、発注・在庫管理の自動化はプラスの影響が大きかったそうですね。以前はどのような課題を抱えていたのですか。
5年前の開業以来、スタッフ数は江坂駅前花ふさ皮ふ科の分院スタッフ・非常勤医師も入れると約50人、受診患者数は2院で月間約6000人(保険診療・自費診療合計の延べ数)に拡大しました。規模が大きくなるにつれて、発注・在庫管理の様々な問題が表面化してきたのです。
そもそも開業当初、私が一人で在庫管理をしているときからかなりの負担で……。
それまでは病院勤務医でしたので、勤務先でもアルバイト先のクリニックでも「ガーゼ・針がない」ということはありえなかったのですが、開業してその状況を維持することがいかに大変か痛感しました。
「消耗品や化粧品の在庫を切らしてしまったらどうしよう」という不安が常につきまとい、かといって過剰に購入すると大量の消費期限切れの資材を生み出してしまう。自分で管理することに限界を感じ、看護師や医療事務のスタッフに任せるようになりました。
しかし、スタッフも本来の業務がある中で在庫管理をするわけです。在庫管理に関わる人が増えてくると「◯◯さんが発注したと思っていた」というように、責任の所在も曖昧になってきて。必要な資材の在庫が切れてしまい、冷や汗をかく日が何度もありました。
在庫管理の仕組み化ができていないことも含め、院内で起きるすべての問題は院長である私の責任なのに、スタッフに「ちゃんと管理しておいてよ!」と言ってしまい、職場の雰囲気を悪くしてしまったことも。そんな積み重ねがスタッフの離職につながったこともあったと思います。
在庫の重さを検知し、自動で管理・発注するシステムを導入
――そこで、発注・在庫管理システムの導入を検討したのですね。
導入したのは「スマートマットクラウド」という、在庫の重さを検知して、自動で管理・発注するシステムです。
実はそのサービスを開発・販売している会社の代表が中学・高校時代の親友で、開業当初からサービスの話は聞いていました。クリニックの規模がある程度大きくなって、「看護師や医療事務が、本来の業務以外に時間を使うべきではない」と思うようになり、本格的に導入を考え始めました。
――導入の決め手は何でしたか。
まず、スタッフが在庫管理にかけている時間分の人件費と、システム導入にかかるコストを比較しました。
その上でスタッフに「在庫管理システムを導入しようと思っているんだけど、もしその費用分を給与に上乗せしたら、在庫管理全部やってくれる?」と尋ねてみたんです。そうしたら皆が口を揃えて「嫌です」と答えました(笑)。
発注・在庫管理業務は時間がかかることだけでなく、ミスをしたときの責任が大きいことも負担になっていたようです。スタッフたちの「システムに任せられるなら助かる」という声が後押しとなり、導入を決めました。
――実際に導入してみていかがですか。
自院に合わせてある程度カスタマイズが必要なので、当院に最適な設定が固まるまでに多少時間はかかりました。最初はスタッフも慣れず、効果を疑問視する声も挙がったのですが、導入から数ヶ月後に「スマートマットを解約したら困る?」と尋ねると、「とても助かっているので、解約しないでください」と返ってきました。これまで月約12時間かけていた在庫管理をスマートマットに任せられるようになり、価値を実感しているようです。
システムの改良が重ねられ、自動発注先として連携できる企業が増えてくるなど、使い勝手はよくなってきています。今では、重さで管理できるものはすべてスマートマットに置き換え、約80種類の資材を管理しています。
――在庫管理業務の時間が減り、働き方改革にもつながっているのでは。
そうですね。当院には小さなお子さんのいるスタッフが多いこともあり、スタッフたちは「できるだけ残業はせず、効率的に働きたい」と思っています。
それでも重症の患者さんの対応などで、医療機関としてどうしても残業をお願いせざるを得ない、という事態は起きてしまう。しかし、少なくとも本来業務ではない在庫管理での残業はなくなりました。その点でも、導入の価値はあったと思っています。
開業当初は、急なDX推進にスタッフが反発
――これまでDXを推進する際にうまくいかなかったことはありますか。
開業当初はスタッフの理解を得ないまま見切り発車で導入して反発される、ということを何度か経験しました。
たとえば自動精算機。「絶対に導入した方がいい」と思ったので、スタッフに相談せず導入を決定。スタッフに「絶対便利だから、とりあえず運用してみて」と伝える、というようなことをしていました。
IT化といっても、導入してすぐに負担が軽減されるわけではありません。事前にルールや運用方法を決めなければならないし、患者さんへの説明も必要です。当然スタッフには「なんで導入したの?これまでの精算方法で十分現場は回っていたのに」という不満が生まれますよね。
当時は「スタッフの負担も減るし、患者さんにも喜ばれるし、こんなにいいものを導入したのに、なんで反発するんだよ」と思っていましたが、何度か失敗を繰り返して反省しました。
IT化と言っても結局扱うのは人です。今は、事前にスタッフに患者さん・スタッフのメリット、必要な準備や運用方法を丁寧に説明するようにしています。
――他のクリニック経営者にも起こりえそうな失敗ですね。
特に駆け出しの開業医は勤務医の感覚が抜けないので、自分がいいサービス・商品だと思ったら次々と導入を進めてしまいがちです。でも、スタッフは同じスピード・感覚でついてきてはくれません。
失敗を重ねたからこそ言えますが、クリニックのDXはスタッフの歩幅に合わせることが重要です。導入後も「きつそうにしてないかな?」とスタッフの顔色、足取りを気にかけるようにしています。
「自分の説明だけではスタッフにメリットが伝わらない」という場合は、近隣クリニックでの評判や事例などを共有するのもいいかもしれません。
DXによって、スタッフの心理的負担が軽減されることも
――DXをどのように進めればいいか悩んでいるクリニック経営者にアドバイスをお願いします。
当院は規模が大きい方なので、DXによる経営インパクトも大きいです。一方で、スタッフ5人などの小規模段階からどんどん推進するべきかと問われると、そうとは言い切れません。
DXといってもさまざまなものがあるので、まずは自分が「やってみたい」と思うツール・サービスから検討してみるのがいいのではないでしょうか。
導入すべきか悩んでいるなら、当たり前ですがまずはランニングコストを計算し、人件費と比較したときのインパクトを確認することですね。「人件費の方が安い」となったとしても、スタッフの心理的な負担が軽減されるのなら、離職率なども考慮して検討する価値はあります。
コスト面では、当院は分院でスマートマットを導入した際、IT導入補助金を活用しました。気になっているサービスがあれば、補助金の対象か確認することをおすすめします。
――最後に、今後期待しているDXを教えてください。
現在、電子カルテの入力は医療事務スタッフに任せていますが、早く音声入力が実現してほしいと願っています。医療事務スタッフの負担も減りますし、今、一番期待している分野ですね。
また今は看護師がしているレーザー照射も、いつかは手術支援ロボットのダヴィンチのようなレーザー照射支援ロボットが開発されて欲しいと思っています。看護師がロボットを操作し、より丁寧なシミ治療などが可能になる世界を想像するとワクワクしますね。
夢は膨らみますが、これからもスタッフと歩幅を合わせながら、新しい技術を取り入れていきたいです。
在庫自動管理・発注システム「スマートマットクラウド」のお問い合わせはこちら
※DX化などを進める花ふさ皮ふ科グループでは、皮膚科医師・形成外科医師を随時募集中。ご連絡はこちらから。
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