経営層肝いりのRPA導入は、働き方改革の立役者になりうるか?【解説編】─病院経営ケーススタディvol.14

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昨今、RPAをはじめICT、AI、DXなどITに関する用語が飛び交っています。働き方改革とITを掛け合わせたソリューションの提案は多く、ユーザーとしてはどれを選択すべきか、悩むところではないでしょうか。

MM総研の2021年度調査によると、自治体のRPA導入率は67%で、民間企業の4割弱を超えています。医療機関の導入率は不明ですが、RPAが標準的な業務ツールとなる日はそう遠くはないでしょう。

RPAを使ったことがない読者もいると思いますので、解説編では以下の流れで筆者の考えや実際の事例を紹介したいと思います。

  1. RPAの仕組み
  2. RPA化する業務の選定ポイント
  3. 今回のケースの問題点
  4. RPAを院内に浸透させるには

3・4はRPAに限らず、保守的な医療現場に新しい技術を導入する上で、参考にして頂ければ幸いです。

1.RPAの仕組み

まずは、RPAの仕組みと実際の作業手順を紹介します。既にRPAを導入したご経験のある方は、読み飛ばしていただいて構いません。

RPAに仕事をさせるには、実行プログラムである“シナリオ”を作成する必要があります。また、シナリオができてもすぐには動かせません。思い通りに動くまで、シナリオの修正とテストを繰り返す必要があります。このため短時間の仕事であっても、シナリオ完成までにはそれなりに時間がかかるでしょう。

“前日の入院・外来患者数を集計して報告する”という業務をRPAに置き換えると想定して、実際にシナリオを考えてみましょう。

業務フローは以下のとおりです。

図1:前日の患者数を集計報告する際の業務フロー
図1:前日の患者数を集計報告する際の業務フロー

一見シンプルな業務ですが、業務フローとシナリオに盛り込むべき動作を対比すると、次のようになります。

図2:業務フローとシナリオで設定すべき項目の対比
図2:業務フローとシナリオで設定すべき項目の対比

業務フローをシナリオに落とし込むには、かなり細かな指示が必要であることがわかります。業務フローでは“ログインする”の一言で済む動作も、シナリオではユーザーID・パスワードの入力に加えて、カーソルの移動まで指示しなければなりません。

また、次の画面表示までに時間がかかる場合には、待機時間もシナリオ上で指定する必要があります。例えば、ログイン時にプログラム配信やマスタ更新が実行される場合、次の画面表示までに時間がかかります。このとき、待機時間が設定されていないと、RPAは画面が表示される前に指示を実行し、できないと判断してエラーになってしまいます。

このほか、集計内容によっては対象データが存在しないこともあるでしょう。そのような場合は、対象データの有無によって、実行するシナリオを分けなければなりません。1日分の集計ではなく、“金~日曜日の実績を月曜に集計する”といった場合には、繰り返し条件の設定も必要です。

こうした作業を、逐一シナリオに設定するだけでも一苦労です。しかも、思い通りに動かなければ、原因を確認→シナリオを修正→再度テスト……といった作業を繰り返さなければならないのです。

2.RPA化する業務の選定ポイント

ここまでの説明で、簡単な業務であってもシナリオ化はけっこう大変そうだ、ということがご理解いただけたのではないでしょうか。

このため、RPA化を進める際は、短時間で終わる業務から始めることをおすすめします。

業務を「1回あたりの所用時間」「処理回数」でプロットした場合、例で示した患者数集計は①(所要時間が短く、回数が多い)にプロットされます(図3)。RPAの効果を上げようと考えると②(所要時間が長く、回数が多い)から手をつけたくなりますが、慣れないうちはハードルが高いです。最初は①を積み上げていくことを優先しましょう。

図3:処理回数と1回あたりの所用時間
図3:処理回数と1回あたりの所用時間

また、RPA化を進める際は“既存の業務”に目がいきがちですが、“新規の業務”で「人手をかけなくていいならやりたい」というものがないか、もぜひ検討してみてください。

RPAは大量のデータを転記するような作業、例えば、「大量の患者の電子カルテに『メモ付箋』を追加する」といった業務に向いています。

実際に、私は前職で「薬物血中濃度モニタリング(TDM)の対象となる薬剤を服用している患者に対して、薬物血中濃度の検査オーダーを促すメモ付箋を追加する」作業のRPA化に取り組みました。適切な薬物療法を行い、特定薬剤治療管理料の算定を増やすことが目的です。200名程度の患者に対して毎月メモ付箋を追加することで、結果的に算定件数は20%増加しました。

電子カルテを開いて行う作業は、カルテを開くこと自体に結構時間がかかるため、RPA化の効果が高いです。メモ付箋以外には、予約患者の前回の検査結果を事前印刷といった定型業務を置き換えるのもよいと思います。

3.今回のケースの問題点

さて、それでは今回のケースの問題点を考えながら、RPAをスムーズに導入するためのポイントを紹介したいと思います。

1つ目の問題として、現場の職員のRPA活用へのモチベーションが低い、という点があります。RPAに限らず、現場は新しい技術の導入に否定的な傾向が強いです。また、自分の仕事がRPAに置き換わることを、快く思わない職員もいるでしょう。まずは、RPAの導入がネガティブな印象を与えないよう、目的をしっかり説明する必要があります。単なる残業時間・人員の削減ではなく、RPA化により作り出した時間を使って何を実現したいのか、事前に職員に示すことが大切です。

2つ目の問題は、RPA化の推進について院内への周知が不十分であり、他部署との連携がとりづらい状況になってしまっている、という点です。

今回のケースのように、一部署でのスモールスタートから院内全体への展開を想定している場合、病院としてRPA化に取り組む目的や、推進部署・体制を院内に発信して、部署間の連携を促すことがポイントになります。

たとえば今回のケースでは、シナリオ作成をどの部署が担当するか、がネックになっているようです。本来であれば、現場の業務を理解している医事課職員に担当してもらうのが理想的でしょう。しかし、スタート時点はシステム部門で作成してもらい、シナリオ作成の難易度を把握した上で、他部署でも対応可能か判断する方がスムーズかと思います。

シナリオはプログラミング言語を知らなくても作成できますが、if~elseや繰り返し(while)といった条件式の理解などが必要なため、一般ユーザーがすぐに作成するのはハードルが高いです。とはいえ、システム部門で全て抱えていては院内で浸透するまでに時間がかかってしまいます。

正攻法としては、複数部署で担当者を決め、教育することです。少し時間はかかりますが、後のメンテナンスを含め、長期的に運用するにはその方が効率的です。難しい場合は、作成したいシナリオが集まった段階で、専門業者に対応を依頼するという選択肢もあるでしょう。メンテナンスは病院で行わなければなりませんが、手っ取り早く多くの業務をRPA化できます。

4.RPAを院内に浸透させるには

「RPAを導入したけど、あまり進んでいない」という話はよく耳にします。

そのような場合、病院として“誰が、どの程度進めたいのか”が明確になっていないことが多い印象です。RPA化で実現したいことと達成目標を具体的に決め、そのためにどのような体制が必要かを考えましょう。

また、運用にかかるコスト(人件費・外注費など)を想定していなかったがゆえに、RPA化が進まない側面もあるのではないでしょうか。RPAはソフトウェアなので、導入・保守にかかる費用と人件費を比較し、導入しているケースが多いと思います。このため、“シナリオ作成は現行の人件費内で”と考えがちです。

しかし、これまで解説してきたように、RPAを運用し効果を上げるためには、それなりの時間と手間がかかります。追加のコストもかかる想定で導入を検討する方が現実的でしょう。

これらの問題をクリアしたうえで、RPAの効果をさらに高めたい、他部署へも展開したい、という場合は、自院の導入事例を院内に発信することをおすすめします。他院の事例でもよいですが、自院のシステム環境で実施している事例の方が、より自分事に思えて発想が膨らみます。

たとえば全体会議等で、システム部門ではなくその部署からRPA化の内容・感想を紹介してもらうなど、“広まっている感”が出せると、アイディアも集まりやすくなるはずです。また、全体会議ではRPA業務の一覧を報告し、進捗を確認するのもよいと思います。「RPA化は優先度の高い業務である」という共通認識ができ、進みやすくなるでしょう。

RPAに限りませんが、ITツールは時間削減・生産性向上の強い味方になりうるものの、“魔法の道具”ではありません。導入すればすぐに業務効率化・労働時間削減につながるものではないということを理解して、地道に取り組む必要があるのです。

【ケース編】はこちら

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