経営コンサルタントの選び方と、最大限活用するための心構え―ちば医経塾長・井上貴裕が指南する「病院長の心得」(21)

病院経営のスペシャリストを養成する「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム-」塾長である井上貴裕氏が、病院経営者の心得を指南します。

著者:井上貴裕 千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授・ちば医経塾塾長

目次

病院が経営コンサルタントを必要とする理由

新型コロナウイルス感染症の5類への変更で、コロナ関連の補助金が大幅に減額されることになり、将来に不安を抱く病院経営層も多いことでしょう。

患者数、特に入院患者数はコロナ流行以前の水準に戻らない一方で、水道光熱費は著しく増加しており、コスト増に悩まされる日々が続きます。さらに、社会全体は賃上げが進んでいますから、医師事務作業補助者や看護補助者などの採用の厳しさが増すことが予想されます。

そんな状況の中、「経営の専門家からアドバイスを受けたい」と考え、経営コンサルタントを探している経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、コンサルタントの選び方と有効活用の方法についてお伝えしたいと思います。

まず、経営コンサルタントといっても、様々な領域があります。

  • 病院が将来進むべき方向性を提案する戦略策定
  • 査定やカルテ記載なども含めた診療報酬対応
  • モチベーション向上や人員の適正配置などの人材マネジメント
  • 医師・看護師等の採用や育成
  • 医薬品材料費・委託費の低減
  • 資金調達等の財務管理
  • IT・DX対応
  • パスやPFM
  • 第三者評価
  • 建築
  • M&A

など、あげればきりがありません。

この全てに対応できるコンサルタントはいないでしょうから、もし「何でもできます」と言うコンサルタントがいたら、「何もできません」という宣言に近いかもしれません。

病院が経営コンサルタントを必要とする背景として、経営人財の確保が極めて難しいことが挙げられます。病院は常に人手不足に悩まされ、スタッフは日常業務の遂行で手一杯。日ごろの業務とは一定の距離がある経営スキルを有していることは少ないでしょう。

そのため、専門家の介入は一定程度有効です。第三者ならではの貴重な提案もあるでしょうから、組織の活性化が期待できます。

病院経営コンサルタントの選び方

ただ、コンサルタントに依頼しても、常識的な内容ばかりが記載された分厚い報告書を提出され、「で、結局どうしたらいいの?」と困ってしまうケースは珍しくありません。せっかく専門家に依頼しているのですから、内部では気づかない「なるほど」と思うような鋭い指摘をしてほしいものです。
専門家といえども画期的な打ち手を常に提案するのは難しい面もあるでしょう。であれば、コンサルタントが現場に入り、客観的な視点から組織の成熟度にあった実行可能な提言を期待したいです。

そして提言だけではなく、現場と伴走し、ゴールまで導いてほしいと思います。縦割りの組織のため一枚岩になりづらい病院職員に横串を刺し、病院を1つの方向に導くのが本当のプロフェッショナルです。

専門家に頼むのですからそれなりの費用がかかりますが、業務によっては成功報酬型のサービスもあります。比較検討してみるといいでしょう。

私がコンサルタントに依頼する際は、完全成功報酬型で、自分と同じゴールを目指してくれる会社を優先します。コンサルティング会社からすれば、短期で実績を上げることが利益になりますから、病院には実現できないスピードで業務を遂行し、結果を出してくれます。プロのスキルを学び、時間を買うという意味でも有効な選択肢の1つになるでしょう。

ただし、「成功報酬」の定義については事前に協議しておかなければ後々トラブルの元になりますから注意が必要です。

なお、自社で物販などの具体的なソリューションを持つコンサルティング会社もあります。その場合は当然自社のサービスを推奨するでしょうから、第三者としての客観性には欠けるかもしれません。短期的には経済的利益を享受できる一方で、中長期では経営の自由度が下がる可能性もあります。自院の目的に合わせてコンサルタントを選びましょう。

病院経営コンサルタントを有効活用するには

最後に、コンサルタントを有効活用するための心構えについてお伝えします。「プロに頼んでいるのだから」と安心してはいけません。どう使うかが大切なのです。

1つ目は、期待する成果について、経営陣とコンサルタントの間で事前に共有・確認することです。

プロジェクト遂行の上で、予期せぬ事態が起こることはあり得ますし、難局も訪れるでしょう。逆に予想外によい結果につながることもあります。
依頼目的を明確にした上で、「ここまでは必ずやって欲しい」という期待値を明らかにすべきです。

2つ目は、経営陣がコンサルタントを信頼すること。

何かを変えようとするとき、常に抵抗勢力は存在します。例えば、第三者が病院内部に入ることをよく思わない、組織改革を望まない職員も一定数います。そのような職員からコンサルタントは「邪魔者」呼ばわりされることもあり、コンサルタント任せでは突破できない壁が立ちはだかる可能性があるのです。
「病院が良くなること」はすべての職員共通の願いのはず。
経営陣はコンサルタントを信頼し、結果にコミットする意識と、共に闘う覚悟を持ちましょう。

3つ目は緊張感を持つことです。コンサルタントからなめられたら、終わりです。

無形サービスの付加価値をどこまで引き出せるかは、コンサルタントとの関係性が大きく影響します。コンサルタントから「この経営陣のために結果を出したい」という気持ちを引き出せなければ、成果が生まれない可能性もあります。適切な緊張感を保つことが重要です。
極論ですが、コンサルタントに「この経営陣とだったら報酬がなくても仕事をしたい」、「この病院では学ぶことが多く、やりがいがある」と思わせられれば、最高の結果が待ち受けていることでしょう。

最後に、過去の実績やネームバリューだけでコンサルタントを選ばないことです。それらも大事な判断基準ではありますが、自院にマッチするかどうかを慎重に見極めましょう。

会社名よりも「誰が担当するか」が重要です。人と人の触媒が付加価値を生み、組織を新たなステージへと導くのです。

【筆者プロフィール】

井上貴裕(いのうえ・たかひろ)
千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授。病院経営の司令塔を育てることを目指して千葉大学医学部附属病院が開講した「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム- 」の塾長を務める。
東京医科歯科大学大学院にて医学博士及び医療政策学修士、上智大学大学院経済学研究科及び明治大学大学院経営学研究科にて経営学修士を修得。
岡山大学病院 病院長補佐・東邦大学医学部医学科 客員教授、日本大学医学部社会医学系医療管理学分野 客員教授・自治医科大学 客員教授。

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