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コロナ禍の真っただ中での新築移転、その舞台裏は――ちば医経塾塾長の井上貴裕氏と病院経営者の対談第4回目は、社会医療法人友愛会友愛医療センター(沖縄県)の前院長、新崎修氏がお相手です。コロナ禍真っただ中の2020年8月に新築移転を行った舞台裏などを伺いました。
【対談】
ポテンシャルが魅力で豊見城中央病院への入職を決意。16年後には院長に
井上:最初にご略歴を伺えますか。
新崎:1987年に琉球大学医学部医学科を卒業後、那覇市立病院や大道中央病院、国立療養所豊橋東病院などで循環器内科医として経験を積みました。特に豊橋東病院は、当時インターベンションを積極的に進め、若手への指導も熱心にされておられた鈴木先生に「私もぜひ勉強したい」と懇願し、半年ほど研修を受けています。
豊橋東病院での研修後は再び那覇市立病院へ。その後、2002年から友愛医療センターの前身である豊見城中央病院で働き始めました。当時、同院のインターベンション件数はそれほど多くなかったのですが、外来患者様で循環器の紹介対象となる患者数が多く、ポテンシャルを感じたことが入職の決め手でした。
その後、2005年に循環器内科部長、2016年に副院長に。2018年には院長に就任しました。
医療機器が搬入されない!コロナ禍、新病院へ移転待ちの日々
井上:院長に就任して2年後の2020年8月に新病院に移転し、病院の名称も「豊見城中央病院」から「友愛医療センター」に変わったのですね。新病院をオープンすることになった経緯や移転の際のエピソードを教えてください。
新崎:旧・豊見城中央病院は、地域の中核的医療機関として過去40年にわたって救急医療や高度医療などを提供してきましたが、設備が老朽化したり手狭になったりという課題に対応する必要がありました。そこで、より高度化する医療ニーズへの対応や病院の将来的な拡張性などを考慮して、新築移転という結論に至ったのです。
ただ、移転はコロナ禍の真っただ中です。病院の建物自体は完成していたものの、ベッドも含めた医療機器が予定通りに搬入されず、移転できない時期がしばらく続きました。最終的に、経営的にも「これ以上は待つことができない」と判断。周囲の病院の理解を得た上で、7月中旬から一端コロナの受け入れを制限し、8月に移転しました。
コロナ禍ということで、搬送を含めさまざまな厳しい面がありましたが、多くの病院から救急車をお借りして、どうにか患者さんを旧病院から新病院へ移送できました。
井上:新病院へ移送した人数や所要時間を教えてください。
新崎:患者移送にかかる時間は車で15分ほど。患者約200人の移送を午前中には完了できました。非常に大変でしたが、職員が一丸となって努力してくれたことに感謝しています。また、救急部門も頑張ってくれて、移転したその日のうちにコロナ患者を3人ほど受け入れました。皆、コロナ禍に他院に迷惑をかけているという思いや、それに報いたいという気持ちが強かったのだと思います。
医師確保は「直接お声がけ」スタイル。看護師確保には課題が……
井上:新崎先生は琉球大学医学部の第1期生だそうですが、沖縄の医療機関はやはり琉球大学からの医師派遣が多いのですか。
新崎:沖縄県はもともと県立病院を中心に各医療圏が成立していて、琉球大学病院はどちらかというと後から入ってきた病院です。そのため、琉球大学の医局を頂点とした医師派遣以外にも、有名な群星沖縄などいくつかの医師育成体制があります。当院のような民間病院や県立病院が琉球大学病院と連携しつつ、医師の移動・交流を経ながら研修医を育てる風土が作り上げられてきたのです。
また沖縄県は人口も増加し、県立病院だけでは急性期医療提供体制が足りなくなってきた面もあり、そうした中で当院を含む民間医療機関も加わり、大学病院や急性期病院間の連携を通して、各医療圏の医療提供体制を守ってきた歴史があります。
井上:東京や大阪などからの医師の派遣はあるのですか。
新崎:当院の整形外科は福岡大学と連携しており、中堅医師や後期研修医を派遣してもらっています。しかし、県外から来られる先生方の多くは大学派遣以外で、当院出身者や当院の先生方とのつながりがほとんどだと思います。
井上:医師の確保についてはいかがですか。
新崎:決して潤沢とは言えませんが、他県に比べれば恵まれています。当院は、2018年頃から医師の働き方改革に取り組みながら、少しずつ各地から医師のリクルートを進めてきました。方法としては直接、医師一人ひとりに声をかけて確保していった形です。
井上:沖縄県内の医師が多いのですか。
新崎:九州や沖縄を中心に働く医師もいる一方で、東京などから来る医師もいます。また心臓血管外科では札幌医科大学出身の医師が活躍しており、その医師を慕って同大学出身の医師が少しずつ集まってきています。
井上:看護師の確保についてはどうでしょうか。
新崎:他県でも同様の状況かと思いますが、我々も看護師の確保が十分にできていない状況です。そのため、病院のポテンシャルとしてはもっと稼働率を上げることができるものの、看護師が確保できないため控えめにせざるを得ない面があります。
井上:コロナ禍を経て病院から看護師が遠ざかったような印象があります。
新崎:コロナももちろん影響していますが、前回・今回と診療報酬改定で訪問看護に手厚い点数がついたためか、看護師が訪問看護に流れているように感じています。また、沖縄だけの傾向かもしれませんが、看護師として非常に能力がある人でも、まったく違う職種に転職するケースがみられます。そのようなときは非常に残念だと感じますが、その人の人生ですから「頑張ってください」と言って送り出すしかないと考えています。
井上:ありがとうございました。
次回は新築移転をきっかけとして、救急医療やがん診療など医療提供体制を充実させていった話などを伺います。
>>「周囲のほとんどが反対した」病院統合、成功に導いたのは?~ちば医経塾塾長・井上貴裕の病院長対談~vol.7
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