株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理学会 評議員などを務める。
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いつもの事ですが、やっぱり、こうも違うものなのですね
訪問した病院で、経営を担う病院長、事務長、そして看護部長に「一番のお悩みはなんでしょう」とお尋ねしたところ…
病院長は「建物が老朽化してきている。資金の調達が悩みだ。」
看護部長は「看護師の教育ですね。」
事務長は「競合する近隣医療機関との差別化、今後の生き残りです。」
それぞれ口にされた言葉が違う事に、どこか納得する一方で「やっぱりこうも違うものか」と改めて驚いたのは、先日の出来事のことです。
役職や立場ごとに全く違う悩み、もちろん、役割が違うのですから悩みの視点が違うのは分かります。しかし、抱える悩み、問題点がちっとも重複しないのです。同じ病院で働いているのですから、 同じような意見があってもいいはずなのに。多くの病院の現状は、こうなのです。
目の前の悩みをすぐに解決してはいけない?
経営資源の重要な要素といわれる「ヒト・モノ・カネ・情報」に当てはめるとそれぞれの悩みは、病院長がモノやカネ、看護部長はヒト、事務長は経営ですからカネ、そしてその判断をする情報と言ったところでしょう。
これらは、病院のトップが抱える悩みです。さあ、すぐにでも解決しなければなりません。
さて、皆さんなら、どういう手を打ちますか。思いつくままに言えば、病院長の悩みに対しては、資金調達や事業計画の立案、看護部長に対しては、教育マニュアルや教育体制の確立、人事考課制度の活用、事務長に対しては、マーケティング調査、データ分析などからの経営戦略の立案といったところでしょうか。
いいえ、違います。違うんです、と声を大にして言いたい。20年間の病院勤務や様々な方との関わりの中で、私が課題解決のために必要だと考えることはただ1つ、「目の前の悩みをすぐに解決してはいけない」ということなのです。
解決しなければならない、と言っておきながらすぐに解決してはいけないとはどういうことなの?と思われた読者が多いことでしょう。しかし、そこに99%の課題を解決するヒントが隠されています。
99%の課題を解決するヒントとは?
「目の前の悩みをすぐに解決してはいけない」とは、どういうことでしょう。医学的に言うなら「対症療法ではなく根治術を」ということでしょうか。つまり、目の前の悩みではなく、悩みの本質、根元を解決することが重要だということです。
病院の中で起きる問題にそれぞれの立場や部署で対応し、時間がかかった挙げ句、対応がチグハグというのは、色々な病院で私が実際に見てきた光景です。
対症療法ではなく根治術を!
先ほどの病院の悩みであれば、悩みの本質は何か。これはズバリ「組織のあるべき姿、理念」が共有されていないことに原因があります。
もう少し細かくいうと、「○年後の姿」(いつまでにどのような状態になっておくか)、言い換えるなら、我々が提供する医療や介護はどのようなものか、という認識が共有されておらず、これが問題なのです。共有以前に、そもそもまだ設定されていないのかもしれません(あるべき姿を設定することが困難な社会情勢でもありますが)。
自分達の病院の○年後の姿が明確にされ、どういう患者さんにどういう医療を提供するのかが共有されていれば、どんなハードが必要か、どのような人材を育成し、揃えておく必要があるのか、どういう戦略が必要か、もしくは不要かの判断ができ、それに向かって自ずと答えがでてくるはずです。ビジョンさえ見えれば、あとは手段と方法を立案し、それに向かって行動するのみ!となるのではないでしょうか。あるべき姿というゴールと現状の差が明確になることで、漠然とした悩みを、具体的な経営課題として認識でき、病院一丸となって解決に邁進できるのです。
あなたの船は、海賊船か豪華客船か
病院のスタッフは、それぞれが技術を持ったプロの集団です。自分達の専門性を生かし、その腕を振るいます。目の前に怪我をした患者さんがいれば、消毒や縫合をし、痛み止めを処方し、必要であれば検査をし、診療費も計算できます。
医療や介護の現場で働いている人達は「人のために役に立ちたい、貢献したい」という思いが強い人が多いと感じています。さらに、その人達は、今後の組織のあるべき姿や患者さんの姿が共有されれば、自ら考え「どうあるべきか、何をすべきか」を考えることが出来る人達であると私は思っています。
何を言いたいのかといいますと、日々磨いている技術に加え、使命を与えるのです。組織としての共通の目標を示し、プロ集団が使命を持って日々の業務を行えば、強い組織が完成します。
先日、「リーダーや人を生かして、組織を生かす」というテーマで講演し、組織を船に例えました。皆さんは船のオーナーに雇われた船長だとします。行き先はA島だと言われれば、A島までの舵を取り、A島に到着させることができるでしょう。しかし、その船の目的が何なのか理解して乗船しましたか、乗船していますか、と問いたいのです。海賊船、もしくは豪華客船だったとしたらどうでしょう。A島までのプロセスは、だいぶ変わってきませんか。
病院経営も同じではないでしょうか。診察をする人、看護をする人、検査をする人、受付をする人として集められたプロ集団は、目の前の与えられた作業はもちろんできます。
しかしながら、その作業そのものが目的になってはいないでしょうか。「その作業をどのようにするのか」の目標が立てられ、技術を磨いているのではないでしょうか。
そうではなく、組織の目標や自分達が達成すべき患者さんのゴールのために、自分達の作業があり、どう使命を果たすのか、が理解され実行されていることが大事なのです。もっと言うと、それが理解されるまでトップは伝えているか、がさらに重要なのです。
病院長、看護部長、事務長も同じです。共有された「組織のあるべき姿」というゴールのために、ではなくリーダーとして目の前の問題を解決することが目的になってはいないでしょうか。
私のお受けするご相談もさまざまですが、お話を伺っていく中で「病院の向かうべき方向性やゴール」をお尋ねすると、そこが共有されていなかったり、明確でなかったりすることが少なくありません。
組織のあるべき姿というゴールがあってこそ、スタッフそれぞれがゴールにたどり着くために向かっていくのに、そのゴールが共有されていないことがなんと多いことか…。
とは言ったものの、さて、具体的にどうアクションをとっていくべきか、という話ですよね。本連載では、どうやって組織の問題を洗い出し、解決策を見出すかという方法論を扱っていきます。それも、ただ目の前の問題を解決するだけでなく、その先に人が生き生き働けるような組織づくりを目指したものです。
連載を通じて読者のみなさんと一緒に、私達が地域で担う役割は何か、地域住民、働く人、病院がHappyになるための方法はなにかを一緒に考えていきたいと思います。
次回は、あなたのA島行きの船が「豪華客船」だった場合について考えてみましょう。
【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。
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