2019年6月、がん遺伝子パネル検査が保険収載されました。関係医療機関では運用にあたり急ピッチで体制整備が図られています。今回、保険適用が了承された遺伝子パネル検査は「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」と「OncoGuide NCC オンコパネルシステム」の2種類。いずれの検査もトータルで56,000点を算定できることになっていますが、その要件がなかなか複雑です。概要や算定のポイントについて解説します。
がん遺伝子パネル検査とは、遺伝子変異などを素早く検出して有効な分子標的薬を検討し、より効果的な治療に結びつけるための遺伝子検査です。遺伝子の塩基配列を高速で読み出す装置「次世代シークエンサー:NGS」といった解析技術を用いて行います。
がんと関係する遺伝子は数百種類もあると言われています。従来の遺伝子検査が遺伝子異常のターゲットを1つずつ狙い定めていくようなイメージだったのに比べ、がん遺伝子パネル検査は関連する遺伝子を同時に数百も調べることができる、画期的な検査方法といえます。
検査は患者1人につき1回まで
このパネル検査を実施するためには、遺伝子検査を安全かつ確実に実施できるだけの医療体制と、今後のがん遺伝子研究や治療の発展のためにゲノム情報等を登録・管理できる環境の2つが必須条件となります。保険収載を受け中医協では次の運用手順(図1)が示され、算定要件に明記されました。
この中で示されている「シークエンスの実施」とは遺伝子情報の検査、すなわち、前述したようなシークエンサーシステムを用いて塩基配列を決定し、解析(プロファイリング)することを指しています。この段階で、検査で得た塩基配列の元データや臨床情報を組み合わせたゲノム情報を、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に提出することが求められます。この時、パネル検査実施にかかる費用として準用技術料が適応されており、D006-4遺伝学的検査3「処理が極めて複雑なもの」8,000点を算定することできます。
文中にある「患者1人につき1回に限り算定できる」という条件は、医事算定において極めて重要な要件です。これは患者の生涯を通して1回が限度ということですから、検査実施時には過去も含め、他院で検査などが行われていないか慎重に点検する必要があります。
また、検査後のエキスパートパネル(専門家会議)の実施や検査結果の判断、患者説明などの費用は、次の準用技術を適用し算定が可能です。
- D006-4 遺伝学的検査「3」処理が極めて複雑なもの×4回分:32,000点
- D004-2 悪性腫瘍組織検査 1 悪性腫瘍遺伝子検査 注 ロ 3項目以上:6,000点
- M001-4 粒子線治療(一連につき) 注 3 粒子線治療医学管理加算:10,000点
計 48,000点
検査実施時と合わせると、これらがん遺伝子パネル検査の合計の検査代は56,000点となります。内訳としては以下の通りです(図2)。
(B)エキスパートパネルの実施や結果の判断・説明、治療実施など:48,000点(詳細は上記)
対象は限定的…今後の行方は
このパネル検査実施に関しては、かなり詳細な要件設定がなされています。たとえば対象患者については「固形がん患者」「標準的治療後で化学療法ができる状態の患者(局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者であって、関連学会の化学療法に関するガイドライン等に基づき、全身状態及び臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者)」といった条件が示されています。また、実施できる医療機関も「がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療連携病院及びそれに準ずる医療機関」と指定されています。この医療機関の指定については、今後要件の見直し・再編成が予定されているようです。この他にも、運用面では以下のような手順が定められています。
- 患者に対して書面を用いて説明し、同意の有無について診療録及び管理簿等に記載
- がんゲノム情報管理センター(C-CAT)へのデータ提出
- 個人情報保護の遵守
- インフォームド・コンセント手順書の作成と実施
- 関連する情報を記載してまとめた管理簿の保管
運用面において、特に重要と考えられるのはエキスパートパネルの実施です。エキスパートパネルとは、検査結果を医学的に解釈するための多職種による検討会のこと。実施可能な施設はがんゲノム中核拠点病院およびそれに準ずる医療機関のみとなっています。現在、検査を実施している医療機関では、どのようにして連携体制を構築し、エキスパートパネルを実施していくのかが大きな課題となっているようです。
今回の対象は極めて限定的ではありますが、遺伝子パネル検査としては初の保険適用ということで慎重に条件設定がなされている印象があります。ゲノム医療の進歩に伴い、今後の動向にも注目が集まりそうです。
<編集:角田歩樹>
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