今回は「感染防止対策加算」と、その注3に新設された「抗菌薬適正使用支援加算」について解説します。
入院診療の基本を増強する、感染防止対策加算
病院内の感染防止に関する体制整備は、入院料の通則7に定められている「入院診療計画、院内感染防止対策、医療安全管理体制、褥瘡対策及び栄養管理体制」の入院体制5項目の1つに挙げられる通り、入院診療の基本軸とも言えるでしょう。
入院料等 通則(第1章 基本診療料 第2部 入院料等)
入院診療計画、院内感染防止対策、医療安全管理体制、褥瘡対策及び栄養管理体制について、別に厚生労働大臣が定める基準を満たす場合に限り、第1節(特別入院基本料等を含む。)及び第3節の各区分に掲げる入院料の所定点数を算定する。
ここで定められている施設基準上の院内感染防止対策は、感染防止対策委員会の設置と月1回程度の定期開催、そして具体的な取り組みとして微生物学的検査に係る状況等を記した「感染情報レポート」の作成、そして各病室での手洗いと消毒液設置の徹底です。
一方、「A234-2 感染防止対策加算」は、加算1(390点/入院初日)、加算2(90点/入院初日)の2段階からなり、上記の通則7を増強するような意味合いがあります。その体制は、感染防止対策部門(感染制御チーム)の設置、院内感染状況の把握、抗菌薬の適正使用、職員の感染防止等が活動条件になります。
加算1と加算2ともに感染防止対策部門内に専門(一定年数以上の従事経験等)の医師と看護師、薬剤師、臨床検査技師などを専任で配置することが条件になっていますが、加算1は、そのうち1名(医師または看護師)を専従配置することが条件になっています。さらに、加算1には病院間の連携による体制整備を評価した「感染防止対策地域連携加算」(100点)があり、施設相互間の支援体制や情報交換による質の向上も期待されています。他方、加算2は300床以下の病院を標準とするなど、施設規模が謳われています。
体制整備のみならず、プロセスとアウトカム指標を評価へ
さて、本題の「抗菌薬適正使用支援加算」(100点)を見てみましょう。この加算は、感染防止対策地域連携加算の届出が条件になっており、感染防止としては、最上位の体制整備と言っていいと思います。
すでに感染防止対策加算において、抗菌薬の適正使用は条件化されていますが、いっそう強化する意味で「抗菌薬適正使用支援チーム」の設置が必要です。このチームは、感染防止対策加算の感染制御チームとほぼ同じ人員条件で専任と専従1名の配置が施設基準に定められています。とはいえ施設基準上は「専従の職員については、感染制御チームの専従者と異なることが望ましい」としながらも、「感染制御チームの業務を行う場合には、抗菌薬適正使用支援チームの専従とみなすことができる」という表現を用いて、専従者条件を緩和しています。
では、このチームの活動(業務)について見てみましょう。施設基準を要約すると次のようになります。
- 感染症治療の早期モニタリング
- 微生物検査・臨床検査の適正利用のための体制整備
- 抗菌薬使用・血液培養のプロセス指標を定期評価
- 耐性菌発生や抗菌薬使用量などのアウトカム指標を定期評価
- 抗菌薬適正使用の院内研修とマニュアル作成
- 院内の抗菌薬使用に対する監視(使用見直し、中止)、臨床側への提案
- 他院からの抗菌薬適正使用の相談
上記に挙げた活動を組織的に改善へと結びつけ、抗菌薬の適正使用について有効なアウトカムを出さなければなりません。
この活動の中で、特に馴染みのないものがプロセスとアウトカムの指標ではないかと思います。この指標については、筆者が勤める医療機関の「国際感染症センター」センター長 大曲貴夫先生による解説が非常にわかりやすかったので、ご紹介します。
抗菌薬適正使用を推進するには、その活動に効果があるのかどうかの指標を設定する必要がある。そのためには一般的な医療の質安全活動と同様にPDCAサイクルに乗せるとともに、その過程で評価を行うためのプロセス指標とアウトカム指標が設定されなければならない。
治療効果を担保するためには、診断治療プロセスへの評価介入を行い、あらかじめ定めたプロセス指標・アウトカム指標への評価をして、結果を臨床現場へフィードバックし、感染症診療に関わる医師の行動変容につなげることが大切である。
抗菌薬適正使用のプロセス指標には、抗菌薬の使用量や用法用量などの処方パターン等が用いられ、アウトカム指標には、従来の抗菌薬感受性率(Antibiogramなど)やコストなどが挙げられるが、最近は血液培養の複数セット採取率などの感染症診療そのものにかかわるものも用いられる。しかし、近年は患者中心のアウトカム指標として、在院日数の短縮の程度や薬剤副作用、C.difficile腸炎発生率(抗菌薬関連下痢症状・腸炎)などの抗菌薬使用に関する有害事象発生率、そして予後そのものが検討されるようになった。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター医事管理課長/診療情報管理室長、国際医療福祉大学院 診療情報管理学修士。1987年、財団法人癌研究会附属病院に入職後、大学病院や民間病院グループを経て現職。その間、診療情報管理士、診療情報管理士指導者などを取得。現在、日本診療情報管理士会副会長、日本診療情報管理学会理事、医師事務作業補助者コース小委員会 委員長などを務める。
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