「人・組織を動かす」 事務職からコンサルタントに転身しても変わらない思い―株式会社LHEメディカルコンサルティング 野々下みどり代表取締役

医療法人社団シマダ 嶋田病院(福岡県小郡市、150床)で、2児を育てながら医事課員から診療情報管理士、企画広報部長へのキャリアアップを実現した野々下みどり氏。自身が本当にやりたいことを突き詰めていった結果、2018年11月には医療機関に特化した経営コンサルタントとして独立する道を選んでいます。事務長だけがキャリアのゴールではない、事務職の強みについて伺いました。

<インタビュイープロフィール>
株式会社LHEメディカルコンサルティング(事業内容:医療特化型のコンサルティング)
代表取締役 野々下 みどり 氏

企画広報は、理念を浸透させて人を動かす

LHEメディカルコンサルティング 野々下みどり

-前回のインタビューでは嶋田病院の企画広報部長に就任されるまでを伺いましたが、企画広報の業務はいかがでしたか。

企画広報部の業務を通じて、ミクロな視点からマクロな視点に業務の考え方が変わりました。医事課や診療情報管理課などに配属されていた時も現場のリーダーである自覚を持っていましたが、企画広報部では院長の想いをいかに地域へ伝えていくか、いかにスタッフに病院を動かしてもらうかという、より多くの人を巻き込む業務に変わっていきました。

-「広報」というと対外的なイメージが強いですが、院内スタッフへの啓発や教育も行っていらっしゃいましたね。

患者さまや地域の皆さまと接するのはスタッフたちなので、彼らの行動が変わらなければ、病院のイメージも変わらないと考えています。

嶋田病院の理念「地域の方々が安心して暮らしていける」ことの実現に向けて看護部リーダーへの指導なども行いました。理念の浸透は企画広報部にとって重要な経営戦略のひとつと考えていましたので、スタッフへの教育や指導も私たちがやるべき仕事だと考えて取り組んでいました。

-素晴らしいですね。一般企業でも理念の浸透は難しいと聞きます。野々下さんはどのような工夫をされましたか。

私は、常に言葉にすることを意識していました。例えば、委員会での発表の際にも、「理念を形にするために、~しましょう」という説明をしていました。折りに触れて、目指すものを常に唱えることが大切だと考えています。

また、理念をはじめ、院長が発信するメッセージは抽象度が高く、スタッフが自身の業務に置き換えるのが難しい場合がありますので、そういったところを噛み砕いて説明していました。

-その後、嶋田病院を退職して独立されたのはなぜでしょうか。

理由はいくつかありますが、退職は数年前から考えていました。それは役職に就いて任せていただけることが増える度に、自分が業務をやりすぎて、部下の成長を妨げているのではないかと思うようになったからです。

さらに、これは私の認識の問題ではありますが、特に部長職に就いてからは、これまで「この街の住民を守らなきゃいけない」と考えていたマインドが、病院の利益を第一優先に考えてしまうようになっていました。そんな中で中途半端に仕事をするのは、法人にも地域住民にも失礼ですし、今後は法人の方針ではなく自分の信念に従って仕事がしたいと思い、独立・起業を決めました。

当時、多くの人からお誘いの声をかけていただいたタイミングも重なり、自分の積んできたキャリアや仕事のやり方が間違っていなかったと思えたことも、独立を後押ししてくれた要素でした。

現場を置いてきぼりにしないコンサルティング

野々下みどり

-起業はリスクも大きい選択だと思いますが、不安はありませんでしたか。

最初はすごく不安でした。お給料など、組織が守ってくれる側面がすべてなくなってしまいますので。ただ、諸々のリスクを踏まえても、自分の気持ちを押さえて働き続けることの方が、私にとっては苦しいことでした。

-強い想いがあったのですね。現在は、どのようなことに取り組まれていますか。

クリニックや病院など、地域包括ケアシステムで重要なポジションとなる医療機関のコンサルティングに取り組んでいます。具体的には財務分析や人材育成など、幅広くご支援をしています。

株式会社LHE(LOVE HAPPY ENDINGの略)メディカルコンサルティングという会社名にもつながりますが、私は祖母の死を見てきた実体験なども踏まえ、最期までの時間をどう幸せに過ごすかが大切だと考えています。そして、その最期の時間には地域の医療機関が欠かせません。それは急性期病院だけではなく、リハビリ機能を持った中小病院や、かかりつけ医がいるクリニックも重要な役割を担っています。そういった医療機関のご支援をしていくことで、1人でも多くの地域住民に貢献できればという思いで取り組んでいます。

-医療現場での経験を経て、コンサルティングをする強みはありますか。

これまでコンサルティングを受ける側として感じていたのは、あるべき方針や施策をコンサルタントから提言されても、結果、そこからどう前に進めていくかが難しいということ。医療機関には院長だけではなく、医師やコメディカル、事務職員などさまざまな登場人物がいます。そういったスタッフを巻き込んでいくアクションを取らなければ、組織を前に進めることはできません。

私は嶋田病院に在籍していたときも、理事長や院長の考えを、現場にしっかりと浸透させていくことを強みに仕事をしていました。当社では、そういった経験を活かし、現場のスタッフを置いてきぼりにしないようなご支援をしていきたいと思っています。

-ご自身のキャリアを活かしたコンサルティングに挑戦されていますね。最後に、次の一歩を踏み出せず、キャリアに悩んでいる読者へアドバイスをお願いします。

私は、目の前にある仕事を一生懸命やっていたら、結果それが武器となりました。なかなか仕事を回してもらえない環境にいる方は、仕事に取り組みたいという姿勢を訴え続けることで、チャンスがやってくると思います。わかりやすく言えば、なにかやってみたいことがあるならば、積極的に手を挙げていくこと。「いつかやりたい」、「そのうちキャリアアップしたい」ではなかなかそのチャンスが巡ってくることはありません。

自分が何をやればいいのかわからない人は、身近な人でも、著名人でもいいので自分のロールモデルを設定するのがいいかもしれません。そうすると今の自分に足りていないことや必要なことが見えてきて、目標設定がしやすくなると思います。

私は、今、大きなチャレンジをしていますが、独立の準備のときから多くの方に助けてもらって今に至ります。自分の人生は1回しかないので、皆さんにもどんどんチャレンジをしてほしいですし、一生懸命やれば周りの方もきっと助けてくれますよ。

<取材・文:浅見祐樹、編集:小野茉奈佳>

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