本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。
リーダーも「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
知人のお米屋さんから購入するお米が、少し前から新米に変わりました。人間界は去年と全く違う秋になっていますが、収穫の秋は変わらず迎えられています。新米をたたえた稲穂は、お辞儀をしているかのように頭をもたげて、たおやかに揺れています。
そんな風景から思い浮かぶ言葉は、
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。
仕事をしながら、このことを実感しています。
私は、病院という組織を飛び出し、さまざまな業界の方とお会いしたり、接したりするようになりました。それまでは会えなかったような立場の方とお会いする機会もありますし、以前の自分であれば、もしかすると気後れをしたかもしれないと思うような出会いもあります。
そんな立場の方にお会いすると、先程の言葉が思い出されることが多いのです。トップ、責任者、管理者…。そういう立場であればあるほど、こちらが安心するような笑顔で迎えてくださったり、丁寧な言葉づかいで、こちらを尊重してくださったり――。アポイントが終わり、帰る時には、私にわざわざ頭を下げて見送ってくださります。
そんな方々の振る舞いに接するたびに、私はこんな品格を持てているだろうか、病院という組織、医療という現場はどうだろうか、ということを深く考えさせられます。
稲は自分だけでは育つことができません。支えてくれる、育ててくれる人がいるからこその、今の自分なのです。周りのおかげで育った成果に感謝して、たわわに頭をもたげる。そんな自分でありたいです。
事務長のプライドとは
先日お会いしたA事務長は、「下の者が言うことを聞かない」と、若い人達の習慣や行動に愚痴をこぼされていました。「私がこの組織では上だから、私が譲歩して指導しなければならないのでしょうけど」。
別の組織の責任者であるBさん。「リーダーの私に報告が無く、私の立場が無いのです」と立腹されていました。
今、この記事を読んでくださっている事務長は、この言葉を聞いて、どんな風に感じられますか。また、同じような言葉を口にした経験はありませんか。
A事務長には、自分が「上」であるというおごりがあるのかもしれません。組織図上の上下関係はあっても、それにこだわる事に何の意味があるのでしょう。私には、自分の管理能力を棚に上げている人、というように映りました。
それでは、Bさんの事例はどうでしょう。私だって「スルーされた」「軽んじられた」と感じたときは「何なの。馬鹿にしないでよ」と腹を立てることもあります。「私はこれまで、あなたよりどれくらい多くの経験をしてきたと思うの。私を誰だと思っているの」。そんな気持ちが、顔や態度に出てしまうこともあるかもしれません。でも、そんなときは、「私の価値は自分自身の中にはないんだ」と思い直します。「この仕事を成し遂げること、成功することにこそ、結果の良さにこそ、私自身の価値がある」と信じ、気持ちを切り替えてきました。今も、そうできるように努力しています。
褒められなくても、誰が見ていなくても、仕事の品質にこそ自分の価値がある。それこそが自分自身のプライドであり、ブランドなのだと思っています。
プロの“品質”を示すもの
私たちは労働の対価として報酬(給与)を受け取っている限り、プロです。仕事はプロセスではなくアウトカム。結果が全てだと私は思っています。そのためには何をしてもいい、過程は関係ないと言っているわけではありません。求められていることに対して、そこに到達できるか、期待を超えていけるか、が自分やチームへの評価だと考えています。
ISO9000で品質とは、「本来備わっている特性の集まりが要求事項を見たす程度」と定義されています。JISでは、以前は「品物またはサービスが、使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体」と定義されていました。つまり、品物やサービスが要求や期待に合っているかどうかの度合いです。
ちなみに、医療の質も「個人や集団を対象に行われる医療が望ましい健康状態をもたらす可能性の高さ、その時々の専門性に合致している度合い」(Institute of Medicine(1990))と定義されていますね。望ましいと考えられている状態にどのくらい合致しているかが求められています。
求められている結果とは。それを待っている人は誰か。仕事が上手くいくには。携わる人が満足感を得られる仕事とは――。
そんなシンプルなことだけを考えていったら、自分のちょっとした自尊心から解放されるのではないでしょうか。
事務長こそ、自分への期待を忘れずに
専門学校で、オープンキャンパスに関わらせていただいたり、講師として学生と接したりしていると、こんなに選択肢がある時代に、若い彼らが、進路や夢を決めることは難しいだろうなと感じます。
「まだ私も、道が定まっていないのか」と我ながら苦笑することもあります。40代の折り返しで病院を退職して起業しましたし、今も「こんなことしたい、あんなことしたい」と、落ち着きが無い大人です。しかし、いつになっても夢は持っていていいし、変わってもいいと思います。
自分の思い浮かべる、要求している自分自身の描く未来に、どれだけ近づいていけるか。生きている限り、自分自身の「品質」を追い求めていたいです。
組織の中で、組織の品質管理をすることは、事務長の業務でもあります。では、事務長自身の品質は管理できていますか?自分自身に対して、どんな要求や期待を持っていますか? その自分への要求や期待が、あなたの品質の度合いです。そして、自分が求めなければ、品質は決して向上していきません。
仕事で煮詰まったときは、現実から一旦離れて、自分の夢や未来の自分自身を思い描きましょう。そして現実に戻り、今の自分の品質と比べてみましょう。未来に向けてどうあるべきでしょうか。そう考えてみると、大きな心で仕事ができるようになるかもしれません。
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