経営層肝いりのRPA導入は、働き方改革の立役者になりうるか?【ケース編】─病院経営ケーススタディvol.14

A病院の概要
    1. 病床数:280床(一般病床280床(急性期一般入院基本料1)の総合病院)
    2. 場所:首都圏郊外
    3. 職員数:750名

RPA化を進めたい経営層に対し、現場は消極的な反応

業務をロボットにより自動化できるRPA(Robotic Process Automation)。働き方改革の一翼を担うとしてその利活用に注目が集まる中、A病院でも導入が検討されていた。

A病院では電子カルテといった医療システムの活用や、Excelなどによる作業の自動化が比較的進んでいるものの、手作業の仕事もまだ多くある。RPAの導入は職員の負担軽減・業務効率化だけでなく、ミス防止やコスト削減といった効果も期待できるはずだった。「働き方改革を推進する画期的なツール」というベンダーの言葉に背中を押され、経営層はW医事課長にこう伝えた。

「生産性向上のため、RPA導入を決めた。医事部門でテスト的に業務移行し、成果を出してほしい。人力に頼っている作業が多いから、人件費削減などの効果が大きいのではないか」

W医事課長は心の中で、「そう簡単に言うけれど……」とため息をついた。

RPAに業務を置き換えるためには、まず業務の可視化や自動化すべき作業の洗い出し・選定、作業手順のシナリオ作成をしなければならない。またシナリオ作成には、ロボットが正しく作業を行えるよう、適切な設定が求められる。プログラミング言語を実際に書くとまではいかなくとも、一定のIT知識が必要だ。

「業務を実際に担っている現場の人間が、シナリオ作成を行うのが理想的だろう」

こう考えたW医事課長は、医事課の職員たちにシナリオ作成への協力を求めた。しかし、トップダウンでおりてきた施策に対して、職員たちの反応は鈍い。

「1日たった5分の作業を置き換えるのがそんなに大変なら、わざわざRPAを使わずとも自分たちでやったほうが早いんじゃないでしょうか」

「便利になるのはありがたいけれど、RPAの仕組みが全然わからない。忙しいし、シナリオ作成はシステム部門にお願いしたいです」

消極的な声が多く、協力は得られそうにない。またRPAの使い方について教えようにも、W医事課長自身、十分な時間を取ることが難しい。仕方なくシステム部門に一連の設定を依頼することにしたが、システム部門も忙しい上に、現場の業務を十分に理解できているわけではないため、なかなか作業が進まない。

「せっかくの便利なツールも、導入しただけでは意味がない。『できればやりたくない』作業はたくさんあるはずだから、現場の職員たちがモチベーションを持ってくれればきっと有効活用できるのに……」

W医事課長は頭を抱えてしまった。

【設問】
  1. 今回のケースではどこに問題があると思いますか
  2. もし自分がW医事課長の立場ならどう対応しますか
  3. 今後、A病院ではどのような対策・仕組みづくりが必要だと思いますか

【解説編】はこちら

西・貴士(にし・たかし)
公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院 経営企画課 課長。大阪厚生年金病院の医事課にて10年勤務し、オーダリングシステム・電子カルテ・DPCの導入に携わる。医療系のベンチャー企業で3年勤務した後、松下記念病院にて医事課長、医療情報管理室課長、管理課課長を経て2021年4月より現職。現在の担当業務は経営企画、財務管理。経営管理修士(MBA)、医療経営士1級、上級医療情報技師、診療情報管理士の資格を有する。関西学院大学専門職大学院非常勤講師。(過去のインタビュー記事

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