2022年度の診療報酬改定に向け、中医協では9月から本格的な議論がスタートしました。改定が自院の経営にどう影響するか、心配されている病院は多いのではないでしょうか。このコラムでは、これまでの改定の流れをふまえて、2022年度改定の方向性を予想。さまざまな病院の経営支援に携わった経験をもとに、今回の改定を経営にどのように生かしていくべきかをお伝えしたいと思います。
山田 奈緒美(エムスリーキャリア/病院経営支援担当)
目次
- 2022年度診療報酬改定は、コロナ禍の影響で“小ぶり”になる見込み
- 2022年度診療報酬改定のポイントを予想
- 回復期重視からの“梯子外し”を警戒する病院も…
- 診療報酬改定に柔軟に対応することが、経営改善への近道
2022年度診療報酬改定は、コロナ禍の影響で“小ぶり”になる見込み
2022年度診療報酬決定までのスケジュールを見てみると、2021年7月から中医協総会で「次期改定の論点等」の整理が始まっています。前回は4月から始まった議論が、今回は新型コロナウイルス感染症流行の影響で3カ月後ろ倒しに。つまり、従来9カ月かけてきた議論を半年に短縮しているわけです。このことに加え、経過措置期間が延長された項目が多く、2020年度診療報酬改定の影響をまだ正確にはかれないため、大幅なてこ入れはないのではないかと予想します。
2022年度診療報酬改定のポイントを予想
2020年度改定の議論項目は、以下の4項目でした。
今回の改定の方向性自体も、新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みながらも、前回と大きくは変わらないことが予想されます。
この4項目の中で、病院にとってインパクトが大きいのは、
経営的には
2.患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
3.医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進
運用体制では
1.医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進
でしょう。
そこで、前回改定の内容をおさらいしつつ、次回変わりそうなポイントを紹介します。
1.医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進
近年の改定で、徐々に議論が進んできた項目です。
2019年より施行されている「働き方改革関連法」を医師に対して適用すること、いわゆる「医師の2024年問題」に関する取り組みの一環と考えてよいでしょう。
前回の改定では、医師事務作業補助体制加算について対象となる入院料が拡大されるなど、医師の負担軽減を促す動きが明確に見られました。
今回改定でも、負担軽減を推進する方向性は変わらないことが予想されます。今までは主に、事務員や看護師との業務分担を推進してきましたが、さらに今後は病棟薬剤師との連携が取り上げられそうです。
2.患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
前回改定と同様に、患者に「なぜこの診療行為が必要なのか」ということを知ってもらった上で、診療行為を進めることが評価される傾向は続くでしょう。
在宅医療や、かかりつけ医機能を持つ病院との連携が評価される傾向も変わらないと予想されます。
加えて、前回改定で評価体系が見直された救急医療管理加算についても、算定要件がより明確化される可能性があります。救急医療を担う病院は、入院の「緊急性」をより一層正しく評価することに意識を向けていく必要があるでしょう。
3.医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進
前回は急性期の入院料で、看護必要度に関わる施設基準が大きく変更されました。
しかし、次回の改定で大きく要件の変動がある可能性は低いでしょう。新型コロナウイルス感染症の影響で経過措置の期限が大幅に引き延ばされ、当該変更による影響評価がまだできていないためです。ただ、看護必要度ⅠからⅡへの移行については、推進が評価されているようです。次回の改定では、看護必要度の評価方法の変化に注目していく必要があるかもしれません。
また、前回改定では、主に療養病棟や回復期リハビリテーションでのデータ提出加算の届出が要件化されました。次回は、ひとまず「様子見」の可能性が高いですが、改定ごとにデータ提出加算が要件化される入院料は増えているため、まだ要件化されていない入院料を届け出ている病院も、前もって対応を考えておくのがよいでしょう。
4.効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上
前回改定で変化のあった入院時のポリファーマシー解消等の取り組みについては、医療機関と薬局を中心とした薬剤情報管理体制の構築が推進されると想定されます。
一方で、後発医薬品の使用促進については、メーカーの不祥事の影響を受け、評価の在り方を再考する可能性が高いと言えるでしょう。
まとめ
前回の改定時の議論は「診療報酬はあくまで地域医療構想に寄り添うべき」という理念のもと進められました。特に今回は限られた時間の中での議論となるため、重要度の高い、つまり地域医療構想で進捗の芳しくない項目に比重が置かれると思います。
新興感染症への対策を各病床機能で高めながら、どのように急性期病床を減らし、回復期病床の割合を増やすか(=どのように地域医療構想の計画を推進するか)が議論の中心になるはずです。少なくとも、地域医療構想実現の目安とされている2025年までは、回復期病床の施設基準が大幅に厳格化されることはないと考えていいでしょう。
回復期重視からの“梯子外し”を警戒する病院も…
日ごろ病院関係者から診療報酬についてよく耳にするのは「そうはいっても、すぐに回復期の点数を下げるんでしょう?」という声です。「導入してもすぐに点数が下がったり、要件が厳格化されたりする“梯子外し”に遭うのでは」と警戒する病院は少なくありません。
実際、地域包括ケアの病棟入院料、回復期リハビリテーションの病棟入院料の要件は、年々厳格化しています。ただ、私は、決して即時対応できなくなるようなレベルの厳格化ではなく、どうにか達成できる範囲の変化と捉えています。繰り返しになりますが、少なくとも2025年までは、回復期の施設基準が大幅に厳格化される可能性は低いです。
こういう言い方をすると、「2025年以降は変わるかもしれないじゃないか」という声が聞こえてきそうですね。もちろん、そうかもしれません。しかし、「梯子外しに遭うかも」と回復期病床の導入を見送ることによる増収の機会損失は確実にある、ということもお伝えしたいです。7年前の改定で回復期の病床機能が新設された際にすぐに導入できた病院は、この7年間確実に利益を得ています。再度大幅な改定が行われたら、そのときに、元の入院料に戻したり、その時に優遇される入院料に変えたりすることを検討すればいいのです。
診療報酬改定に柔軟に対応することが、経営改善への近道
診療報酬改定は2年に一回、確実にやってきます。制度の変化に合わせて動かなければ、経営改善のチャンスはつかめません。一方で、改定の指し示す方向性にいち早く対応できた病院は、大きな経営効果が期待できます。
「うちはこういう病院だから。診療報酬改定には乗っからない」と決意している病院は一定数あります。また、日々の業務が忙しく、「診療報酬改定の情報収集をしたり、改定に応じて院内を動かしたりする時間がない」というケースもあるでしょう。
ただ、改定に対応しないということは“診療単価を上げない”という選択を意味します。つまり収益を増やすには、必然的に患者数で勝負するしかありません。しかし、人口減社会で患者数を増やし続けるのは簡単なことではありません。特に、今は新型コロナウイルス感染症流行の影響で、患者数が減っている病院がほとんどです。
経営状況を改善したいなら、診療報酬改定の要点だけでも読んでいただき、いち早く取り入れるのが近道です。次回の改定は、基本的にこれまで示されていた方向性が踏襲される見込みなので、2022年度を待たずいますぐに取り組んでいただきたいくらいです。
「診療報酬改定に柔軟に対応できる病院こそが、生き残れる病院」。このことを、より多くの病院に伝えていきたいと思っています。
山田 奈緒美 (やまだ なおみ)
エムスリーキャリア 経営支援事業部 経営支援グループ所属。
京都大学卒業、同大学院修士課程修了。ジョージアでの日本語教師勤務を経て、帰国後は出版社で書籍編集者に。エムスリーキャリア入社後は、クライアントごとの特徴をふまえ、病床転換・レセプト業務改善をはじめとする経営支援を行う。
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TEL : 03-6895-5183
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