「人手が足りない」と言われる中での人件費抑制、どう取り組む?【解説編】:病院経営ケーススタディーvol.7

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病院で人件費のことに触れるのはとても勇気がいることではないでしょうか。現場の職員から「人手が足りない」と言われる中で何ができるか、は大きな悩みだと思います。
今回のケースでは、スタッフが「業務が多すぎて日中はレセプト業務に手が回らず、残業せざるをえない」とコメントしている一方で、医事課長は「人員に余裕があるときでもこなす業務量が変わらないため、残業が減りにくい」と言っています。このことから、日中はレセプト以外の業務をそのときいる人数で回すことが当たり前になっており、結果として余剰人員が有効活用できなくて残業が減らないという状況が見て取れます。どう対応するか、は病院の規模やフェーズによっても異なるでしょうが、主な選択肢としては、以下の3つが考えられます。

  1. これ以上辞められては困るので、人件費に目をつぶって、まずは残業抑制のために採用を行う
  2. 病院が潰れては意味がないため、業務の効率化を図り、人件費・残業代を削る
  3. 採用や入退職にまつわるコスト・労力、さらに残業代のことを考え、医事業務を丸ごとアウトソースする

もし私が下北沢病院(53床)でT事務長と同じ立場になったとしたら、2の効率化に着手します。それぞれの選択肢に触れながら、その理由をご説明したいと思います。

複数の判断基準から、自院にとって最適な選択肢を

1.人件費に目をつぶって、まずは残業抑制のために採用を行う

現場職員に経営視点をぶつけることへの躊躇が大きいと、ついついこの選択に流されてしまいがちかもしれません。しかし、業務は常に増えていくもの。業務が増えるたびに増員すれば、人件費は膨らむ一方です。また、採用にはお金だけでなく時間もかかります。増員の方向性をとる場合でも、まずは現行体制でできる対応策を検討することが不可欠でしょう。

2.業務の効率化を図り、人件費・残業代を削る

病院に限りませんが、特に定型的な業務や、担当者が少なく属人化している業務は、なかなか改善・棚卸しされないままルーティーン化しているケースも珍しくありません。実際に業務を行っている職員たちにはかえって改善点が見えにくいものですから、こうした機会に課題を可視化し、業務改善を促すのも事務長の役割なのではないでしょうか。
自動化のツールを導入するなどの場合は費用がかかりますが、業務の無駄を見つけてなくすといった取り組みはコストも時間もそれほどかからないので、まずはここから始めるのが妥当だと考えます。これは医事課職員に限らず、医療職にも当てはまります。
T事務長は医療未経験ですが、他業界にいたからこそ見えてくることも必ずあります。誰が何の業務を行い、どのようにシフトを回しているのか把握するだけでも改善点が見えてきますので、一歩踏み込む勇気を持つところから始めたいところです。

3.医事業務を丸ごとアウトソースする

一時期は医事業務の外注がトレンドでしたが、近年では、委託会社も慢性的な人材不足に陥っており、必要な人員数を確保できず職員の疲弊やミスにつながっている現場もあるようです。また、院内にスキル・ノウハウをもった人材が不足した結果、診療報酬をふまえた戦略をたてられない、算定について責任の所在が不明確になる、などの弊害も生まれていると聞きます。このため、長期的な視点では改善につながりにくいと考えました。外注は一度してしまうと戻すのが大変難しいので、先々のリスクもふまえて検討する必要があるでしょう。

ただし、これはあくまでも私が下北沢病院でやるとしたら、という前提での意見です。病院の状況や体制によっては当然異なる意思決定もありえますので、複数の判断基準を総合的に鑑み、自院にとって最も適した方法を考えていくと良いと思います。

月あたり約130時間の残業削減も!下北沢病院の取組み事例

最後に、私が下北沢病院で取り組んだ人件費抑制の取組み2つを紹介したいと思います。

(1)メリハリの徹底

残業時間の削減は、残業代抑制というコスト面だけでなく、職員が心身ともに疲弊してしまうことを防ぐためにも重要な取組みです。当院では残業時間の低減に取り組んだことで、1人あたり平均20~30時間の残業時間を削減でき、結果的に職員の負担感も減ったと感じています。具体的な取組み内容は次の通りです。

私は医事課長も兼務しているため、医事課職員のシフトを作成しています。シフト制の部署で、本来であれば2人でできる業務を、ゆとりを持たせるために日によって3人で担当している、ということはないでしょうか。そして、2人でできる業務だとしても、3人いると3人でやってしまう。そういうものだと思います。しかし、効率性という観点からは改善の余地があるでしょう。

私はこの問題と、残業時間の問題を同時に解決できないだろうかと考え、3名体制の日に1名は別室でレセプト作業などに専念してもらうことにしました。残り2名で対応できなくなったときだけ、別室からヘルプに行ってもらうのです。この仕組みを採用したことで、1名あたり20~30時間の残業を削減できました。当院は医事課職員が5名いますから、トータルでは月あたり約130時間の削減です。これは金額換算すると年間200万円以上の残業代削減となります。職員にとっては拘束時間の短縮により、負担軽減につながりました。

(2)業務の“見える化”でパート職員にタスクシフト

パート職員の活用は他院では一般的だと思いますが、当院はこれまで事務職のパート職員の雇用はしていませんでした。「小規模病院のため、パートさんにお願いできる業務はそれほど量がない」などの声が職員から上がっていたからです。
だから人手不足になると、正職員の採用を求める声があがります。これに対し私は、コスト削減や人件費抑制を促す事務長という立場上、自分の部署で率先して正職員を増員することはできないことを説明し、「どうしても無理なら検討するが、まずは1名パート職員を採用してみて、実際に機能するか試してみてはどうか」と伝えました。そしてようやく、パート職員の雇用に動き始めました。

パート職員が機能するように意識したことは、「業務の見える化」と「採用ターゲットの明確化」です。なぜなら、職員からはパート職員にお願いできる業務量がないという話でしたが、具体的に検討したわけではありません。パート職員に渡せる業務がどの程度あるのかを“見える化”する必要があったのです。また、そもそも採用できなければ何も始まりません。採用したい人物像を明確にして、確実に来ていただけるように対策しなければいけませんでした。

業務の見える化

正職員とパート職員の業務区分をつくるため、すべての業務をリスト化、区分けしました。さらに、リストの中でパート職員でも対応できる業務を選定し、マニュアル化を進めました。業務のリスト化により、誰がどの業務ができるのか、そして現在誰が実施しているのかが“見える化”されたことで、より効率的な人員配置を検討できるなど、大きな副産物が生まれたと考えています。

採用ターゲットの明確化

まず、働いてもらうパート職員のモデル像を考えました。当院が位置しているのは駅近くの高級住宅街エリアです。立地の良さを生かさない手はありません。子育てが少し落ち着いた主婦の方で、家事・育児の合間に少し外でも働きたい、という人をイメージしました。次に、ターゲットにあわせて以下のように条件を決めました。

・週に3日程度の勤務で、シフトも比較的自由に選択できる
・勤務時間は、9時15分~12時15分、13時~16時
(主婦の方は朝が忙しく、また夕方以降は買い物や洗濯物、夕飯の準備等の家事があるため)
・シフト作成時も、勤務日や勤務時間に関してだけは決して無理を言わない
(パート職員の方にとってはその条件が守られることが働くうえで最も重要と考えたため)

こうした取組みの結果、現在までパート職員の採用に困ったことはほとんどありません。最初は受付・会計業務から始めたパート職員の雇用でしたが、現在では院内のニーズも増え続け、外来窓口業務や外来看護師サポート、外来医師サポート、薬剤科補助、栄養科補助、中材科補助など多岐にわたり、人数も2人から10人まで増やすことができました。結果的に、パート職員を配置した部署では、正職員の増員を求める声がとても小さくなったと感じています。

人件費の上昇を抑える活動は、あくまで職員を守るためです。T事務長も考えたように、病院は専門職が医療を提供する場であり、そこでは商品、つまり“モノ”ではなく、働く“ヒト”が、収入を得るための原資です。人を大切にするために、経営を安定させる必要があり、そのための試行錯誤は経営陣にとって必要不可欠です。今後も増員の前に、「まず自分たちでできることは何か」を考え続けられる組織運営を心がけていきたいと思います。

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「人手が足りない」と言われる中での人件費抑制、どう取り組む?【ケース編】:病院経営ケーススタディーvol.7

<編集:角田歩樹>

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