コロナ禍でも機能する地域連携の本質【解説編】―病院経営ケーススタディvol.11

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2020年7月以降も、医療機関は赤字続き

コロナ禍における医療経営は、緊急事態宣言後も過酷な状況が続いています。2020年11月に3病院団体(日病・全日病・医法協)から示された「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第2四半期)」(執筆時、最新)でも、7月以降、外来・入院患者数や、手術・検査・救急患者受入件数は回復傾向も小幅にとどまり、昨年比では大幅な減少、そしてコロナ患者受入有無によって差はあるものの、赤字が継続したとの調査結果が確認できます。

日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会 
新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第2四半期)」P.11より抜粋

さて、今回のケースでは患者数回復の一手として地域連携室に白羽の矢が立ち、担当者は困惑していた様子です。それは一体なぜなのか、大枠から整理していきましょう。

集患・加算取得…地域連携室の評価軸

はじめに、地域連携室の歴史を振り返りながら、病院経営に携わる院長や事務長、もしくは病院経営コンサルタントなどの視点から地域連携室の立ち位置を考えてみます。

地域連携室の存在が重要視されるようになったきっかけは、平成19年(2007年)の第5次医療法改正によって、病院完結型医療から地域完結型医療に転換したことです。

これにより、これまで自院で入院から在宅復帰までを担う形態から、急性期は急性期病院、回復期は回復期病院、普段はかかりつけの診療所でと、各医療機関の役割分担が明確になりました。そうすると患者は症状に応じて転院するため、医療機関の紹介・逆紹介、その際の連携が重要視されるようになったのです。

地域連携室は、紹介・逆紹介数の管理はもちろん、自ら営業回りをしてスムーズな連携体制を作り、紹介数の増加=集患を行う部署として期待されてきました。そのため、多くの経営陣が、紹介患者数の増加などを地域連携室の評価軸にしているのではないでしょうか。

また、地域連携室内で主に退院支援を行う医療ソーシャルワーカーには、入退院支援加算1(一般病棟入院基本料等の場合600点)の取得目標を掲げる医療機関も多いと聞きます。入退院支援加算とは、入院時から退院支援を行い、患者さんに安心して生活復帰をしてもらうための相談支援です。当初は診療報酬点数が高くありませんでしたが、2016年の診療報酬改定で600点が付くと目玉加算と認識され、全国の採用市場で医療ソーシャルワーカーの求人が溢れました。

しかしこの末路は、入退院支援加算1の施設基準である「入院1週間以内の患者家族との面談・退院支援計画書の作成」に忙殺され、一番重要な退院直前の相談支援に費やす時間を失い、加算取得ありきの低質な退院支援が一定数増加しました。また、医療ソーシャルワーカー自身も、自身の専門性を活かした相談支援ではなく、加算取得のノルマ達成を目的とした仕事に疲弊し、人材流出と採用の繰り返しによる更なる質の低下を招きました。

自院の利益のみを目的にした加算取得、平均在院日数の短縮などで退院支援の質が低下すると、結果的に診療所や介護事業所との信頼関係を失い、再入院率の増加を招くことになるとは、この時、経営陣は気付いていなかったのです。

経営陣が評価すべき数字以外のこと

多くの場合、経営陣は各部署の数字をもとに、さまざまな経営判断・評価をしているのではないでしょうか。定量的な指標は、部署や職員の評価に活用しやすいのは確かで、仕方のないことです。しかし、地域連携室では定量評価だけでは現場を理解してもらえないと思う職員も多く、そのギャップが組織のロイヤリティーやモチベーションに影響を及ぼしているのもよくある話です。

では、地域連携室を営業訪問件数や紹介患者数だけで評価しないためには、どのような取り組みが大切でしょうか。

一番簡単なのは、経営陣も営業訪問に同行することです。しかし、「こんなこと元々既にやっています」という方も多いかもしれません。では訪問先で、どのような会話を耳にしているでしょうか。

ただ一緒に訪問をして、訪問先に「いつもお世話になっております。適応の患者さんがいたら是非ご紹介ください。連携の上で何か困ったことはありますか?」などとありきたりな挨拶をしていたら、数字だけの評価でも致し方ないでしょう。地域連携室担当者が自発的に行うことが望ましいのですが、状況によっては経営陣から具体的にどのような患者で、どのような連携をしたのかを聞き出し、定量では評価できない定性面を知ることが大切です。

例えば、診療所への訪問なら、以下のような会話が考えられます。

地域連携室:この前退院した〇〇さん、その後どうなりましたか?
診療所:患者さんが退院した時に奥さんがとても喜んでいたようですが、不安も大きかったみたいで。でも、その後その奥さんも大分在宅介護に慣れて・・・。
地域連携室:もし入院が必要になったらすぐに連絡をください。
診療所:ありがとう。この前も△△さんの件でも、相談したらすぐに入院手配してくれてとても助かったよ。
地域連携室:△△さんは無事に緊急手術を終えて、今はリハビリを頑張っていますよ。このまま順調に行けば、あと2週間くらいで退院できそうです。

一症例一症例を大切に、診療所の先生と連携している様子がわかります。さすがに具体的な患者情報を扱った連携は、院長や事務長には絶対にできない業です。特に家庭医や総合診療医として開業している医師は、患者さんのみならず、家族の様子、介護力、住環境など、一家を全人的に診ています。その視点は医療ソーシャルワーカーと通ずるところが多くあるので、患者に一歩踏み込んだ連携を理解しやすいのではないでしょうか。

しかし、コロナ禍では営業訪問やその同行が難しい場合もあります。そこで地域の医療機関の反応や動向などは、月報や相談といった形で、地域連携室と経営陣が定期的にやりとりできるしくみを作っておきます。また、個別の成功事例や地域連携室からの「聞いてください。こんなことがあって、こうだったんですよー。」といった雑談には、積極的に耳を傾けておくと良いでしょう。

これまで言われていた“顔の見える連携”は、言葉通り、名前と顔が一致する程度の連携に留まることもあります。しかし、先ほどの会話例のような両者の信念が通ずる“患者の生活が見える連携”ができれば、いずれ信頼関係に昇華します。地域連携室がこのような数字以外の価値をアピールしなければならない課題もある一方で、経営陣が正しく理解・評価することも求められます。そしてこの信頼の連携の積み重ねができていたかどうかが、コロナ禍の地域連携に大きな影響を与えているのです。

揺るがされる“顔の見える連携”

例年、インフルエンザ流行時には多くの医療機関が面会制限を行います。しかし、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年2月以降、都市部を中心に今なお、無期限の面会制限を続ける病院が少なくありません。コロナ禍では、各医療機関で厳重な対策が取られ、入り口で検温・問診等を済ませなければ、入館すらできません。これらは患者、家族のみならず、MR、MS等、各業者にも例外なく実施され、地域連携にも大きな支障を及ぼしています。

一方、昨今の地域連携は、何よりも“顔の見える連携”が重要視されてきました。これはどこにどのような医療者がいて、どのような信念のもとで医療を提供しているのかがわかり、会った際には顔と名前が一致して、紹介した(された)患者さんの情報交換ができるといったFace to Faceの交流です。

しかし、最小限の接触が求められるコロナ禍では、営業目的の訪問が敬遠され、場合によっては、“非常識”と言われる可能性も出てきたのです。現に、筆者自身、緊急事態宣言初期にマスクも付けず、アポなしで訪問する営業マンに嫌悪感を抱き、苦言を呈したことがありました。おそらくこの頃はまだ、営業訪問が感染を媒介する可能性があるとは考えていなかったのでしょう。しかし、今後しばらくはFace to Faceでの営業訪問は地域連携の手法としてふさわしくなく、新たな連携の形を見出す必要があります。

したがって、ケース編の地域連携担当者の困惑は、事務長からの“紹介件数が減少した=営業周りをする”といった、コロナ禍以前の考え方に違和感を抱いたのではないでしょうか。

オンライン地域連携の実態

では、Face to Face以外の方法とは何でしょうか。まず挙げられるのが、オンラインの活用です。確かに、コロナ禍でオンライン会議・研修会は一気に加速、定着しました。

地域医療連携の領域では、2018年の診療報酬改定から始まった退院時共同指導料の地域事業所間のオンラインカンファレンスは、2020年の改定でさらなる対象拡大や規制緩和が進められています。しかし、実際のところは、オンラインではほとんど行われていません。

その理由は、オンラインカンファレンスを行う業務用デバイスがない、通信環境が確保されていない、お互いの通信アカウントを知らない、そもそもアカウントすら持っていないといった根本的な問題で、事業所をまたいだオンラインカンファレンスはなかなか浸透していません。そうなると現時点ではオンラインだけでは地域連携はままならないことがわかります。

営業訪問ができない今、やるべきこと

コロナ禍で“営業訪問”という手段を失った地域連携は、今、どうなっているのでしょうか。

これまで頻回の訪問だけで顔を繋いできた医療機関は、訪問が途絶えた途端、忘れられてしまった可能性があります。それは、患者さんを中心とした連携のプロセスの記憶が無いからです。

理想の地域連携は、連携先の記憶に残る成功体験を積み重ねること。例えば「○○さんの時は大変だったけど、最終的に上手くいったな。良い在宅看取りを支援できたな」、「△△さんの時は本当に助かった。手遅れにならなくて良かった」といった経験です。これは、件数のみの評価では表せない成果です。上記のような地域連携を積み重ねていれば、旧来の方法である電話での解決が見込めます。例えば次のような展開が予想されます。

地域連携室:先生、最近コロナで訪問を控えているのですが、その後何か困ったことは無いですか?うちは鼻腔で検体採取して、インフルエンザと共に検査できる抗原検査キットを導入して・・・。
診療所:大丈夫だよ。そのキット導入したの?じゃあ今度疑い患者が来た時に君のところに相談しようかな。あとコロナのことは気にしなくていいから、おいでよ。色々話も聞きたいし。

要するに“真の顔の見える連携”が信頼関係のもとで構築されていれば、営業しなくても相手から求められる存在になれるのです。

これまで“真の顔の見える連携”、“患者の生活が見える連携”ができていなかったと感じるなら、初対面やご無沙汰してしまった連携先であろうと、営業を前面に出さず、あくまでも患者さんの紹介・逆紹介を通じた“実”の連携で、記憶に残る成功体験をコツコツ積み重ねることです。これは今からでも遅くありません。

例えば、「現在入院中の患者さんを、退院後に新規でフォローアップしていただきたいのですが、ご相談は可能でしょうか?」とこちら側から患者さんを紹介する。紹介患者さんをお戻しする際には、「入院前の状態と大きく変わってしまったと思われるので、コロナ禍ではありますが、患者さんのためにも退院前カンファレンスを開きたいのですが、ご参加いただけますでしょうか?」と提案する。このように丁寧に患者さんのやりとりができたという成功体験を得てもらうことが重要です。

なお、地域連携室だけではなく、医師や病棟看護師の総力戦による成功と認識できるよう、連携先からの感謝やその後の患者さんの報告があった場合には、地域連携室内だけに留めず、主治医や当該病棟までフィードバックするしくみを作ることをおすすめします。

地域連携室の業務は、ここ10年でさまざまなノウハウが積み上がり、紹介・逆紹介の管理などは当たり前になりました。最近は経営学的な業務分析や形式化、手法の開発がいくつも発表されてきています。しかし一見、小手先の手法や頭でっかちなマネジメントにより、患者さんや現場職員が置き去りとなるマネジメントもよく目にします。

地域連携の歴史が始まってから10年強。コロナ禍によって、地域連携の本質が見え隠れしてきたように感じています。経営者の皆さん、ここで一度、地域連携室の内側を再確認してみてはいかがでしょうか。

「コロナ禍における地域連携部門の業務図」筆者作

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