医師法に抵触しないけど初診時は報酬なし オンライン診療は普及するか―医療ニュースの背景が分かる

医師法に抵触しないけど初診時は報酬なし オンライン診療は普及するか

医療介護CBニュース記者 兼松昭夫

スマホなど情報通信機器を活用して提供する「オンライン診療」への診療報酬が新設されて半年が過ぎました。中央社会保険医療協議会(中医協)の議論に先行して安倍晋三首相が2018年度診療報酬改定での評価を明言するなど、注目を集めました。しかしふたを開けてみると、対面診療に比べて点数設定が低い上、要件も厳しくハードルが高めな印象です。医療現場には、今後に期待を込めて「新たな評価ができたことにこそ意味がある」と前向きな受け止め方もありますが、これからどこまで普及するのでしょうか。

初診患者はオンライン診療料の対象外に

今回できた新たな評価は、情報通信機器を使ってオンライン診療を行った際に算定する「オンライン診療料」(月1回70点)と、オンラインで医学管理を行い算定する「オンライン医学管理料」(同100点)の2つが軸です。これらのほか、在宅患者向けに「オンライン在宅管理料」と「精神科オンライン在宅管理料」(いずれも同100点)も新設されました。

オンライン診療料の対象は、「地域包括診療料」や「在宅時医学総合管理料」(以下、在総管)など10種類の医学管理料のどれかを算定している、初診以外の慢性疾患の患者です=表=。一方、オンライン医学管理料は、在総管など在宅関連の2種類を除く8種類の医学管理料が対象です。医療機関は、オンライン診療料(基本診療料)とオンライン医学管理料(特掲診療料)とを組み合わせて算定します。

厚労省の資料(2018年3月)から抜粋

厚労省の資料(2018年3月)から抜粋

オンライン診療料の新設は2018年度改定の目玉の一つでしたが、要件を見ていくとハードルの高さが目立ちます。例えば、オンライン診療料を算定するには対象の医学管理料を算定し始めてから6カ月間、毎月同じ医師が対面で診療を行う必要があります。オンラインでの診察もそれと同じ医師が行い、しかもオンライン診療を行う医療機関には、厚生労働省が2018年3月に公表した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿った体制の整備や、緊急時を想定しておおむね30分以内に対面で診察できる体制確保も求められました。

医療機関は対面での診療とオンラインの診察を組み合わせた診療計画をあらかじめ作成します。その際、オンライン診療料を3カ月連続で算定することは認められません。これは、それぞれの診療の適切な組み合わせを担保するためで、少なくとも3カ月に一回は対面での診療を組み込む必要があります。

点数設定はどうでしょうか。オンライン診療料の対象の医学管理料のうち、例えば「糖尿病透析予防指導管理料」は350点。これに再診料の72点を組み合わせると、対面診療で算定できる報酬は計422点です。「オンライン診療料+オンライン医学管理料」の計170点と比べると、対面診療の方が収益上はずっと有利な設定です。

オンライン診療のこうした評価のベースには、厚労省が2017年末、中医協に提案した「遠隔診療を評価する場合の基本的な考え方」があります=表=。

中医協の資料(2017年12月)から抜粋

ポイントは、遠隔診療を行うに当たり、「事前に治療計画を作成していること」とされた点です。初診の患者にはあらかじめ計画を作ることができないので、遠隔診療の対象から必然的に外れることになります。オンライン診療料の対象患者が「初診以外」とされたのはこのためです。「遠隔診療はあくまで対面診療を補完するためのもので、初診は必ず対面で行うべき」だとする日本医師会の主張に沿った形です。

なお「分かりにくい」の声

遠方の患者を医師がテレビ電話などで診る「遠隔診療」をめぐっては、長い間ルールがあいまいでした。場合によっては医師法で禁止されている「無診察治療」に当たるという指摘もあるのに、実際にどのようなケースが違法なのか、線引きされていなかったのです。しかし政府は2017年、遠隔診療の推進へかじを切ります。

きっかけは、国の成長戦略を話し合う「未来投資会議」での安倍首相の発言でした。同年4月の会合で、「対面診療とオンラインでの遠隔診療を組み合わせれば、これ(「かかりつけ医」の継続的な経過観察)を無理なく効果的に受けられるようになる」と述べ、翌年の診療報酬改定で評価することを明言したのです。

その後に閣議決定された政府の「規制改革実施計画」では、対面とオンラインの診療を組み合わせた経過観察によって糖尿病の重症化を防ぐような取り組みが適切に評価されるよう、2018年度の診療報酬改定に向けて検討することとされました。さらに、遠隔診療を推進するための規制緩和策として、▽「離島・へき地」以外でも実施できる▽初診時も実施できる▽全てを遠隔で行う禁煙外来や1回の診療で完結する疾病では、遠隔診療を医師の判断で実施できると想定される―ことなどを通知で明確化する方向性も打ち出しました。

これを受けて厚労省が動きます。医師法を所管する医政局医事課は2017年7月、「保険者が実施する禁煙外来」では、直接の対面診療を医師の判断で「柔軟に」取り扱っても、医師法に直ちには抵触しないとの解釈を各都道府県などに通知しました。とても限定的とはいえ、これは、対面診療を行わず遠隔だけで診療を完結させることを実質的に認めるものです。通知ではさらに、「保険者が実施する禁煙外来」以外のケースで、患者側の都合で診療が中断し結果として対面診療を一度も行わなかったとしても、医師法などの規定に直ちには抵触しないという解釈も示されました。

そして2018年3月には、オンライン診療の提供に必要な体制などを整理した厚労省の指針が公表されました。

遠隔診療の運用がこうして少しずつ明確になってきましたが、それでもなお、分かりにくさを指摘する声があります。例えば初診に関する解釈です。厚労省の指針では、オンライン診療を実施する際の基本理念として、「原則として初診は対面診療で行い、その後も同一の医師による対面診療を適切に組み合わせて行うことが求められる」とされました。

しかし、この指針の別の項目では、オンライン診療を速やかに行う必要性が認められるなら、有効性やリスクを踏まえた上で「医師の判断の下、初診であってもオンライン診療を行うことは許容され得る」とも指摘しています。

初診は医師と患者が対面で行うのが原則だけど、どうしてもオンラインで行わなければならないケースが本当にあるなら、医師の判断の下で行っても医師法に直ちには抵触しない、といったところでしょうか。

とはいえ、初診時には診療計画を作成できないのでオンライン診療料を算定するのは不可能です。ですから、「保険者が実施する禁煙外来」の患者を仮に遠隔のみで診療しても、初診時には診療報酬を算定できません。

政府内の議論は次のステップへ

グレーゾーンが残るオンライン診療をめぐり、政府内での議論は次のステップに進んでいます。2018年6月に閣議決定された規制改革実施計画では、「『一気通貫の在宅医療』の実現」を掲げ、オンライン診療のルールの適宜更新や、安全性・有効性を示すデータ収集の推進などを盛り込みました。日進月歩の技術やエビデンスの集積にすぐ対応するため、厚労省の指針を少なくとも年一回は更新し、実務面の解釈を盛り込んだ詳しいQ&Aも作成するとしています。

さらに今回の実施計画では、電子処方箋の「引換証」と「確認番号」を患者が薬局に持参するというこれまでの運用モデルを改めたり、オンラインによる服薬指導を一定の条件で解禁したりする方向性も打ち出しました。このうち電子処方箋に関しては、完全電子化までの工程表を厚労省が作ります。

服薬指導は現在、薬剤師が対面で行うことが医薬品医療機器等法(薬機法)で義務付けられています。そのため、オンライン診療が認められても患者は結局、薬局に足を運ばなくてはなりません。自宅から移動するのが困難な高齢の患者がこれから急増するのに、診療から薬の受け渡しまで全てを在宅で完結させる「一気通貫の在宅医療」を、このままでは実現できないというわけです。

実施計画を踏まえて、薬機法関連の制度の見直しを話し合う厚生科学審議会の医薬品医療機器制度部会が法改正を視野に検討を進めています。在宅医療が必要な患者に服薬指導を提供するため、薬剤師の積極的な訪問をまず促し、オンライン服薬指導を補完的に活用するというのが厚労省のスタンスです。オンライン服薬指導をへき地以外でも認めるかなど、「一定の条件」の具体化が焦点です。

厚労省の資料(2018年7月)から抜粋

一方、診療報酬への反映に関して厚労省は、まずは有効性・安全性などに関する知見の集積を優先する方針です。2018年度報酬改定の附帯意見では、オンライン診療料の新設による影響を検証し、遠隔モニタリングへの評価などを引き続き検討することが明記されました。次回以降の改定に向けて、中医協の検証部会がオンライン診療の普及状況などを調査します。

遠隔診療への慎重論がなくならない理由の一つは、安易な拡大が「オンライン診療」をかたる“偽医者”のような不適切事例につながりかねないためだという声もあります。こうしたケースが万が一にも出れば、「新しい医療」(安倍首相)への信頼が一気に揺らぎかねません。

患者の利便性と安全性を両立させる方法の確立が不可欠です。

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