火のないところに煙がたつ教授選に出てみませんか?―後編―医師への選択、医師の選択【第26回】

著者:野末睦(あい太田クリニック院長)

 
前編でご紹介したように、半年間でとにかく集中して論文を書きまくりましたが、残念ながら足りなかったようです。選考委員の中に、医師になったころからの知り合いの方がいたので、その教授選の最中に挨拶しに行きましたが、その場で「野末君、あんなに論文の数が少ないとは思わなかったよ」とはっきりと言われてしまいました。その方は、教授になろうと決めてから毎日朝3時に起きて、論文を継続的に書いていたそうです。合計で100編以上になったとか。わたしの論文数とは雲泥の差でした。

教授選中に流れた事実無根の噂

わたしの知る限りで、筑波大学の教授選は情実で決まることはありません。ところがこの教授選の最中に流された噂には、本当に驚きました。それは全くの事実無根なのですが、「火のないところに煙はたたず」という言葉があるように、一度噂が流されると、多くの方は信じてしまうようなのです。

その噂とは、出向した関連病院で、わたしが職員と関係を持ち、院長からこっぴどく怒られたというものでした。かわいがっていた後輩が「野末先生、こんな噂が流れていますよ。そんなことはないと思いますが、思い切って先生に直接聞いてみようと思って…」と尋ねてくれたのです。噂が流れ始めて既に数か月たっていたようなのですが、それまで全くわたしの耳には入りませんでした。「そんなことをするはずないじゃないか」と即座に答えましたが、それでもその後輩ですら噂を少し信じそうになっているようでした。

その時に、あるものを思い出しました。実はその病院を退職するときに、それまでの貢献への感謝の意を込めて、院長から表彰の盾と副賞の旅行券をいただいていたのです。その表彰盾を後輩に見せて、やっと、そのようなことは全くなかったということを納得してもらったのでした。わずか2年間の勤務で、表彰され、しかも盾を授与されるということはふつうあり得ないことなので、その意味を後輩もわかってくれたようでした。この経験を通して、「火のないところに煙がたつ」という言葉もあるように、教授選には恐ろしい側面もあるということがよくわかりました。

「教授をめざすために必要なこととは何でしょうか?」への私的結論

教授になりたいと少しでも思っている人は、論文を書き続けることが必要。どんな落とし穴が待っているかわからないので、慎重な行動と、あらゆる場面での貢献を心がけましょう。

野末睦(のずえ・むつみ)

初期研修医が優先すべきこと2―医師への選択、医師の選択(野末睦)筑波大学医学専門学群卒。外科、創傷ケア、総合診療などの分野で臨床医として活動。約12年間にわたって庄内余目病院院長を務め、2014年10月からあい太田クリニック(群馬県太田市)院長。
著書に『外反母趾や胼胝、水虫を軽く見てはいませんか!』(オフィス蔵)『こんなふうに臨床研修病院を選んでみよう!楽しく、豊かな、キャリアを見据えて』(Kindle版)『院長のファーストステップ』(同)など。

 

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