医師・医療者と対等な事務職をめざすには―大阪府済生会中津病院 事務部長代理 濱中浩孝氏

「事務職を医師・医療者と対等な存在にしたい」――。そう語るのは、社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 大阪府済生会中津病院(大阪市北区、712床)で、事務部長代理として活躍している濱中浩孝氏。自動車メーカーの営業マンだった濱中氏が医療業界に飛び込んで最初にしたことは、医療現場に積極的に出ることでした。現場感を培いながら、診療情報管理士として経営分析や改善活動にも携わってきた濱中氏に、これまでのキャリアと事務職が心がけるべき心構えを聞きました。

きっかけはバイク事故

済生会 医療事務―濱中さんのキャリアスタートは、医療業界ではなかったそうですね。医療の世界にはどのように入ったのでしょうか。
元々はこの業界とは全く関係がない自動車メーカーの営業マンでした。ところが、プライベートで出場していたバイクレースで転倒してしまい、3回も手術しながら半年間入院することになりました。
当時の主治医からは「外回りの仕事やバイクレースはもうできないから今後はデスクワークへ」と言われてしまい、動くのが好きなわたしには大変ショックな話でした。普通の事務では面白くないと思っていた矢先、主治医から「医療事務という医療専門の事務もあるよ」と教えてもらったのが医療の世界に入るきっかけでした。それから医療事務の勉強を始めたのが24、25歳の頃ですね。

最初に入った病院は、民間の500床の救急病院でした。その後、医療事務の派遣会社でスタッフ教育や新病院の立ち上げなどをしたり、200床規模の救急病院でクレーマー対応をしたりと、色々経験しましたね。

診療報酬は現場ありきで学ぶ

―病院事務職として働き始めたときは、どんなことを?
最初にこの仕事を勧めてくれた先生から、「まずは医療を知ったほうがいいよ」とアドバイスをもらったので、実践しましたね。たしかに名称や数字だけを見ていても、現場をまったくイメージできませんでしたから。

理解するためには「現場を見ること」、そして「できることを体験する」――。この2つが大切だと感じ、たとえば手術を見学させてもらったり、レントゲン、検査、生理検査の現場にも勉強しに行ったりもしました。それから、医師には縫合を、看護師さんには点滴のやり方を実際に教えてもらったりもしましたね。また、自ら経験をすることもしました。右も左もわからない頃だったので、何も考えずに何でも教えて教えてとお願いしていたら、医師が「こうや、見せたる」って言ってくれて。ありがたいことです。そうやって現場を見ながら、医療ありきで点数を調べて勉強していました。

―一般的な事務職とは逆のプロセスで勉強しているようですが、理解度は違いますか?
関連する事柄をイメージできるようになります。
たとえば、骨折の手術なら当然、麻酔は使うはずです。しかし医師がシステム上で麻酔のオーダーを出し忘れていたとき、そのまま麻酔なしの算定をしてしまう人がいるのですね。一つの診療行為に対し、関連する薬剤や材料がきちんとオーダーされているかは、医療を知っていないと気付けません。
ほかにも、尿道用のカテーテルを使う時に、胃管用のカテーテルを代用することがあります。患者さんのケースに合わせての医療的な対応なのですが、通常は診療報酬の算定ができません。そのまま請求すると査定で戻ってくるので、診療の妥当性を記載しておく必要があります。こういうことは、医療現場に入ってからでないと分かりにくい。

濱中浩孝―濱中さんは診療情報管理士の資格もお持ちですが、医療現場と分析手法の両者を知っているからこその利点はありますか?
数字の意味が分かりますし、先手を打つこともできるようになります。

たとえば、一つの診療科をずっと見ていって、ある月の収益が下がっているとなった時に、ひょっとしたら手術件数が減っているのではないか、この時にドクターの入れ替えがあったからだとか、そういう想像ができるようになるのです。事務部門には残念ながら、原因の掘り下げが甘かったり、原因を調べるのに丸一日掛けていたりするスタッフもいます。現場を知っていればすぐ予想がつきますけどね。だから、後輩にもまずは現場に行くことを勧めています。

―先手を打てるというのは?
わたしの師匠みたいな方がいて、「毎朝病院を一周しなさい。そうすればその日に何が起きているのか、何が起こりそうなのかわかるはずだから」と、よく言われました。たとえば、昨日は病棟に50人くらい患者さんがいたけれど、今日は半分しかいないとなれば、後々データとして病院の収入に影響が出てきます。現場で見ておけば、収入データとして出て来る前から、要因がわかり先手を打つことができるようになります。とにかく、毎日現場を見ることが大事です。

医療者と対等な立場で、経営を担う病院事務職へ

―病院の事務職はどうあるべきだとお考えですか?
医療者から頼りにされる事務職にならないと。今までの事務職、特に医療事務は、病院スタッフのランクでは一番下に見られる傾向がありました。しかし、少しずつですが医療事務が専門職であり、医療職と同等だという見られ方に変わってきています。
海外には事務職が医師と同等だとみなす国もあります。医療と経営が別に存在しているという考え方が浸透しているのですね。わたしがめざしているのは、そのような姿です。

―経営面で頼られるということですね。そのために事務職はどうすれば良いのでしょうか?
まずはいち早く情報を取りに行くこと。そして分析力を上げることです。当院のように病院激戦区だと、いかに近隣病院よりも早く情報を得るかが大事です。診療報酬改定など、制度の変化をいち早く理解し、対応することが病院の存続につながります。

わたしは毎朝、注目のニュースを院内にメールで転送しています。最初はわずかなスタッフしか読んでくれなかったのですが、めげずに発信し続けていたら、今ではほぼ全員見てくれるようになりました。医師から「このニュースって、どういう意味?」と質問も来るようになったんですね。これも一つ、頼りにされていることだと思います。小さいことに映るかもしれませんが、質問に答えながら雑談して、日頃思っていた改善案を軽く提案することもできますから侮れません。

大阪府済生会中津病院―そうやって自分のペースに持っていくわけですね。分析力を上げるというのは?
経営に関与していくには分析が不可欠です。当院では看護必要度を毎日チェックしています。というのも、当院は紹介率が約90%ですが、さまざまな患者さんが来ます。その中には、風邪が長引いているから診てほしいといった軽症な患者さんが紹介されてくることも結構あるのですね。そうすると、重症な患者さんの診療にリソースを割けなくなる。

ただ、ここで「数字が下がっています」と言うだけじゃダメなのです。看護必要度が目標ラインを満たしていないときは、紹介してくれた医師の元に地域連携室が出向いて、700床規模の急性期病院が本来診療すべき患者層を紹介してもらえるように調整していかないといけないわけです。

―はじめのお話に戻りますが、そうした改善を図ろうとしたとき、医療のことも知っておかないと実行できないですね。
そうです。医療のことが分かる事務職として、医療者に助言できるような立場になっていかないと。そういう事務職が増えないと、これからの病院は生き残れません。

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