地理情報を活用したスマホ広告で集患~クリニック広報支援―病院マーケティング新時代(29)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director

小倉記念病院 医療連携課

目次

いましているクリニックの集患施策、本当に必要ですか?

今回は私が個人的に行っている「クリニックへの広報支援」についてご紹介します。

私が支援しているクリニックは、日帰り手術を行うビジネスモデルです。

一般的な内科クリニックのようにかかりつけ医機能を持っているわけではなく、言ってみれば急性期病院のように新規の患者さんを常に集患し続ける必要があります。

支援を始めたのは2020年4月から。最初に思ったのが「世の中、悪い奴が多いなぁ」ということです。もういろんな広告代理店に“ぼったくり”をされていると言ってもいい状態でした。

そのクリニックで、広告代理店により実施されていた施策の例を挙げてみます。

  • 誰でも手に入るようなワードプレスのテンプレートによるダサいホームページ制作
  • 誰も見ないような病院紹介動画の制作
  • 「好きな検索ワードで上位表示させるのは簡単です」と勧められたホームページの外部SEO対策
  • 費用対効果がよく分からないリスティング広告の委託(高額)
  • 症状に関するワードでユーザーを集め、公式ホームページに誘導するためのサイト制作
  • ビルの屋上看板広告

もちろん、結果が出ていればいいですが、各施策を深掘りしてみると、伝えたい情報が社会に全然届いていない。しかも2年間の費用を最初に一括払いさせていたり、契約期間を2年縛りにしていたりするんです。

親から継承したわけでもない、新規開業のクリニックです。オープン初年度に費用が許される限り、最大限の広告宣伝費を投入するのは当たり前だと思います。問題は、それに群がってくる悪い奴がいるということ。私が支援に入ってからは、ほとんどの広告代理店と契約を切りました。

クリニックはなにより「認知度」を高める施策が必要

私が勤務する急性期病院と、広報支援をしているクリニックのマーケティング施策の大きな違いは「認知度」です。

地域社会での急性期病院の認知度は、一般的にかなり高いと言っていいでしょう。一方で、クリニックの場合、認知されているのはそのご近所くらいというところが多いのではないでしょうか。

急性期病院は「認知から人気」に押し上げる施策が必要なのに対して、クリニックはまず認知度を高める施策が必要です。私が支援しているクリニックは広範囲から患者さんを呼び込む必要があるため、マス広告から逃れることはできません。

マスに対して行える施策は、テレビCM、街頭広告、折り込みチラシ、新聞雑誌への広告、リスティング広告、SEO対策などが思い浮かぶでしょう(その他にもインフルエンサーマーケティングなどもありますが、実際に医療機関ができそうな施策として)。その中でも私が実際に行ったのは折り込みチラシ・リスティング広告・SEO対策、そしてジオマーケティングの4つです。中でも、今回はジオマーケティングについて紹介したいと思います。

市内のホームページ閲覧者が数日で4倍に!地理情報を利用したジオマーケティングとは

ジオマーケティングとは、地理情報を利用したマーケティングです。

具体的には、スマートフォンの位置情報を利用した広告配信システムを導入しました。現代社会っぽいですね。スマホを持っている人限定の施策にはなりますが、ガラケーが普及することはもうないので、ターゲットは拡大する一方です。

ジオマーケティングの活用方法はいくらでも考えつきます。例えば、整形外科クリニックなら、テニス場やゴルフ場に訪れている人に広告配信をする。老人ホームなら、回復期病院にいる80歳以上のユーザー、もしくは高齢者の家族層である60歳代――。

集患だけでなく、スタッフの採用活動にも使えます。合同就職説明会の会場を訪れている若年層に絞った広告配信をすれば、ブースを出すよりも多くの人とコミュニケーションが取れるかもしれません。これは未来の話ではなくて、すでに現実に行われているマーケティング施策です。

支援するクリニックで取り入れ、クリニックから半径1キロ以内にいる人向けに広告を配信したところ、たった数日でホームページを閲覧する市内のユーザーが4倍に増えました。ただホームページの訪問者数が増えた一方で、直帰率や平均滞在時間数、ページ閲覧数は極めて低いです。しかし、「まずは認知度を上げる」という目的は達成できたと言えるでしょう。

個人的には、ジオマーケティングは街頭広告のデジタル版として位置付けています。たくさんの人の目に入れるだけ。「とりあえずクリニック名だけ覚えて帰ってください」という漫才みたいな入り方でいいんです。

クリニック名に“引っ掛かり”を持った人が、次に起こす行動が「ググる」です。ググってくれた人たち向けには、SEO対策やGoogleマイビジネスでの口コミ、ホームページのコンテンツの充実などを準備しておきます。

ジオマーケティングで全ての集客課題を解決できるわけではありません。施策を検討、導入する際は、各ツールでどの課題をどのレベルまで解決させるのか事前に考えておきましょう。

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