“デキる”医事課正職員、どう育てる?【解説編】─病院経営ケーススタディvol.12

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「経営を担える医事課員が欲しい」 これは多くの病院経営陣から聞かれる言葉です。その原因は、主に次の3つと思われます。

  • 経営環境の変化による経営の悪化
  • 診療報酬制度の複雑化
  • 医事業務の委託化による医事課員の不足

現在はA病院のように、医事業務を委託や派遣に頼っている病院がほとんどでしょう。規模が大きいほどこの傾向は強く、ひと昔前は完全委託していた病院も少なくありませんでした。しかしDPC制度の開始により、最近では、収入の多くを占める入院計算は正職員の対応とする病院が増えています。

出来高請求は、紙伝票やオーダリングの情報を正しく入力していれば請求できます。一方で、DPC制度はそれらに加え、診断群分類による包括請求を理解する必要があります。それに輪をかけて複雑にしているのが施設基準です。昔は人員配置や設備・建物構造の基準を満たす事が求められていました。しかし、現在は重症度、医療・看護必要度をはじめ、アウトカム指標の管理も求められます。また、直近では新型コロナウイルス感染症に対する「診療報酬上の臨時的な取扱い」が矢継ぎ早に出されており、迅速な対応が求められます。

このような背景から、優秀な医事課員の重要性が、ますます高まっているのです。
それでは、優秀な医事課員とは具体的にどういう人でしょうか。

「保険を理解し、患者対応ができ、DPCを含め診療報酬制度や施設基準を理解し、医事統計が分かりデータ分析ができ、増収の企画立案ができ、医療職とコミュニケーションがとれ、後進の育成ができる……」

きっとこんな人ではないしょうか?
しかし、このような人材はかなり貴重で、簡単には得られません。優秀な医事課員を育成するには時間・コストがかかりますし、キャリア採用でも見つけることは難しいでしょう。

設問1:今回のケースではどこに問題があると思いますか

1つ目の問題は、経営陣が求める人材の希少性に気づいているか、という点です。

A病院が求める人材、つまり「医事」「コミュニケーション」「病院経営」の知識・スキルの素養がある“経営マインドと医事の知識を併せ持つ人材”は、あなたの周囲(自院の医事課職員など)にどのくらいいるでしょうか。

感覚的には、10%程度(10人中1人ぐらい)だと思います。仮に、採用・異動で毎年1人新しい医事課員が入ってくるとして、10年に1人いるかいないか、という計算です。外部への委託化を進めている病院であれば、医事課正職員の数は少ないでしょうから、そのような人材を確保することはより一層難しいと思われます。

そもそも、A病院の経営陣が求める人材を育成するには一朝一夕では難しく、時間・コストをかけ長期的に取り組む必要があることを理解する必要があるでしょう。

上記とも関連しますが、2つ目の問題は、医事課が他の事務職の部署に比べ魅力的かどうか、という点です。
事務職の仕事を管理系・現場系に分けると、医事課は現場系になります。管理系が組織の意思決定を行い、現場系は決定事項をひたすらこなすだけ、という流れでは、現場系の業務は下請けのような位置づけになってしまい、魅力的には映りません。

最近は、「施設基準」「医事統計」といった医事課の管理系業務を他部署で行う病院が増えています。“医事課は現場仕事に特化させ効率を上げたい”という狙いでしょうが、“経営マインドがある医事人材”にとっては医事課の魅力を削ぐことにしかならず、定着率に影響する可能性があります。また、医事課の中で管理系の視点を育むことも困難です。

「施設基準」「医事統計」といった業務は人材を投入してでも医事課が担うことで、医事課の中にも管理系の立ち位置を作ることができます。長期的に人材を育成するには、医事課に管理系の仕事を残しておくべきです。

設問2:もし自分がW医事課長の立場ならどう対応しますか

まずはOを鍛えます。“幹部候補”として入職しているので、ポテンシャルは高いのでしょう。また、施設基準の担当をしていたのであれば、施設基準による診療報酬の違いは理解できていると思います。入院計算業務を通じてOに身につけてほしいのは、主に次の3点です。

  • 「診療報酬点数表」(以下、点数本)を読む力
  • 診療報酬請求に必要な情報の流れに対する理解
  • DPC制度に対する理解

図1の赤線で囲った部分が該当します。

図1 医事課の業務

まず、“「診療報酬点数表」(以下、点数本)を読む力”から説明します。
診療報酬請求は、点数本に記載された内容に従って請求するというシンプルな業務です。しかし、点数本が読みにくい上に、点数本に記載のない事象は、他の事例をもとに判断しなければならないという難しさがあります。

ベテランの医事課員であっても、内容が2年に1回は変わる点数本を全て暗記することはできません。重要なのは、点数本のどこを見るべきか即座に見当をつけられることと、点数本に書かれていない内容も、他の事例を当てはめて判断できる柔軟さです。この2点を身につければ、質問しなくても自身で点数本を調べるだけで、多くを理解できます。

次に“診療報酬請求に必要な情報の流れに対する理解”についてです。
「電子カルテが導入されていれば、全てオーダー情報として流れてくるんでしょ?」と思われる方も多いでしょう。たしかに、処方・検査など他部門への依頼が必要な行為はそのとおりですが、医学管理料やチーム医療で算定できる入院基本料等加算など、自部門で行為が完結するものは対象となる患者数を把握し、算定数を確認した方がよいです。

「オーダー情報として正しく流れているはず」と思われる診療行為も、調べてみればそうでないものもあります。たとえば、全身麻酔の「麻酔が困難な患者に行う場合」は、全身麻酔を心不全や糖尿病等の基礎疾患がある患者に実施した場合に算定できる項目です。現場は医事課がチェックしているものと思い、オーダーしていないケースがあります。

必要な情報を正しく把握するためには、やはり点数本を理解することが大切です。点数本を読みとけるようになると、「この診療報酬はどのように現場で判断されオーダーされているのであろう?」「この診療報酬は算定漏れしやすそうだ」と疑問・注意点が見えてきます。

最後に、“DPC制度に対する理解”です。
DPCは出来高の診療報酬をベースに、病名(ICD)と手術・処置のグルーピングによって、日数と点数が決められています。このため、DPCの理解には、出来高の診療報酬への理解が不可欠です。加えて、医療機関別係数(特に機能評価係数Ⅱ)の仕組みも把握しておく必要があります。

実際に請求業務を行うには、上記以外にも保険の知識やシステムの操作方法、その他運用ルールなど覚えることが山積みです。しかし、少なくともこの3点を押さえておけば、次のステップとして医事統計業務、さらには増収対策の医事企画でプロジェクトマネジメントを担えるでしょう。Oに対しては将来してもらいたい仕事・役割をきちんと説明し、そのための土台作りとして、現在の仕事の重要性を理解してもらうことが大切だと思います。

設問3:今後、A病院ではどのような対策・仕組みづくりが必要だと思いますか

医事課員に限らず、事務職員の育成は多くの病院にとって大きな課題です。A病院がこの課題の優先順位を上げ取り組むことが重要です。

図2は事務職の仕事全般と、医事の仕事の重なりを示しています。昔から言われているように、医事は病院事務職のベースとなる仕事です。まずは若い時に医事を経験させる必要があります。

図2 事務職の仕事と医事の仕事の関連性

ただし、「とりあえず医事課に」と配属するだけでなく、前述したように医事課を魅力的な組織・職場にすることを忘れないでください。配属期間は短くても3年、診療報酬請求までしっかり理解させようと思うと5年は必要ではないでしょうか。新卒から経営的な視点を持った医事課員を育てるには、10年程度かかります。長期プロジェクトとして考えましょう。

事務職員の確保ルートは「新卒採用」「中途採用」「他職種からの職種変更」くらいです。育成に10年も時間をかけられない場合は、中途採用するしかありません。しかし、キャリア採用で優秀な人材を確保するのは簡単ではありません。

そもそも、キャリア採用を考えた場合、採用市場はどの程度あるのでしょうか。
私の勤務地である大阪府で、DPCがわかる優秀な医事課員を採用したいケースを想定し考えてみます。大阪府には2018年度時点でDPC対象病院が130あり、DPC病床数は37,735です。入院計算を担当している人数は40床に1人とすると約940人です。転職率は総務省統計局の労働力調査によると5.2%(2019年度)です。940人の5.2%は約50人ですが、そのうちトップ10%の人材と考えると、ほんの数人しかいません。

ごくわずかなハイスキル人材を自院に誘致するためには、仕事内容・待遇・職場環境が他院より魅力的でなければなりません。病院事務職の転職支援サービスは様々ありますが、まだまだ人づての採用が多いので、組織としての人脈・風評が大きく影響します。一部署だけではできることが限られますので、組織的に改善に取り組む必要があるでしょう。

年収や福利厚生など条件面の見直し、キャリアステップの整備はもちろんですが、数ある病院から選ばれるには、病院の理念や姿勢を発信し、共感してもらうことが最も重要です。また、採用に関わらず、セミナーや学会、業界雑誌などを通じて優秀な人材を把握しておくことも大切です。

優秀な事務職の確保は、多くの病院が課題認識しているものの、取り組みには差があります。人材の確保・育成はスパンの長い仕事で、成果がすぐに出るものではありません。集患施策と同様に、常に考え続けなければならない問題なのです。

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