モチベーションを制するものは病院経営を制する―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.4

「院長の右腕」を探す前にお読みください―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.3”

診療報酬改定の情報もはっきりして、各医療機関(主に事務方が)、それぞれ対応に追われているかと思います。次期改定では対策が必要なところもあるので、「溝口さん、診療報酬の勉強会をお願いします」という依頼もいただいています。それもそれで大事なのですが、今回は前回からの続きで、診療報酬対策を実行する前段階である、院内スタッフのやる気や生産性を上げるモチベーションづくりについてお伝えします。

モチベーションと生産性(前回の図4参照)

上の図の通り、組織論的に「モチベーション」は自発的行動を促す環境づくりと考えるため、「やる気」とは別の概念になります。分かりやすく言えば「どんなニンジンを鼻先にぶら下げるか」がモチベーションで、「どれだけ、そのニンジンを食べたいか」がやる気です。その「モチベーション=原動力」ですが、組織論上は大別して2種類あります。

内的欲求型モチベーション
一銭の特にもならない趣味などが該当。興味・関心や好奇心、向上心など、自分がしたいからする、といった行動に影響する。自己決定感が強く、有能感が満たされやすい。

外的欲求型モチベーション
金銭や権限譲渡などの報酬のほか、怒られない、罰があるといった負の報酬を避けるなど、バリエーションが豊富なのが特徴的であり、組織のコントロールに利用しやすい。興味・関心がなくとも、「仕事だから」で取り組んでくれる。

モチベーションアップとは、知識欲を醸成する環境づくり

そもそも診療報酬対策でモチベーションアップが難しいのは、下記のような理由が挙げられます。

1)大半の院内スタッフにとって、診療報酬は興味が無いわけではないが、なんとなく難しいと感じているし、それは病院経営陣が考えることだと思っている(内的欲求が少し引っかかっている

2)病院経営陣からスタッフに勉強をするようにお達しがあるが、当然、日常業務もある上、勉強してもインセンティブが発生しないことから、積極的に勉強するメリットがない(外的欲求を刺激しない

3)診療報酬改定により、いくつかの院内ルールが変更される。多少、手間暇が増えても、それは通常勤務の中で必要なので、スタッフは特に気にはならない(外的欲求を刺激しない

4)病院経営陣としては、まだまだ改善の余地があるように感じるが、とりあえず業務が回っているし、何をどうすれば良いか不明瞭のため、指示が出しにくい

5)病院経営陣から、もうちょっとスタッフに勉強してほしいと発信するも、院内スタッフからは何をどう、何のために勉強するのかが分からないため誰も動かない(内的欲求も外的欲求も刺激しない

モチベーションを上手く活用するにはどうすれば良いかというと、内的欲求型モチベーションを利用できると最高です。なにかのきっかけで知的好奇心の琴線に触れられると、あっという間に広がったりします。例えば「診療報酬の歴史」のような、今までにはない勉強会を実施するのも良いでしょう。

ちなみに、仕事に関係あることだけが研修ではありません。内的欲求は、損得ではなく興味があるか、面白いかどうかといった指標が基準になるので、その下地づくりが欠かせません。

院外活動に予算を立てている医療機関であれば、スタッフたちの興味分野に予算を組んで、それを発表してもらうといった取り組みをするのもひとつの方法かと思います。ここで大事なのは、強制ではなく「予算もあるし、やってみようか」という環境づくりです。

書籍購入や講師依頼などで年間10万円だとしても、年2回の勉強会開催をルールにすれば、院内の知人に参加するように声を掛けると思います。そこで参加者たちが知らなかった知識を得られれば、当然興味を持ちます。こうした知識欲の醸成が上手くいけば、勝手に学習する組織になります。内的欲求に基づいたモチベーションづくりは、仕込みと準備に時間が掛かりますが、上手く回り始めると、大したコストが掛からず、長続きするのが特徴です。

外的欲求型は「組織行動の規範」強化につながる

一方で、外的欲求型モチベーションに基づく手段は3つあります。

1)診療報酬の勉強をしたら、金銭的インセンティブが出る場合(金銭的報酬)
2)診療報酬の勉強をすると、上司から褒められる場合(非金銭的報酬Ⅰ)
3)診療報酬の勉強をしないと、罰則がある場合(非金銭的報酬Ⅱ)

組織管理でいえば、外的欲求型の方が簡単です。「1」は、病院経営陣が望む行動をすれば金銭的報酬で報いるので、誰にとっても分かりやすいです。加えて、組織行動の規範を強化することにもなりますが、金銭的報酬の打ち切りが行動の打ち切りにもなってしまうので、永続的に続けてもらうには、常にそのための予算組みが必要となります。

「2」では、多少の属人的要素もありますが、褒めること(表彰すること)も報酬として機能します。かっこよく言えば、承認欲求を満たすアクションです。これは診療報酬の学習が課題としてあり、その結果を褒めて周知することが報酬として機能しています。非金銭的報酬の代表格ですが、組織の価値観を共有する上でも有効な手法です。組織にとって望ましい行動をする人は褒められるという事実は、その組織行動の規範を強化させることができます

理想的なのは、この承認欲求を満たす行為が内的欲求に変化し、その道のスペシャリストとして一段階上のスタッフへとパワーアップしていくことです。金銭的報酬と非金銭的報酬、いずれからも内的欲求型モチベーションへの変化が期待できますが、非金銭的報酬からの方が引き出しやすいといえるでしょう。

最後の「3」は、罰則(ペナルティ)を避けるための行動強要です。なんだが、悪い手のように聞こえますが、要するに組織の一員であるならば、それはやって当然というある種の同調圧力とお考えいただければと思います。端的に言えば「組織文化」であり、「この組織で働くなら、最低限、この程度の知識は必要」という話です。勉強しないのであれば補習を受けてもらう、といった感じでしょうか。

内的欲求の喚起には「組織行動の規範」が必要

これまでの話を踏まえて、医療機関スタッフを前提としたモチベーションの図を作成してみました。

図1 医療機関のモチベーションの図

この図を見ると、院長先生も、臨床の最前線で勤務していた頃と重ねて考えやすいのではないかと思います。医師に限らず、病院に勤める専門家集団には、この図が当てはまります(一般企業は、まったく別のロジックです)。

つまるところ、医療者は専門家として、少なからず内的欲求型モチベーションの素地を持っている人が多く、その芽をどう育てるかが、院内活性化のポイントと言えるでしょう。事実、院内スタッフが診療報酬に興味が無いわけではないのは、専門職として知っておいた方が良いという心理が働くからです。興味・関心を持ってもらい、知的好奇心を刺激するにはどうすれば良いか、企画さえできれば状況を変えるのはそう難しくはありません。

そこで必要になるのが、下記の3つです。

1)組織としての目標・目的の明示
2)組織内部の統一した価値観の提示
3)自身の業務の可視化・評価・正当化の機会の創出

要するに「組織行動の規範」が必要となるのです。モチベーションアップとは、組織行動の規範に合致した行動を推奨し、強化する、とも言い換えられます。モチベーションは、内的・外的を問わず、そのモチベーションの方向性は「組織行動の規範」以外ありません。

というわけで、今回はここまで。読者の中には「『組織行動の規範』とか、難しい言葉が出てきたよ。なんだよ、それ」と思っている方もいるはずなので、次回は「組織行動の規範」について触れたいと思います。

今回の標語
「外的欲求型モチベーションのコントロールは、組織マネジメントの基本にして奥義」
【著者プロフィール】溝口博重(みぞぐち・ひろしげ)
株式会社AMI&I 代表取締役、NPO法人医桜 代表理事。
全国の医療機関の人材採用・組織マネジメントを中心とした経営支援を行うとともに、医学生に人気の研修「闘魂外来」やNPO法人日本救急クリニック協会の立ち上げに携わるなど、現場医療の課題解決にも精力的に参加している。
仕事への基本姿勢は「10年後の医療をもっと良く、さらに良く」
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