いま、医療経営に求められる「戦略広報」とは?―病院マーケティング新時代(51)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。

著者:松岡佳孝/病院マーケティングサミットJAPAN 医療マーケティングディレクター

済生会熊本病院 医療連携部 地域医療連携室長

目次

医療業界における広報の役割が重視されつつあります。一方で、様々な組織の経営層・広報担当者と話していて感じるのは、経営層・広報部門それぞれが目指す「広報」に一定の乖離があるということです。経営層の視座で取り組む「戦略広報」とはどのようなものなのでしょうか。医療業界の「広報」を、紐解きます。

経営層と広報部門に生じがちな”乖離“

まずは、医療業界でしばしば課題となる、「経営者」と「担当者」それぞれの視点で捉える「広報」を整理したいと思います。

経営層にとって、広報の目的は「信頼の醸成」

経営層が広報部門に求めるのは、「信頼の醸成」を目指した活動です。

医療機関のステークホルダー(利害関係者)は、患者・家族・連携先だけではありません。
医師会をはじめとする職能団体・教育機関・行政・金融機関・医療関連企業・地元企業・土地所有者・支援者・求職者……など様々です。
経営層はこれらの方々との繋がりを意識し、信頼醸成に努めながら日々の医療経営・管理をしています。

ステークホルダーと信頼関係を構築するには、日々の接点を積み重ねるしかありません。実直な企業活動の継続が必要です。
戦略広報とは、ブランドづくりであり、ファンづくりのためのコミュニケーションの総称と捉えています。

広報部門は「コンテンツ(広告物)作成係」になっていないか

一方で、病院・医院の広報スタッフが目指すものは何でしょう。
経営層・広報部門ともに、最終的には「地域から選ばれる」ことをゴールとしているはずが、
実際の広報の現場では、病院側が発信したい情報のコンテンツ作りに注力しすぎる(せざるを得ない)ケースが多いような気がします。「診療科から新しい治療が始まった事を知らされた。よし、格好良い動画を作ってYouTubeにUPしよう!自院のWEBサイトにも掲載しよう!」といった具合です。
こういった場合、広報部門の役割がコンテンツ作成係(広告物づくりと掲載)に留まっているため注意が必要です。

広報部門には、院内から日々様々な情報が集まります。各部門からPRしたい情報が多く集まるのは良いことですが、集まった情報のコンテンツ作成・掲載で手一杯になってしまっては当初の目的が果たせません。
「戦略広報」として地域全体に展開するには、広報を“マーケティングの一環”として位置づけ、コミュニケーション戦略の中に丁寧に練り込む必要があります。簡単に図示すると以下のような流れです。
~戦略広報の流れ~
①課題の抽出(何が問題で、どうあるべきなのか)
②経営戦略と整合した戦術(ターゲット・目的・目標)の決定
③コミュニケーション手段の決定(webサイト・YouTube・Twitter・Facebook・Instagram・TikTok・紙といった媒体の選定、セミナー企画や営業による機会の選定も含めて)
④改善点の発見と見直し
これらのフェーズ毎に検討と実践を繰り返さなければなりません。コンテンツ作成も、掲載媒体の選定も、あくまでコミュニケーションの過程のひとつなのです。

優秀なマーケター(あえて広報担当者ではなく、マーケターと称します)は、コンテンツの作成と掲載に終始することなく、経営層の視座を持ち、職種・部門・組織を越えた全体管理(ディレクション)に長けています。

こういったマーケターが経営に果たす役割は非常に大きいと考えます。しかしながら、優秀なマーケターが病院に所属することは少ないでしょう。

こういった場合、広告代理店に相談することが「戦略広報」への一歩目となるケースがあります。これまで医療機関にとって、広告代理店は縁遠い場合が多く、高額な契約料が発生する「コンサルティング」というイメージを持つ方もおられるかもしれません。しかし広告代理店は、基本的に医療機関側の予算に応じて、クリエイティブの作成・媒体の選定と提案を行います。この提案を受ける過程で、広報担当者は自院の課題や広報のターゲット・目的・目標を考える必要が生じます。まさに「戦略広報」であり、「ブランドづくり」の一歩目です。良い広告代理店は、地場メディアと深いパイプがあり、良質なコミュニケーションの展開が期待できます。医療機関にとってブランドづくりのパートナーとなるのは勿論、広報担当者の良き教育者となることでしょう。

筆者の所属する済生会熊本病院の地域医療連携室には、一般事業企業(テレビ局→住宅メーカー)のマーケティング部門出身者が所属しています。彼女にとって広報は「戦略広報」であり、広告代理店との協業は当たり前。現在、病院のコミュニケーション戦略全般を見直しています。

目指すのは「元気な人も、医療の必要性を考える」広報

ステークホルダーの「ファンづくり」、その先にある「ブランドづくり」が戦略広報といっても、やはり足元の経営のお話も重要です。コロナ禍を経て、現在多くの病院で「集患」が喫緊の課題となっています。

集患の対象は言うまでもなく「患者」です。ただ、患者とは、生活者が予期せぬタイミングで陥る一時期な状態を表す言葉です。病気に縁のない人が、自らが「患者」になる事を信じ、常に「通院・加療」を意識しながら生活することは多くないでしょう。そもそも、自分がどのような領域の病気に罹患するか、予想すらできません。

このようなターゲットから信頼を得るには、患者だけなく、生活者の視点でコミュニケーションを重ねることが必要不可欠です。

以前、選挙期間に「若者よ、選挙に行くな」という皮肉の効いたCMが放映され、物議をかもしつつ大きな反響がありました。「政治」も医療同様に、個別的問題が生じない限りは自分ごとと捉えにくいかもしれません。このCMは、「政治は、今、または将来の自分の生活に影響する」と捉えられる内容でした。

政治を自分ごとと感じていない人に、政治家が示すマニフェストは届きません。医療も同じです。

病気でなくても、「医療」の必要性についてふと考えてしまうような広報を目指していきたいですね。

さて、経営層の視座を持ち、職種・部門・組織を越えた全体管理に長けているマーケターとして、私が思い浮かべるのは、小倉記念病院勤務時代の松本卓さん(病院マーケティングサミットJAPAN理事)です。

現在は病院を退職され、独立。2023年7月から医療特化型マーケティング企業の代表として活躍しています。

次回は、生活者視点のマーケティング実践を繰り返してきた松本さんに、医療マーケティングの社会的意義や、経営者・広報担当者に伝えたいことを伺いました。

>>患者が医療情報を確認できる“病院独自アプリ”を開発~聖マリアンナ医科大の「医療の質向上」への取り組み―病院マーケティング新時代(50)

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