コミュニケーションが活発な風通しの良い組織づくりをするうえで、職場内でのコミュニケーション方法を考えることはとても重要です。しかし、正しいコミュニケーション方法を学ぶ機会はあまりありません。本記事では、簡単で効果のある「アサーション」について詳しく解説します。
目次
「アサーション」とは
アサーションとは、自分と相手どちらも大事にする、対人コミュニケーション手法のことです。アサーションを直訳すると主張・断言・断定などの意味になりますが、自分の意見を押し通すという意味ではなく、自分の意見を主張しつつも、相手の意見もしっかり聞いて受け入れるという意味で使われています。
アサーションの語源と歴史
アサーションという言葉はもともと医療用語で、1949年に出版された行動医学・精神医学の本が始まりだとされています。1950年代にはアメリカで、自己主張が苦手な人を対象としたカウンセリング方法として使われていました。しかし、このときはアサーションには自己主張という意味しかなく、1970年前後のアメリカの黒人差別問題などをきっかけに、相手を傷つけずに主張をしっかり行える方法として、現在のような意味を持つようになりました。
アサーションスキルが役立つシーン
アサーションは企業研修などでよく使われており、パワハラのような高圧的な上司の態度の抑制、セクハラへの対処、仕事での鬱改善などに効果を発揮しています。ほかにも教育現場では、いじめ問題の解決に役立ち、医療現場ではチーム医療でのコミュニケーションを促進し、医療従事者と患者との信頼関係の構築に良い効果を発揮しています。
また日常生活においても、近所付き合い、自治会、習い事などの場面でアサーションを活かすことができます。相手も自分も尊重でき、良い関係を築けるため、生活の質向上にもつながっていくのです。
3つのコミュニケーションタイプ
アサーションの理論では、コミュニケーションの仕方は3つのタイプに分かれるとされており、自分や相手のタイプを知ることで、より上手くアサーションを使いこなすことができます。次に、3つのタイプを詳しく解説していきましょう。
アグレッシブ(攻撃的)
攻撃的という意味を持ったアグレッシブタイプは、以下のような特徴があります。
・自分が正しいと考えており、精神的に幼い
・相手の気持ちを考えずに、一方的に自分の意見を押し付ける
・相手の意見を否定したり、強い物言いや大声で怒鳴るなどの言動をする
・相手より優位に立とうとしたり、勝ち負けで物事を決めようとする傾向がある
このタイプは他人に意見を言わせない、相手を操ろうとするなど、時に円滑なコミュニケーションを妨げる存在になります。そのため、このタイプをよく理解し上手く付き合っていくことが、職場内コミュニケーション改善の鍵になるともいえるでしょう。
ノン・アサーティブ(非主張的)
ノン・アサーティブは非主張的という意味を持ち、以下のような特徴があります。
・自分の意見や気持ちを表に出さない、または出し損なう
・自分より他人のことを考え、いつも他人の意見に合わせようとする
・あいまいな言い方をしたり、言い訳がましい部分がある
・相手に見返りを求め、それがない場合は恨みの気持ちを持つこともある
こういった言動の裏には「どうせ言っても相手にされない」「自分はダメな人間だから」というネガティブな思いがあります。物静かな人や優しい人によく見られるタイプですが、自分の意見を言えないために、ストレスを抱えてしまうことも少なくありません。
アサーティブ(攻撃的×非主張的の理想形)
アサーティブはノン・アサーティブとは反対に主張的という意味で、以下のような特徴を持ちます。
・他人の意見をしっかり聞き、受け入れることができる
・自分の意見も主張するが、押し付けがましくない
・意見がぶつかったときには、双方にとって納得のいく方向に持っていける
この両方の特徴を併せ持ち、上手くバランスを取れるアサーティブが、アサーションにおいて、最も理想的なコミュニケーションタイプとされています。場の雰囲気を読み、その場に合った表現ができますので、社内のコミュニケーションにいい影響を与えてくれる存在です。
自分のコミュニケーションタイプを知る20のチェックリスト
以下の質問リストに対して、どんな反応をするかをチェックすることで、自分がどのコミュニケーションタイプかを判別することができます。質問ごとにA〜Cのどれが当てはまるかをチェックしていき、一番多いものが自分のタイプになります。
<タイプとその傾向>
A(アグレッシブタイプ):一方的に主張・自分本位・相手に指示・無頓着・強がり
B(ノン・アサーティブタイプ):消極的・引っ込み思案・自己否定的・他人本位
C(アサーティブタイプ):正直・率直・自ら選択する・積極的・自他尊重・歩み寄り
<質問リスト>
1.自分の長所・過去の実績などを他人に伝えるとき
2.他人から努力を評価されたとき
3.家族や友人など、身近な人を褒めるとき
4.他人からほめられたとき
5.自分の怒りを表現するとき
6.他人から怒りを向けられたとき
7.友人・同僚を誘うとき
8.周りの人からの誘いを断りたいとき
9.自分が困っていること、緊張していることを伝えるとき
10.他人の困惑や緊張を受け止めるとき
11.自分が知りたいこと・わからないことを質問するとき
12.助言や援助を求められたが、断りたいとき
13.仕事で他人の間違いなどを指摘したいとき
14.自分の間違いや失敗を指摘されたとき
15.物事が思い通りに進まないとき
16.仕事が予定通りに進んでないと指摘されたとき
17.子供や後輩など年下を叱るとき
18.上司など年上の人に叱られたとき
19.急な仕事の依頼をしたいとき
20.急な仕事の依頼を断りたいとき
出典元:「平木典子「アサーション入門 自分も相手も大切にする自己表現法」
アサーションはトレーニングできる
アサーションは、慣れるまで時間が必要ですが、トレーニングすることで習得することが可能です。ここではアサーションに必要な心構えや、トレーニングの方法・事例などを詳しく解説します。
アサーションの心構え
アサーションをトレーニングする際には、「アサーティブ・マインド」と呼ばれる、必ず知っておくべき4つの心構えがあります。アサーティブ・マインドをしっかり理解し、トレーニング時には常に意識しておくことで、より早くアサーションを使いこなせるようになっていきます。
誠実であること
誠実であることは、円滑なコミュニケーションを行ううえで、非常に重要です。アグレッシブタイプのように自分の意見ばかりを主張していると、結果的に他人の意見を無視することになってしまいます。自分の意見を押し通したりせず、誠心誠意を持って物事の解決をする真心が必要です。
対等であること
コミュニケーションのときは、相手と対等だという意識を持っておきましょう。相手を低く見ていると、自分の意見の方が正しいという考えが生まれ、逆に相手を高く見てしまうと、自分の意見より相手の意見を重視するべきという考えになります。自分と相手は対等であること、また人によって態度を変えないことも、重要なアサーティブ・マインドの一つです。
率直であること
自分の気持ちを覆い隠さず、常に正直であることは、アサーションの手法において非常に重要です。特に人に合わせてしまうタイプの人は、自分の意見が他人にどう思われるかが気になり、正直でいることができなくなってしまいます。ですが、素直に自分の気持ちを表現することで、自分の意見に自信を持つことができるようになります。
自己責任
自分の意見を素直に表現した結果、相手から思いもよらない反応が返ってくることがあります。ノン・アサーティブタイプの人は、これがきっかけでさらに自分の意見を言いづらくなることもあるかもしれません。ですが、相手の反応は相手が決めることですので、私たちはコントロールできません。そのため、この反応は自分が発言した結果だと素直に受け入れ、相手には相手の考えがあるのだと尊重する姿勢が大切です。
アイメッセージとは
会話をするときには、アイメッセージを使うことで相手に悪い印象を与えずに済みます。アイメッセージとはI(私)を主語にして、自分の意見を言うことです。例えば、「あなたの意見は間違っている」と言われると、人は嫌な気持ちになってしまいますが、「私は、こういう考え方もできると思う」と言われると相手に不快感を与えることなく、自分の言いたいことを伝えられます。これは簡単に今すぐ使える方法ですので、早速取り入れてみましょう。
DESC法とは
アサーションのトレーニングに効果的な手法として、DESC法というものがあります。DESCとは以下の4つのステップから成り立っており、これらの頭文字を取ってDESCと呼ばれています。
・Describe(描写):事実を客観的に伝える
・Explanation(説明):自分の意見や気持ちを伝える
・Suggest(提案):相手へ解決策を提案・お願いする
・Choose(選択):提案を選択した結果どうなるかを伝える
トレーニング事例:上司からの急な依頼
実際にDESC法を使って、日常的によくある事例を挙げて依頼に対して、どのように対応したらいいのかを解説していきましょう。まずは「上司からの急な依頼」に対してです。前提として、あなたは今自分の仕事で忙しく、あまりゆとりのない状況にいます。そのとき、上司から「すぐに急ぎの書類を作成して欲しい」と頼まれました。
このとき、よくある回答は次の内の2つではないでしょうか。
A.「今忙しいため、できません」と断る
B.どうしても断り切れず「はい、わかりました」と渋々引き受けてしまう
Aは今の状況を正直に伝えていますが、上司にあまりいい印象を与えないでしょう。またBの場合は「頼めばいつでも引き受けてくれる」という印象を与えてしまい、これから先同じ状況になったときに、再度頼まれる可能性があります。アサーションを用いた返答では、以下のようなものが理想とされています。
D(事実を伝える):今は優先しなければならない仕事がある
E(自分の気持ちを伝える):上司の要望に応えたい、手伝いたい気持ちはある
S(解決策の提案・お願い):今の仕事が片付いたら対応可能
C(選択・結果を伝える):他に対応できそうな人を探す
これらをまとめると以下のようになります。
申し訳ございません。今は優先しなければならない仕事があり、すぐに対応できません。ですが、お手伝いしたい気持ちはあります。今の仕事が片付いたら対応可能ですが、いかがでしょうか?もしくは、他に対応できそうな人を探しましょうか?
このように話せれば、こちらの状況を正しく上司に理解してもらうことができ、上司の要望を無視することなく、自分の主張をしっかり相手に伝えることが可能です。
トレーニング事例:部下のミスの注意・改善
もう一つの事例を見ていきましょう。次は上司の立場から見たトレーニング事例で、最近部下のミスが目立っているため、注意をしようと考えているシチュエーションです。部下は書類の記入ミスなどを続けており、注意をしたときに「改善する」とは言っているものの、なかなか改善されません。
あなたは次のうち、どのように答えるでしょうか。
A.「何度注意したら直るのか」と一方的に責める
B.注意するのをやめ、あきらめて自分で修正する
Aは部下を萎縮させてしまい、信頼関係に悪影響を与えてしまう可能性があります。Bの場合は信頼関係が悪化することはありませんが、部下のミスは改善されずいつまでも同じ間違いを繰り返すことになります。そのため、本当の意味で部下を尊重していることになりません。アサーションを用いて注意する場合、以下のようになります。
D(事実を伝える):最近書類の記入ミスが目立つ、これまで何度も伝えている
E(自分の気持ちを伝える):なかなか改善されないため心配している
S(解決策の提案・お願い):記入ミスの原因と解決方法を考えてみてはどうか
C(選択・結果を伝える):ミスが改善されれば、同僚からも信頼が得られる
これらをまとめると以下のようになります。
これまで何度か伝えていますが、最近書類のミスが多くて気になっています。いつもは丁寧に仕事をしてくれているので、何かあったのではと心配しています。この機会に、記入ミスが起こる原因と解決方法を考えてみてはどうでしょうか。ミスが改善されれば、周りの同僚からの信頼もさらに高まるでしょう。
このように伝えることで、部下にストレスを感じさせずに、問題点を認識させ真面目に向き合う機会を与えられます。自分の意見をしっかり伝え、相手の立場も尊重するアサーションの理想的な回答といえるでしょう。
アサーションを活用して、コミュニケーションを円滑に
アサーションはDESC法などの型を使えば、誰にでも簡単にできるコミュニケーション手法です。そのため、従業員にアサーションについての知識を認知してもらえれば、すぐにでも始めることができます。アサーションの考え方をコミュニケーションのベースにできれば、職場全体の信頼関係の構築に良い結果が得られ、コミュニケーションの活性化にもなります。ぜひ、円滑なコミュニケーションができる組織づくりの参考にしてください。
【記事提供:エムスリーキャリア「産業医トータルサポート」】
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