医師不足問題を一般の視点から

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グラフィックデザイナ
日本ロービジョン学会
日本人間工学会会員
山本百合子

2018年5月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

この何年か、医療職の過重労働、人材確保の難しさが言われてきました。
最近は国の「働き方改革」との絡みでも議論されているようです。厚生労働省のまとめでは、医師不足の解消は28年ごろとのこと。『需要は30年ごろまで増え続け、その後は減少すると予測』されています。これに健全な労働時間という要素を加味すると、『28年ごろに必要な医師数約34万9000人』となるようですが、『米国研修医の労働時間の上限「週80時間」とすると、必要な医師数は32万1000人で今年既に満たし、来年以降は「医師過剰」』と予測。ゆえに、新聞では『この日の検討会では「更に増員する必要はない」との意見が大勢を占めた。』とされていました。*
医師不足解消のストレートな方策は医学部定員を増やすことだとされています。ではなぜ、増やさないのでしょうか。一般人としては、ここに疑問を感じてきました。もちろん、施設や教育費の補助などの問題はあるでしょう。でも、医学部は常に「難関」「狭き門」です。希望者は多いのですから、門戸を広げれば良いだけの話のように見えます。費用の問題は奨学金で賄い、施設はITを導入するなどで合理化したり、夜間開講のメディカルスクールにすることすらできるのではないでしょうか。
具体的検討は専門家にお任せするとして、ここでは一般人の視点で考えたいと思います。
世の大人、100人に聞いてみてください。「大学で学んだ技術や知識のうち、何か社会で役に立ったものはありますか?」90人がノーと答えると思います。イエスと答える10人のうち大半は医療系。語学や理系専門職もいるかもしれません。が、いずれにしろ少数でしょう。大学では表面的な技術や知識を学ぶのではなく、人生の糧となる哲学を学ぶのだ云々のような言もあると思います。が、そうであるなら、コンビニのバイトでもゲーム三昧でも「何か哲学」は学べるでしょう。加えて大学2年から就活。誰もが薄々、大学教育の価値について、疑問を感じていることと思います。

では、その大学教育の内訳はどうなっているのでしょうか。平成27年度、学校基本調査によれば、学部に相当する分野別学生数とその割合で最も高いのは、社会科学 (32.4%) 。ついで工学 (15.2%) 、人文科学 (14.4%)、保険(12.2%) です。これを学科でいうと、最も高いのが、商学・経済学 (17.7%) 「商学・経済学」次がその他の人文科学(6.3%)、そして法学・政治学(6.1%)となります。**
ざっくり言えば、学科としてダントツの人気なのが、経済と商学。しかし本当に、高校生はケインズやハイエクに興味があって経済学を選んでいるのでしょうか。工学部にしても、理由は偏差値というのが、本当のところでしょう。医学部は難関です。でも、もし誰でも入れるなら、それを選びたい高校生は多いのではと想像します。

もし、大学の学部数を、受験生の人気を反映させた市場原理に任せるなら、医学部の学生数はもっと増えるのではないでしょうか。これは日本の中での医療の重要性をより大きくするはずです。なぜなら、大学は単なる教育機関ではなく、研究機関でもあるからです。もし、学部という門戸から入ってくる新人が、今の12.2%(保険関連の学部の割合)ではなく、社会科学 (32.4%) 並みになれば、3倍の土壌が作られることになります。博士号取得者のうち、3割以上を医学関係が占めていますが***、それだけ研究分野としては大きなテーマを有する場であると言えるわけです。この部分の厚みが大きくなるのは、学術の発展にとっても寄与するところが大きいはずです。
言うまでも無く、医師になるには国家試験があります。全員が医師になる必要はありません。が、医療を学んだ学生は、食品メーカーの営業マンになっても、銀行の融資窓口で働いても、新しいビジネスの可能性を広げるはずです。何しろ、今の日本が直面する最も大きな問題の一つが医療なのですから。

そもそも、私たち一般学部の卒業生は、長い学生生活の間、医学の知識を得るチャンスはありませんでした。科目として「保健体育」がありはしましたが、記憶にあるのは、法定伝染病を覚えたことぐらいでしょうか。高校の生物では血液や腸の仕組み、脳、神経に関してなど詳細に学びましたが、「病」とは関連させられていませんでした。
もっと医療、医学を教育カリキュラムの中に入れられないでしょうか。私たちは、社会に出た後、医学的知識が必要な局面に数多く遭遇します。職場の健康診断の数値の見方、近親者がガンや白血病になった時の理解と判断、子供を持った時、いかに異変を察知できるかなど、生活者として、医学情報は重要です。
カリキュラムとして膨大なものになるとも思えません。なぜなら、生物では人体についての項目があるのですから、これらに関連付けて入れられますし、医療制度については、政治経済系のカリキュラムに入れることもできるでしょう。
国家予算のうち半分を医療費が占める日本。高齢化が進む中、節約は難しいものの、それぞれが知識を持てば、不要な医療を受けずに済む部分もあるでしょう。生物で呼吸器を学ぶタイミングで、「風邪」はどのようなものなのか、どのような症状が起こるのか、喉のどこを見れば分かるのか、どのような症状があれば、「風邪」ではなく、注意を要する状態なのか。病院ではこれらの症状にどのような薬を処方しているのか、その薬が無ければどのように違うのか。基本的知識として学んでいれば、無用の医療を避けることもできるでしょう。それは、医療者の労働負担を減らすことにもつながります。
そして、これらを学んだ子ども達は医学に興味を持ち、その道に携わりたいと思う子も増えていくでしょう。

医師不足解消のソルーションは、単に医療系労働者を増やすということではなく、国民の医療へのリテラシーを高め、教育や研究分野での医療の価値、重要性を高めることにもつながると考えます。それは、これからの社会に大きく貢献するものではないでしょうか。

*
医師不足
解消は28年ごろ 働き方改革影響で4年遅れ
毎日新聞2018年4月12日 21時56分(最終更新 4月12日 22時41分)https://mainichi.jp/articles/20180413/k00/00m/040/094000c

**
e-Stat
学校基本調査 平成27年度
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003143153

大学 学部・学科分野別学生数とその割合
https://matome.naver.jp/odai/2146937280793973301

***
学位取得者の国際比較
http://data.nistep.go.jp/sti_indicator/2016/RM251_34.html

(2018年5月10日閲覧)
多摩美術大学 美術学部グラフィックデザイン 卒
東京大学 大学院総合文化研究科 国際社会科学 修士

(MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

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