【第4回】医事課が冴えないのは、事務長自身が原因かも!?―事務長の悩みは、99%解決できる

野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理学会 評議員などを務める。
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「うちの医事課には無理だよ」

ここに、2人の事務長がいます(病院規模も医事課の人数も、事務長の年齢も、あまり変わりません)。

1人目の事務長からは、「うちの医事課がね、イマイチなんだよ。仲も悪いし、成長もみられない。どうしたらいいかな」という相談を受けました。

私から「医事課には2つの役割があります。簡単に言うと『増やす』と『減らす』。まず、ドクターやスタッフが患者さんに一生懸命行った医療行為を、正しく診療報酬としてお金に換えるのは当然です。それを点検したり、査定の分析をしたりして『減らさない』ことも然り。そこから『増やす』役割とは、例えば加算や指導を増やす、患者数増加のために接遇の改善やイメージアップを図るなどです。次に、『減らす』役割については、コストや無駄を排除して、不必要なものを少なくしていくことです。このような役割を、医事課のスタッフに認識させ、使命感を持たせることが大事なんです! 使命感を持つことができれば、主体性を持ってどんどん頑張っていけますよ」と答えると、、、

「それができるといいけどね。でも、うちの医事課には無理だよ、ダメダメ」と苦笑いが返ってきました。

どうにかしたいと相談を受けて答えたのに、ハナから無理ってどういうこと?医事課スタッフに対して諦めているってこと?…と、私は軽くパニックになっていました。ポカンとしているうちに、いつの間にか違う話題に――。その後、その事務長と医事課がどうなったのかは、、、分かりません。ただ、事務長の願いが叶うことはなかったのではないでしょうか。

「うちの医事課は出来ると思うんだ」

さて、2人目の事務長からは、「医事課は、まだ機能していない。仲もあんまり良くなくて、雰囲気も悪い。でも分析したり、院長達との会議に使う資料も作ったりしてほしい。どんどん情報発信してほしいんだよ」と相談を受けました。

最初の事務長と同じことで悩んでいたので、同じように答えると「なるほど。難しいかもしれないけれど、きっと、うちの医事課はできると思うんだ」と言われたのです。

それから、リーダーとなるスタッフを選出して、事務長と一緒に作戦会議を実施。データ作りだけでなく、データを見て考えていくミーティングにも巻き込んでいきました。ある日ミーティングをしていると、スタッフから「こうしたら、もっと分かりやすくなりませんか?ここを院長に伝えれば、コスト削減になるのではないでしょうか」という意見が出てきたのです。これぞまさに、事務長が求めていたもの。「そうだな!」と、事務長は笑顔を見せました。

さて、この2人の事務長の違いは何でしょうか。

人には、認められたい欲求がある

「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」という自己実現理論を提唱した、マズローの欲求5段階説をご存知の方も多いと思います。
病院勤務時代、私をいろいろなタイミングで導いてくれた人たちから学び、今も指針となっている言葉や考えがあります。その一つがこの理論で、組織、指導、経営に対して思い悩んでいた時に、考えを整理させてくれたものです。

① 生理的欲求
② 安全の欲求
③ 所属と愛の欲求
④ 承認の欲求
⑤ 自己実現の欲求

人間の欲求は、①から⑤の順番で段階的に芽生え、現れるものだそうです。生命維持に関わる生理的欲求から、生命の安全に対する欲求。それが満たされることで、人間はどこかに所属し、愛を欲します。その輪の中で承認欲求が生まれ、認められることで尊厳や自尊心が満たされます。そしてさらに、なりたい自分をもっと求めていく――。ざっくりしていますが、大学院時代の講義でこれを聴いた時「ああ、そうか。人は認められたい欲があるのだ」というシンプルなことが、私の中にストンと落ちてきました。
私はそれまで(現在も…かもしれませんが)、その認識不足で、たくさんの失敗をしてきました。欲求が満たされず、否定されれば、焦燥感や劣等感、無力感しか残らないというのに!「欲がある」ということを改めて認識・理解したことが、それからの私の考えを変えていったのです。そう、欲を認めなければ、変化も成長もないのです!

お誕生日の法則からの学び

続いて、皆さんは、「誕生日の法則」をご存知でしょうか?(どこのセミナーで聴いたか記憶が曖昧ですが、ご紹介します)

皆さんは、私の誕生日パーティーに招待されたいと思っています。さて、何をすれば私に招待してもらえるでしょうか?(望んでいなくても想像してみてください!)

答えは「仲良くする」、「プレゼントをあげる」でもなく、「先に自分の誕生日パーティーに招待する」です。

自分がしてほしいことは、先に自らがやるということです。自分を認めてほしければ、先に相手を認める。変わってほしければ、まず自分が変わる。助けてほしければ、先に手を差し伸べるのです。

目の前の相手は、自分を映す鏡

事務長!
事務長のところの医事課(だけではありませんが)は、いかがですか?
事務長のもとで働いて、幸せだと思いますか。事務長自身は、幸せですか。

変わってほしいと望んでいる医事課を認め、期待していますか。
彼らのことを、変われると信じていますか。

…と、偉そうに言っていますが、先ほども述べたように、私も今までたくさんの失敗をしてきました。今のコンサルティングの根幹は、その贖罪と言っても過言ではありません。そこにいる全ての人が、イキイキと働ける組織づくりを目指しているのは、その苦い経験からです。

この連載を読んでくださっているみなさんとそこで働く人、病院がHappyになることを今日も祈っています。

次回は、第3回でも触れた「違う、そうではない!」と思う教育体制について、別の視点として2人の医事課の先輩の例をご紹介します。

ある病院様からの風景(筆者撮影。2019年6月)

【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。

<編集:平石果菜子>

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