【第6回】職員から不満があがったら、最初の言葉は聞き流しなさい―事務長の悩みは、99%解決できる

野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理学会 評議員などを務める。
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いつまで続くのだろうと思っていた暑さが、9月になった途端に鳴りを潜めて、秋の訪れを感じます。朝晩は過ごしやすい日も増えてきて、半袖では電車の冷房も寒いくらいになってきました。

さて、今回は原因追求の重要性、「人の最初の言葉は聞き流せ」という私のモットーが生まれたエピソードについてご紹介します。

それは、正しい原因追求なのか

私が原因追求について学んだのは、「医療安全」を通じてです。原因の分析手法は様々あると思いますが、まずは、どうしてエラーやミスが起きたのか、それについて「なぜ、どうして、いつ」という問いかけ等を繰り返していきます。

ここで大事なのは、やり方ではなく、やはり「在り方」。医療現場では何か起きたとき、同じようなエラーやミスが起きないように“とりあえず”対策を立てることが目的となっており、これをやれば大丈夫“だろう”という予想の対策が立てられていることが多いように感じます。どう在るべきかを意識しないから、原因を掘り下げずに対策の方法だけ考えて、間違った解決策を出してしまうのです。

分析して掘り下げることは手間に感じるかもしれませんが、大切なのは、エラーやミスが起きた原因を明確にして、的確な対策を立てることです。つまり原因を追求することが重要です。

「ミス→チェックリスト」と安易に対策していませんか?

先日もある訪問先の医事課様で、「受付がとても忙しくて、書類の預かり間違いを起こしてしまいました。そのため、すぐチェックリストを作って書類預かりのミスが起きないよう対策をしました」とそのチェックリストを主任の方が見せてくださったことがありました。

みなさんの職場では、このようなことは起こっていませんか?

忙しくて書類の預かり間違いを起こした受付に、チェックリストを利用するという新しい作業がめでたく増えております。チェックリストを準備するための印刷や紙代という、コストと手間もついて。
これぞまさに、原因追求をしないまま、これをしたら間違えない“だろう”対策です。書類を預ける患者さんと受付スタッフに、ハッピーは訪れるのでしょうか。

なぜ、間違えたのか→忙しいから。なぜ忙しいのか→時間、曜日、人、その人自身の問題(内面、外面)、、、?
例えば、このスタッフが家族とけんかをして気持ちに余裕がなかったために、書類預かりのミスをしていたとしたら。急な欠勤が出て、午前中少ない人数で対応していたために起きたミスであったとしたら──このチェックリストの効果はどうでしょうか。

「人の最初の言葉は聞き流せ」という気付き

私は病院勤務時代、人事考課をする季節になるとスタッフと部長面談をしていました。考課表やスキルチェック表に基づく面談は各部門の課長や主任に任せて(目は通しますが)、「スタッフが今、気になっていることを解決しよう」というテーマだけ決めて、自由に話をしてもらっていました。目的は、スタッフが現在何を考えているのか知ること、解決のやりとりの中で、明日から頑張る元気を少しでも漲らせてもらうためです。

管理職になってから、顕在意識と潜在意識といった脳の性質、男女の性質の違い、人は最初から本音を言わないことなども学んでいたので、その人の奥底にある本当の問題は何か、を知りたい一心で問いかけていました。コツは、その時間はその人を知りたいと、最大の関心を持つことでしょうか。

今でも忘れられない面談があります。

「今、何が一番気になっている? 困っていること、悩み、何でもいいから話してみて」
「お昼休憩が、1時間取れません」

すぐに対策、指示を出さなければならないのがリーダーという立場。今までであれば、「シフト表を見直して、時間差で休憩とれるようにしたらどう?」と提案して終わっていたかもしれません。しかし、シフト表を見直すだけでは根本的な課題解決にならないだろうと思い、繰り返し問いかけました。

「なぜ、休憩が取れないと思う?いつもなの?」
「いつもではないのですが、A先生の午前外来の時です」
「A先生の時なのね。A先生は患者さんが多いものね。A先生の担当看護師さんは誰だったかしら。事務スタッフは?」
「看護師さんは交代で休憩されています。事務スタッフはBさんです」
「じゃあ、Bさんやみんなも休憩が取れてないのね」
「いいえ、Bさんはしっかり1時間休憩を取れています」

このようなやりとりをしていく中で、相手の考えが次第に見えてきます。このスタッフは休憩が取れないことが気になっているのではなく、Bさんが全く協力してくれないことを訴えたかったのです。職場であれば誰しもが、上司や同僚、後輩に対して見せる顔はいつも同じではありません。もし、私がシフト表の見直しを指示して面談を終えていれば、Bさんとこのスタッフの人間関係は見えてきませんでした。

「人の最初の言葉は聞き流せ」

人は最初から本音は言わないという学びが会得できた印象的な体験でもあり、原因追求の重要性を実感した忘れられない思い出です。

女性は、最初から本音を言わない?!

事務スタッフは女性が多く、事務長や医事課長といった管理職は男性が多いので、最後にもう一つだけ「女性は特に最初から本音は言わないことが多い」というエピソードをご紹介します。

ある夏の日。医事課の女性スタッフ数名が、病院行事のセッティングのために、外にいました。日差しが強くなったので、そこにあるテントを張ってもらおうと相談して、男性スタッフに笑顔で声をかけました。「暑くなってきましたね。日差し、眩しくないですか」。男性スタッフは心配されたと思って「大丈夫ですよ」とにこやかに返事をされました。女性スタッフは「そうですか」と返しつつも、内心では「この人、テント張ってくれそうにもないわ」と思っているので、そこに笑顔はありません。

どうでしょう。怖いですよね(笑)。私ははっきりと「テントを張って」と言えます。しかし、そうでない人もいるのです。言っている言葉と感情(してほしいこと、気付いてほしいこと、本音や欲求)はイコールではないこともあるのです。

原因追求をすること、なぜそのことを言っているのかという掘り下げをすること。それと、人の最初の言葉は聞き流すことで、事務長の悩みは99%解決できるかもしれません?!

次回は、最近出会った「いつか」ではなく「いつ」やるかを決めた院長先生、そして対照的な事務長についてのお話です。

【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。

<編集:平石果菜子>

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