【第8回】医療はビジネスだと思えない病院は、患者サービスもよくない!?―事務長の悩みは、99%解決できる

野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理士会評議員などを務める。
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令和2年がスタートしました。今年は、4年に1度のオリンピックが東京で開催されますね。どんなドラマが待っているのでしょうか。観戦の抽選には外れてしまいましたが、遠くから涼しい部屋で!様々なスポーツを観戦したいと思っています。

(筆者撮影:先日の出張先での富士山)

そして今年は、医療者にとっては2年に1度の大イベント「診療報酬改定」の年にあたります。全体では0.46%のマイナス改定となっており、働き方改革、病床再編(サイズダウンジング)、IT化等を柱に、将来を見据えた改定が行われるようです。この診療報酬改定についても、今回のテーマである「患者サービス」についても、“ある事実”に起因する問題があると感じています。

患者サービスを「線」で理解するには

患者サービスについて私がよくいただく相談は、「どのように患者サービスに取り組めばいいのか」「接遇教育やご意見箱の設置、満足度調査など行っているがそれでいいのか」「クレーム対応」などです。これらは病院機能評価受審の病院であれば評価項目にもありますし、高い関心事だと思います。

例えば、ご意見箱やクレーム対応は相談窓口、接遇教育研修は各部署、満足度調査は患者サービス委員会が担当──と分担して取り組まれているケースがよくあります。それぞれの取り組みは、概ね以下の通りです。

<患者サービスでよくある取り組み>
◆相談窓口担当者
・ご意見箱や相談窓口での相談内容を分析し、各該当者への振り分けや対応策を検討
・対応策の実施結果を病院幹部、職員、患者さんにフィードバック
◆各部署の接遇教育
・新入職員、中途採用者への研修時に実施
◆患者サービス委員会
・毎年、患者満足度調査を実施
・調査の実施時期を打ち合わせ
・集計結果を病院幹部、職員、患者さんにフィードバック

このように、それぞれが与えられた役割を果たすべく一生懸命取り組んでいるものの、マネジメントが一元管理されていないことがしばしばあります。本連載で何度か述べてきましたが、担当者達に何のために患者サービスに取り組むのかが共有されていないため、与えられた業務をやることが「目的」になっており、「本来の目的」をしっかり理解していないことが多いのです。つまり、「点」対応で「線」になっていない。それが大きな問題なのです。

患者サービスの目的は、来院した患者さんに、組織の理念、目標や計画に沿った医療を提供して、満足した気持ちで自宅や施設等に帰っていただくことではないでしょうか。不満足なまま帰したい、なんて思う医療者はいませんよね。しかし、こちら側の「思い」を患者さんに伝えるためには、どうすればよいのでしょうか。私であれば、以下の実践を推奨します。

  1. 患者サービスの目的を明確にして、満足度調査、ご意見箱、相談やクレーム内容から職員の行動を振り返り、院内に周知して日々の行動や活動に落とし込む
  2. 年に1~2回の満足度調査などでその実践を評価する
  3. その結果がその年の患者動向で反映されている(紹介や入院、新患の増加等)ことを確認する
  4. 次年度の患者サービスの計画や、職員教育の内容を決定

ここで、前年よりひとつ高い目標を設定できていれば、患者サービスの質が改善できた、といえるのではないでしょうか。患者さんに満足して帰っていただくことは、組織の理念達成でもあり、経営の根幹です。職員皆さんの頑張りを評価するためにも、マネジメントの一元管理をしてみてはいかがでしょうか。

現場では、お金の話はご法度なのか?

患者サービスに潜む「点か線か問題」は、医療者にとって根深い問題だと私は考えています。

私は、医療もビジネスだと考えています。患者さんに選ばれなければ、経営が成り立たないからです。医療機関は、患者さんに提供する医療サービスの対価として報酬を受け取っています。それが自分たちの給与を作り出す売り上げであり、利益です。しかし、そのことについて、特に現場のスタッフは理解できていない印象を受けます。

医師を含め、現場のスタッフに、お金の話はご法度という文化もまだまだ存在していると思います。一方で、我々の大事なお客様は「患者さんやそのご家族、見舞客や出入りの業者、委託の職員、他の医療・介護・行政等の関係者、学生等の関わる方みんな」であること、地域住民は将来のお客様や職員になり得ることを理解してもらうことは大事なことだと思っています。

以前の職場で、職員に「給与は病院や院長からもらっていると思う人?」と尋ねたことがあります。全員、恐る恐る挙手しました。

「確かに、給与明細の発行者は○◯病院になっています。そうです。病院がなければ、我々の働く場所はありません。雇用されなければ給与も支払われません。
しかし、そのお金を運んでくるのは患者さんです。患者さんがお見えになって初めて、我々がやることが生まれ、そこに報酬が生まれるのです。その報酬が給与やボーナスとなり、将来にわたる設備投資や資源の備えになり、病院が存続できるのです。
患者さんに満足してもらいましょう。そうすることで、次の患者さんを生み出していきます。これは、現場のみんなの力にかかっています。迷ったら『ありがとう』と言われる行動を取りましょう」

そう伝えると、嫌悪感や不快感ではなく、「よし!」という顔をしていました。そうです。医療者に、現場のスタッフに、「お金」の話は決してご法度ではありません。

「線」を共有できる仲間を増やそう

診療報酬改定への取り組みも同じです。私自身、どの項目が何点に変わったかにのみ関心があり、この時期だけ右往左往していた時代もありました。そんな時代を経てようやく、病院や急性期、回復期等の役割を踏まえ、さらには日本の現状、政策、制度という枠組みの中で、診療報酬改定を捉えられるようになりました。点数の変化に対応するのではなく、取り巻く環境の中で病院の方向性を予測して設計し、病院が生き残るためにどういう取り組みを行うべきかを考えられるようになりました。すると、診療報酬改定後も議論の内容はもちろん、他の保険制度や政策、プロジェクトにも興味を持ち、点と点が線になる面白さを感じるようになっていったのです。

診療報酬については、読者である事務長(または理事長や院長もご覧になっていると聞いています)のようなリーダーは既知のことだと思いますが、「本来の目的」や「線」を捉え、共有できる部下や仲間を少しずつ増やしませんか? そうすると、仕事が楽に、より楽しくなるはずです。

次回は、先日学んだリーダー像についてお伝えします。時代は令和へ移り、次に変わるべきは我々であることをご紹介したいと思います。何かございましたら下記の「質問」欄からもどうぞ。

【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。

<編集:平石果菜子>

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