2019年6月5日、満を持してクラウドファンディング(CF)を開始した大阪府三島救命救急センター。プロジェクトに込めた思いと、現場で励む職員の写真をインターネットで発信し、目標金額2000万円を掲げて寄付を募りました。その結果は、プロジェクトチームのメンバーである、小畑仁司所長、福田真樹子副所長、八尾みどり看護部副部長、そして事務局長法幸貞次氏たちの期待をはるかに上回るものでした。
開始6日で目標金額を達成! 支援者数は1000人以上
小畑所長
「ありがたいことに、開始から6日で1000名以上の方からご支援をいただき、目標金額の2000万円に到達しました。これほど短期間で寄付が集まるとは我々も想定しておらず、驚きと同時に嬉しさも込み上げてきました。その後も多くの方々がご支援してくださり、8月7日時点で3800万円以上の寄付が集まっています。そこで、4000万円を第二の目標金額として設定し、CFが終了する9月3日まで支援を募集し続けることにしました」
以下は、支援者から寄せられたメッセージの一部です。CFは、病院の運営資金だけでなく、職員の気持ちをも潤わせました。
「家族4人全員がお世話になりました。本当に助かりました。応援しています!」
「同じく、救命救急センターで働いていますので、他人事とは思えません。頑張りましょう」
「私たち家族は地域に救急外来がある安心感に支えられて来ました。今回はこちらが支える番です。頑張ってください」
「くも膜下出血で倒れて、小畑先生に手術して頂き命を助けてもらいました。その節は大変お世話になりました。有難うございました。これからも、たくさんの人の命を助けて下さい。三島救命救急センターの存続を願っております」
※Readyfor プロジェクトページより抜粋
八尾看護部副部長
「看護師からは、メッセージを読んで勇気づけられた、ここで働くことを誇りに感じたという声を聞きました。支援者からの励ましに涙が止まらなかったという看護師もいました。今も離職するかどうか悩んでいる職員もいると思いますし、みなさんからの応援が離職の歯止めに繋がってくれればと願っています」
福田副所長
「当センターは3次救急病院ですから、一般病院に比べると身近ではないと思います。けれども、メッセージを読んで『何かあった時に助けてほしい』と思われている方が大勢いることを知り、身が引き締まる思いです。私たち内部の者が思っている以上に、患者さんや地域の方が当院を必要としてくださっていることが分かり、非常に嬉しかったですね」
34年間の積み重ねが、今につながっている
小畑所長
「私は大阪医科大学で週1日の外来を持っていますが、患者さんのほとんどが『見ましたよ』と言ってくださいます。中には、『自分も寄付しました』とおっしゃる方もいます。CFに寄せられたメッセージは全て読んでいますが、20年以上も前に当センターで治療を受けた方からのメッセージもありました。地元の方々だけでなく、遠方にお住まいの方からも温かい応援を頂戴し、目頭が熱くなりました。本当にありがたいです。
1985年の開設から34年間、職員たちは情熱を持ち続け、身を粉にして救急医療に尽くしてきました。それを評価してもらえたことが、これほど支援が集まった要因かもしれません」
法幸事務局長
「加えて、マスメディアの影響も大きかったと思います。CFを開始する日に記者会見を開いたのですが、新聞社やテレビ局など10社近くが取材してくれました。メッセージを見ても、報道でこのCFを知ったという方が多くいらっしゃいました」
ReadyforのCFは、プロジェクト達成から期限内に寄付金を使用するルールがあります。同センターでは、主に非常勤の医師と看護師を雇用する資金として充て、可能であれば臨床検査技師や放射線技師等の不足も補いたい考えです。
小畑所長
「もちろん、常勤で来てくれたら大変ありがたいですが、年度途中ではなかなか難しい問題があります。いずれにしても、病院機能を維持するための人員を確保したいと思っています。職員には過大な負担がかかっているので、少しでも普通の働き方ができるようにもしたいですね」
八尾看護部副部長
「CFを開始したあとから応募してきてくれた看護師が何人かいました。『CFを見ました』とは言われていないので直接的な影響かどうかは分かりませんが、その可能性はゼロではないと思います」
“負のスパイラル”を断ち切り、救急医療を継続したい
一方で、CFによる資金調達は“一時的な対応にしかならないのでは?”という見方もあります。それに対し、小畑所長はこう語ります。
小畑所長
「確かに、CFで根本的な課題解決を図ることは難しいと思います。おかげさまで、これまで3800万円の寄付が集まりましたが、常勤医だと数名雇用することが精いっぱいです。しかし、今回のCFは根本的なシステムを変えるというより、大学に移転するまでの3年間、非常勤でもよいので職員を雇用し、当センターの医療機能を維持することが目的。職員が減り、患者さんの受け入れ数も減った状況を元に戻し、なるべく断らない救急ができるように建て直したいのです。仮に何もせずにいたら、早晩、病院機能はストップしてしまうでしょう。“負のスパイラル”の中でギリギリの状況を、ここで断ち切りたいのです。
救急医療は警察や消防と同じように社会資源です。特に我々のような3次救急病院は、最重症の患者さんを救う“最後の砦”の役割があります。そのような役割を担う当センターが、経営難を理由に揺らいだままでいいのか。病院の職員がCFに頼らざるを得ない状況は果たしていいのか──。今年度はCFで何とか状況を変えて、成果を出したい。それをふまえて、来年度、再来年度と行政にも協力をお願いしたいと考えています」
救命救急センターは24時間、いつ患者が搬送されてくるか予想できません。医師は緊急対応を求められることが多く、高度な知識も技術も求められます。高いモチベーションを持っていなければ勤続しにくいのが現状です。だからこそ小畑所長は「救急医療は人が大事」と強調します。
小畑所長
「正直に申し上げると、医師にとっては他の医療機関のほうが働きやすいと思います。しかし、私たちの仕事は間違いなく社会の役に立つし、困っている人を助けます。健康な時は存在を感じないかもしれません。しかし、当院がなくなったら、もうあとがないという思いを常に胸に抱えています。職員は一様に、救命救急医療への情熱と社会的使命感が強く、それが当センターの最大の資源です。これから入職するであろう新しい職員とともに、3年後の大学移転まで救急医療をつなげるべく、1人でも多くの患者さんを受け入れられる体制を早急に整えたいと考えています」
<取材・撮影・編集:平石果菜子、文:越膳綾子>
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