医師採用に携わる事務長や担当者(場合によっては院長)が押さえておきたい基本を解説する本シリーズ。「応募受付から書類の見方」を解説した前回に続き、今回は、経歴や書類だけでは判断できない部分を探る「面接」です。面接は採用活動のメインでありながら、医師採用では“決められた面接の型”がないとも言われています。求職者の数だけ答えがある進め方の中から、共通のエッセンスを抽出しました。
医師面接の基本:1回で意思決定できるような工夫を
面接は「見定め」と「動機づけ」の2つの側面がありますが、医師の場合は「動機づけ」に重きが置かれます。これまでのシリーズでもお伝えしている通り、医師採用は圧倒的な売り手市場。現職の勤務が忙しいことはもちろん、多数の医療機関から引く手あまたの状況を踏まえれば、本人になるべくストレスがかからないような面接設定が大切です。
(1)服装や持ち物は決めつけない
仕事柄、現場で着替える習慣がある医師は、面接でも普段着のことがあります。もちろんスーツで来る方もいますが、そもそもの前提として「思ったよりもラフな格好で来るかもしれない」という意識を持っているとよいかもしれません。持ち物も必要最低限の履歴書のみとし、手続き上で必要になる書類は追々お願いしたほうが好ましいでしょう。
(2)回数は1回
面接の形式はさまざまですが、回数は1回のみというところが多く見られます。双方が1回で決めなければならない分、内容や時間は千差万別ですが、「面談1時間+院内見学30分」の組み合わせが比較的多いケースです。なお、日時は医師が提示してきた日程になるべく応えられるよう、医療機関側が柔軟に調整できるとよいでしょう。
そのほか、医師の希望に合わせて各診療科の医師やコメディカルと話す時間を設けたり、オペ室の見学を調整したり、食事会を取り入れたり、オーダーメイドの工夫をしていきましょう。お互いに口下手で、いきなりの面談では会話が途切れてしまうという場合は、思い切って院内見学から始めるのもひとつの方法です。
(3)同席者は適切な人数を
面接に出席するのは、採用担当者に加えて、現場のお話ができる院長あるいは診療部長クラスの医師1人の合計2人はいた方がいいでしょう。ここでできるだけ内定の最終責任者に同席してもらえると、その後の意思決定もスムーズになります。
もっとも避けなければならないのは、複数の意思決定者いる場合に、その全員を面接に同席させること。医師1人に対して4人以上になると否が応でも圧迫感が出てしまい、医師が本音で話せなくなる可能性があります。採用の意志決定には理事長、院長、診療部長、事務長、場合によっては看護部長など、さまざまな人が関わっていると思いますが、内定後に顔合わせの機会を設けることもできるので、面接ではおおよそ3人ほどに収められるとよいのではないでしょうか。
(4)同席者の役割分担も忘れずに
同席者が決まったら面接の共通認識を持った上で、適切な役割分担をします。病院の概要やビジョン、地域事情の話は院長、条件面や手術・症例数といった詳細のデータは事務職が説明するなどです。内容によって、誰が言ったら説得力が増すのかを考えられるとよいでしょう。
面接の進め方:ポイントは、事前準備と柔軟性
面接の場は、求職者の医師に合わせて事前準備、シミュレーションをしておくと安心ですが、大抵はシナリオ通りにいかないもの。ベースとなる流れを押さえながらも、求職者に応じた内容を柔軟に考えていきましょう。
(1)自己紹介(医療機関側から)
(2)法人・施設の概要説明
(3)質疑応答:医療機関から求職者へ、求職者から医療機関へ
(4)勤務内容に関してディスカッション
(1)自己紹介(医療機関側から)
まずは話しやすい雰囲気づくりから始めます。いきなり本題から切り出さずに、履歴書に書いてある出身地や勤務先、趣味欄などから話題を膨らませて、場の緊張をほぐせるとよいでしょう。その流れのまま、違和感なく面接に入っていけるとベストです。
(2)法人・施設の概要説明
面接は医療機関が医師のことを知るだけでなく、医師が医療機関のことを知る絶好の機会。概念的な話から現場レベルの話へ具体化していきながら、自院の魅力を伝えていきましょう。
(3)質疑応答:医療機関から求職者へ、求職者から医療機関へ
実践編vol.1 応募・書類受付でもお伝えした通り、医師の意思決定ポイントを整理してから、面接に臨みましょう。具体的には、書類に書いてあった情報をもとに、転職によって何を叶えたいのか、当院であればどのようなことが叶えられるのかを洗い出していきます。この時、質問の仕方も、直接的に聞くのではなく相手が不快に思わないような配慮が必要です。具体的な事例をもとに、質疑応答のポイントを掴んでみてください。
転職背景:勤務先の経営状況が芳しくなく、患者数は変わらないまま給与が下がるほか、診療に必要な機材購入も難しいため転職を決意。安心して働けるだけでなく、若手の指導・教育、自身のやりがいも叶えられる施設を希望。
ポイント1:病院の基盤、そして同院の役割を示す
40代医師はこれからの病院経営を牽引する世代。経営基盤が安定している理由はもちろん、病院、そして診療科が地域とどのように関わっているかを具体的に説明する。
ポイント2:診療科の体制を、リアルな声で伝える
研修医がどれ程いるのか、症例数や手術の術式、将来に向けて動いている構想など、“自院の外科医としての働き方”がイメージできる情報をお伝えする。
転職背景:クリニックにて糖尿病外来を行う予定で入職したものの、土地柄も影響して患者が集まらず、外来開設に至っていない。また、もともとの条件から勤務時間が変わり、拘束時間が長くなってしまった点も転職理由のひとつ。
ポイント1:専門診療にどれだけ関われるのかをアピール
現勤務先で専門治療を十分にできないことが転職理由になっていることから、専門治療の実現可能性が重要。糖尿病を扱っている病院ならば、外来はコマ数、病棟は病床数まで明らかになっているとよいでしょう。
ポイント2:オンオフの切り替えができる勤務実態を示す
週4日勤務、残業なし、土日祝日休み、当直・オンコールなしといった待遇面がどれだけ実現可能かを整理しておきます。完璧に叶えることが難しくても、月に○回なら可能など、叶えられる限りの情報を伝えましょう。
なお、医師による自己応募の場合、事前情報は書類のみですから、面接の進め方は書類上の情報から想像力を働かせるほかありません。一方、人材紹介会社経由の場合は医師の転職背景や希望をコンサルタントにヒアリングしたうえで面接に臨めるので、上手に活用できるとよいのではないでしょうか。
(4)勤務内容に関してディスカッション
入職後に上司になる方と給与や待遇の交渉はなかなかしにくいもの。したがって、条件面についての詳細の打ち合わせは事務職のみなど、意思決定者とは時間を切り分けてフォローできるとよいでしょう。もちろん面接後には院長らと情報共有することになりますが、求職者が話しやすい雰囲気をつくることが大切です。
面接後の対応:合否決定もスピード重視
面接後の判断基準は医療機関によってそれぞれ異なります。経歴・スキルから採用はほぼ決めていて顔合わせ程度の面接をするところもあれば、理事長・院長と考え方が近いかどうかを見極めるところも。ただ、医師の転職市場上、医療機関側が選ぶよりは医師側が選ぶ側面が強くなるので、この段階でもなるべく早い返事を意識します。
合否連絡の最短は面接の場やその日の夜ですが、後日返事をする場合も翌日までにできるとベター。返事の際にお渡しする内定通知書や条件通知書は、日常業務内で雛形を準備しておけば、面接後の微修正で済みます。ただし、書類は一回お渡ししてしまうと取り消せなくなるので、意思決定者への入念な確認を怠らないようにしましょう。
<協力:浅見祐樹、福田拓良/取材・文:小野茉奈佳>
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
法政大学卒業後、事業系NPO法人にて地域活性化や災害救援に従事。「現場が第一」をモットーに、地域ニーズに合わせた事業開発を行う。その後、エムスリーキャリアに入社し、医師採用のコンサルタントとして全国の医療機関を支援。現在は約130社の医師向け紹介会社と連携しながら、医療機関向けの採用支援サービスの開発・推進を担当している。※所属は取材当時
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
早稲田大学卒業後、金融機関にて法人・個人向け融資、投資商品の営業活動に従事。エムスリーキャリアに入社後は、医師採用のコンサルタントとして全国の医療機関を支援。現在は採用アウトソーシングサービスのチームリーダーとして、メンバーのマネジメントを行いつつ、採用支援サービスの開発・推進を担当。※所属は取材当時
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