求人をホームページに載せたり、紹介会社に預けたりした後は、医師からの問い合わせを期待するのみ…そんな“待ちの姿勢”ではなかなか問い合わせにつながらないのが医師採用の現状です。医師の目に留まるためにはどうPRすればいいのか。自院をアピールする上でのポイントや手段、特に紹介会社との付き合い方など、効果的な認知活動について考えていきましょう。
イメージ戦略が医師との出会いを左右する
実際に認知活動を行うにあたり、特に紹介会社を利用する場合は 「こういう希望の医師なら当院」というイメージ戦略ができているか、は重要なポイントのひとつ です。コンサルタントにとって、自信をもって医師に医療機関を提案できるかどうかは、イメージが多かれ少なかれ影響します。「がん治療といえば○○病院」「女性が働きやすいといえば○○病院」といった具合に、自院の特徴をわかりやすくイメージ付けできていると、コンサルタントも提案しやすいでしょう。概要編vol.2で触れたように、病院機能でメインターゲットの医師層はある程度決まります。限られた医師層に対し、競合病院よりも強くアピールするために、 求人票に載せきれない情報も積極的にコンサルタントに共有 しましょう。
イメージ付けするためにはどうすればいい?
わかりやすいのは、 制度化されている事実を示す ことです。実際にその制度が運用されている実績を伝えられるとなお良いでしょう。たとえば「時短勤務も相談可」よりも、「時短勤務制度を整備しており、実際に〇時~〇時勤務で子育てと仕事を両立している勤務医が○人います」と伝えれば、コンサルタントも具体的に医師に説明しやすいでしょう。競合病院が同様の制度を設けている場合も、より詳細に情報を伝えることでコンサルタントに印象付けられます。
実績がなければ、実現できる根拠を提示
実績がまだない条件に関しては、“なぜその対応が実現可能なのか”を示すことが大切です。たとえば当直を免除できる理由として、「当直は非常勤医に担当してもらうため」と「別の常勤医が代わりに当直するから」では、医師に与える印象は大きく異なります。当直なしを希望している医師によっては、他のスタッフにそのしわ寄せがいくと考えて及び腰になったり、いずれ自身が担当せざるを得なくなるのではという不安を感じたりすることもあります。
実際に、医師の転職理由でよく耳にするのは入職前後のギャップです。いざ勤め始めてから、なし崩し的に希望しない業務や条件を受け入れなければならなくなったというケースは少なくありません。医師の世界は狭く、転職先でトラブルになればその後のキャリアにも響きかねないため、転職先の実態を非常に気にします。 求職者の希望にあわせて制度を新しく設ける際も、無理なく維持できる裏付けを示す ことで、医師の不安解消につながるでしょう。
「少なく濃い」やりとりが鍵
同様の理由で、医師から質問があった際には 「Yes/No」だけでなく、その背景・理由も一緒に伝える ことでより医師に安心感を抱いてもらいやすくなります。
Q:精神保健指定医の資格を取得できますか?
A:他院との連携体制を整えているため実現可能です。当院は二次医療圏の中で中核的な役割を担っており、幅広い症例が集まります。実際、昨年の診療実績は………でした。児童・思春期障害は症例数が集まりにくいと言われていますが、院長が各方面へのパイプを持っており、たとえば〇〇病院や〇〇病院とも連携しています。このため、必要な症例数が○年以内に集められるでしょう。
医師と直接やり取りする場合はもとより、紹介会社を利用する場合も、数少ないやりとりでわかりやすく背景や根拠を伝えることで医師に対して密度の濃い情報提供ができます。そうした好例は紹介会社内で共有されますから、他のコンサルタントにも「今度こういう医師から問い合わせがあったらあそこの医療機関を提案しよう」とイメージ付けにつながるでしょう。
手段はコスト・期間・施設の特徴の3軸で考える
次に認知活動の手段を見ていきます。概要編vol.1でも触れているように、近年では大学の医局人事以外にも医師採用の手法は多様化しています。どれが自院にとって最適なのか、見極めるためのポイントは以下の3点です。
まず、認知活動にかけられる費用や労力、期間を確認しましょう。たとえば、ある程度コストをかけてでも半年後までに医師を確保しなければならない、という場合には採用支援サービスといったリミット内の採用を前提としたサービスや、知人からの紹介など一定の確度を期待できる手法が考えられます。
また、自院の特徴(規模や知名度)によっても、メインの募集経路は異なります。知名度の高い医療機関は医師が調べて応募してくるケースも多いので、自院ウェブサイトの強化といった施策が有効です。一方、そもそもウェブサイトへの訪問者が少ない、という医療機関では外部の媒体を利用した発信などを検討したほうがいいでしょう。このように、自院の特徴も鑑みて手段を選ぶ必要があります。
現在、上記の中で特に利用率の高いものに知人紹介や紹介会社が挙げられます(それぞれの利用率については概要編vol.1をご参照下さい)。一方で、紹介会社に対しては「求人を預けているのになかなか医師を紹介してくれない」などの声もあるようです。紹介会社を有効活用するには、どうすればいいのでしょうか。
紹介会社を有効活用するには
利用者層:多様な医師が利用、各社の得意分野を確認して
各社傾向はありますが、紹介会社に登録している医師は若手からベテランまで様々です。2017年度のエムスリー株式会社登録医師のデータによると、年齢層としては30・40代が最も厚くなっています。転職理由は、ワークライフバランスを重視したい医師が一定数いるほか、現職では物足りずもっと研鑽を積みたいという医師も少なくありません。
医師の登録者数は、紹介会社の規模に応じて多くなる傾向にあります。一方、規模が小さくても独自のルートで大手には登録していない求職者を多数抱えている紹介会社もあります。コンサルタントへの信頼感から優秀な求職者が集まる、特定の地域や診療科に精通しているなど、紹介会社によってそれぞれの特徴があるので、紹介会社を選ぶ際には規模だけでなく強みに着目するといいでしょう。
紹介会社との付き合い方:利用社数に“正解”はない
利用する紹介会社数は採用にかけられるコストや人手に応じて考えましょう。ただし、紹介会社は各々強みがありますから、医師との接点を増やすためにはできるだけ数を絞らない方がベターではあります。中には工夫して1人で100社もの紹介会社とやりとりしている採用担当者もいるそうですが、他の業務も並行しながら採用を担当されているのであれば、10社程度が目安になるのではないでしょうか。
その際、「どの紹介会社と関係を強くするか」という目線は持っておくと良いかもしれません。付き合うべきか否かを判断するポイントの一つは、 “医療機関目線”があるかどうか です。
たとえば、ある地域の中核病院(500床規模)では「断らない医療」を掲げながらも、深刻な内科医不足に悩んでいました。紹介会社経由で1人の内科医が入職しましたが、紹介会社が医療機関の経営方針や想い、現状を詳細に伝えたところ、病院の理念に強く共鳴した医師はリクルート活動にも積極的に協力し、現在では科を牽引する存在として病院を支えているそうです。
このように、紹介会社が医療機関についてもしっかり把握していると、マッチングの量のみならず質が高まります。自院について理解し対応してくれる紹介会社かどうかを見定めながら、あまり自院の状況が把握されていないと感じるようであれば、前述したような伝え方で積極的に情報提供してみてはいかがでしょうか。
留意点:対面でのやりとりも効果的
電話やメールでのやりとりだけでなく、採用支援会社が主催する説明会に参加したり、場合によっては紹介会社を訪問したりして、 対面で情報を提供することも効果的 です。医療機関としては求人票に盛り込みきれない情報を伝えることができますし、その場でコンサルタントから求職者の情報を得られることもあります。その場合、「そういう先生なら、こんな環境も用意できますよ」と+αの提案を行うことも可能です。他院と差別化するチャンスと言えるでしょう。紹介会社にとっても、たとえば子育て中の求職者に対しどこまで医療機関が配慮してくれるかといった繊細な条件交渉は時に対面の方がやりやすい、という側面があります。
「打ち手なし」とお悩みの医療機関も少なくない一方で、限られたコストや人員でも効果的な認知活動を行っている医療機関もあります。ここは採用担当者の腕の見せ所とも言えるでしょう。採用戦略を踏まえた上で、自院にとって最適なPRのあり方を今一度探ってみてはいかがでしょうか。
<協力:浅見祐樹、福田拓良/取材・文:角田歩樹>
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
法政大学卒業後、事業系NPO法人にて地域活性化や災害救援に従事。「現場が第一」をモットーに、地域ニーズに合わせた事業開発を行う。その後、エムスリーキャリアに入社し、医師採用のコンサルタントとして全国の医療機関を支援。現在は約130社の医師向け紹介会社と連携しながら、医療機関向けの採用支援サービスの開発・推進を担当している。※所属は取材当時
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
早稲田大学卒業後、金融機関にて法人・個人向け融資、投資商品の営業活動に従事。エムスリーキャリアに入社後は、医師採用のコンサルタントとして全国の医療機関を支援。現在は採用アウトソーシングサービスのチームリーダーとして、メンバーのマネジメントを行いつつ、採用支援サービスの開発・推進を担当。※所属は取材当時
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