医師不足が叫ばれて久しいですが、そんな中でも採用に成功している医療機関はあります。
「なぜあの病院には医師がくるのに、うちにはこないのだろう…」そんな疑問をお持ちの採用ご担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。採用に成功する医療機関とうまくいかない医療機関をわけるものとは──? エムスリーキャリア株式会社の経営支援事業部 採用アウトソーシンググループでは、医師の採用に関する課題を解決するために年間1000施設以上の医療機関を訪問。その中でも、吉田力哉氏と柳牛寛行氏は全国津々浦々の医療機関に赴き、その数はそれぞれ年間300施設を超えるそうです。日々、医師の採用担当者と面談しヒアリングする彼らに、医療機関が抱える採用課題について聞きました。
・「そんな求人出したっけ?」
・採用改善のヒントが隠れているのは…
・「医師を採用できない」医療機関の特徴とは
・エビデンスベースの戦略で、採用の確度を高める
・過半数の医療機関が、半年以内に採用成功
「そんな求人出したっけ?」
──年間1000以上の医療機関に訪問しているそうですね。
吉田力哉氏:
現場に行き直接お話を伺う中でわかることも多いので、なるべくたくさんの施設へ足を運ぶようにしているんです。私と柳牛以外のメンバーも含め、計5名で年間1200~1400施設くらいを目標に活動しています。全国には病院が8000以上、クリニックが10万以上あると言われていますが、医師採用に関してなんらかのアクションを起こしている医療機関を対象に訪問しています。
──医師の採用について、病院からはどんな反応が多いのでしょうか。
吉田氏:
医師を採用すべき背景や現状の深刻さを、担当者ご自身もあまりはっきりとは認識していないことが少なくないですね。訪問した際に「●●科の募集状況はいかがですか?」と質問すると、「実はそんなに困っていないんだよね」「そんな求人出してたっけ?」など、拍子抜けしてしまうようなお返事を頂くことも。「医師がいれば助かるからとりあえず出しているだけ」というパターンは意外と多いように思います。
柳牛寛行氏:
正直、そうした医療機関では求人票などの情報も充実しているとは言えません。結果、医師への訴求力が弱く面接につながっても入職には至らない、あるいはそもそも面接まで辿りつけないケースが多くなります。医師が増えなければ収益面での機会損失が発生しますし、既存の勤務医の負担軽減もままなりません。まずは現状をしっかり把握することが大切ですね。私たちが訪問した際には、募集の背景や現在の勤務状況をしっかりとヒアリングし、より精度の高いご提案につながる情報をお聞きするよう意識しています。
採用改善のヒントが隠れているのは…
──たとえばどういったことについて聞くのでしょうか。
柳牛氏:
私は募集状況のほかに、直近2年間の医師の応募数・面接数・入職数、つまり応募から入職までの遷移率も聞くようにしています。この数字があれば、“採用の可能性”が大体つかめます。他にも退職人数やその理由もヒアリングします。退職理由には採用を改善するためのヒントが隠れている場合が多いですから。
吉田氏:
確かにそうですね。家庭の事情や開業などの場合は仕方ないですが、過重労働やライフステージの変化、待遇に対する不満などが理由なら、医療機関の対応次第で未然に防げたかもしれません。ちなみに、私はコメディカルの退職数も聞くようにしています。コメディカルの退職が特定の診療科に偏っている場合は、その科に所属する医師の人間関係も良好ではない可能性があります。
柳牛氏:
なるほど。どの世代でも、医師の転職理由には必ず“人間関係”が上位にランクインします。コメディカルの離職が多い診療科目では、一度人事に関するヒアリングを実施するなどして、原因を突きとめたほうがいいかもしれませんね。
- 採用に対する危急度
- 募集背景
- 直近の採用実績
- 直近の退職理由(医師・コメディカル)
- 勤務条件(勤務日・休日)
- 給与規定
- 人事制度
- 経営状況
- 中長期計画
- 病院機能、地域連携の状況など
「医師を採用できない」医療機関の特徴とは
──「採用がうまくいかない」医療機関とは具体的にどういうところでしょうか。共通する特徴はありますか。
柳牛氏:
さきほども挙がっていましたが、まず“募集背景が明確でない医療機関”ですね。こうした医療機関では多くの場合、「こういう先生に来てほしい」というビジョンもお持ちでない。これでは医師や紹介会社のコンサルタントの目にはとまりません。面接にこぎつけても上手くいかないでしょう。
吉田氏:
私は“意思決定までのスピード”も非常に重要だと思っています。訪問の際、求人情報の修正やサービスのご提案をさせていただくことがあるのですが、「理事長や院長と相談します」と言ったきり1~2週間経っても進展がない、というパターンが往々にしてあります。事務長や決裁権のある方がお忙しいのは百も承知です。そして、そのような場合、面接や内定などの調整や決裁にも同じように時間をかけてしまう傾向が見られます。そうなると、医師にとっては印象がよくありません。採用の成否を左右する大きな要因の一つですから、なるべく早いレスポンスが大切です。
柳牛氏:
あとは、“給与条件や人事評価が入職年次などで一律に固定されていて、全く融通が利かない”ところも採用に難儀している印象です。採用では、給与の額もさることながら、待遇の決定条件が重要です。経験年数や年齢で一律の給与テーブルから算出している医療機関が多いですが、手術の有無や受けもつ病床数、経営へのインパクトを総合的に判断し決める必要があると思います。
「在籍する医師との給与バランスがあるから…」という思いもあるかもしれません。しかし、他の医師に給与など個人情報がオープンになってしまう環境なのだとすれば、その環境自体に対処すべきではないでしょうか。仮に何らかの形で周囲に知られてしまったとしても、条件を規定するプロセスが明確かつ正当ならば、反発につながることは少ないでしょう。「規則だからどうしようもない」と思ってしまいがちですが、その規定や規則が合理的で、誰もが納得するものなのか疑問に感じるケースも見てきました。多少なりとも、弾力性のある待遇決定が必要ではないでしょうか。
エビデンスベースの戦略で、採用の確度を高める
──では、「医師を採用できる医療機関」になるためにはどうすればいいのでしょうか。
吉田氏:
最初に申し上げると、医師採用には「これをやれば絶対成功する」というものはありません。しかし、あえて挙げるとするなら“熱量”でしょうか。「こんな医師に来てほしい」「こういう条件にすれば医師に興味を持ってもらえるかもしれない」を突き詰めることで成功に近づくと思います。
つまり、病院が自力でできることは多いはずです。まずは現状の課題を洗い出して、院内で改善に取り組んでみるのがいいと思います。なかなかうまくいかないようであれば、我々のような紹介会社を上手く利用していただくのも一つの手です。弊社の採用アウトソーシング(採用OS)サービスでは、日々社内に蓄積される医師の転職傾向や、親会社のエムスリーが持つ膨大なデータも組み合わせて、求人情報のリッチ化に取り組んでいます。
たとえば、一般的には高額求人とされる年収2000万円以上の求人でも、近隣の相場がそれを上回る金額であればアピールポイントにはなりません。しかし、競合となる施設がどのような求人を出しているのか、都道府県内の相場がいくらくらいなのかを詳しく把握している担当者の方は多くありません。
弊社からは個別の医療機関の詳細な情報をお伝えすることはできかねますが、データを集計・分析した情報であれば提供可能です。そうしたエビデンスをベースに「競合がこれだけいるので年収以外の差別化ポイントをつくろう」などと、より有効な打ち手を考えていくこともできるでしょう。
柳牛氏:
最新のデータや客観的な事実をもとに、医師採用の戦略を考えることは非常に大切ですね。以前、山口県西部にあるA病院が採用OSを利用されました。A病院は山口県内の医師ではなく、隣接する福岡県内の医師をターゲットにすることで採用に成功した。なぜ山口県にある病院が、福岡県の医師をターゲットにしたのでしょうか。そこには3つの理由がありました。
・新幹線を利用すれば山口県へのアクセスも比較的容易
・福岡県にはクリニックが多く、エリアによっては医師の平均年収が山口県よりも低い
こうした背景から、医師へのアピールポイントを
・平日は社宅を用意し、週末などに利用できる帰省手当を支給
・現職以上の年収を保障
の3点に設定。福岡の医師に対して認知活動を行ったところ、無事入職となったわけです。
過半数の医療機関が、半年以内に採用成功
──最後に、採用OSについて教えてください。医師採用の打ち手が見えない病院が対象ですか。
吉田氏:
はい。そのような病院関係者がいましたら、私たちの出番です。求人情報の作成にあたり、多種多様なデータをもとにアドバイスをさせていただくのはもちろんですが、他の紹介会社への認知活動・営業活動も基本サービスのひとつとして行っています。具体的にはメルマガの配信、紹介会社向け説明会の実施、紹介会社訪問などです。
- まだ取引のない紹介会社と一斉に関係を持てる
- 最新の求人情報を一度に更新できる
- 提携する紹介会社は100社以上(2018年11月現在)
- 医療機関側の実働の負担を最小限に抑えながら、リーチできる医師層を広げやすくなる
──まさに攻めの採用ですね。結果として、どのくらい採用に結びついているのでしょうか。
吉田氏:
今まで累計500施設以上にご利用いただいており、半年間の医師採用率は50%以上、サービスの継続利用率も同様に50%以上です。「通常の求人だけでマッチする医師が見つかる確率は5%程度」と言われていることを考えると、効果的な手法と言っていいと思います。ただ、私たちの目標はこの数字を限りなく100%に近づけることです。医療機関にとっても転職する医師にとっても良いご縁をつくることができるよう、引き続きサービスの品質向上を目指します。
お電話または以下リンク先から、「採用OS担当」にお問い合わせください。
・お電話でのお問い合わせはこちら
エムスリーキャリア(株)経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ 吉田、柳牛
03-6895-5182(月~金 9:30~18:00受付)
・ネットお問い合わせはこちら
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
茨城大学人文学部卒業後、モバイルコンテンツ制作会社に新卒入社。アプリ企画部を経て営業部に配属され、西日本の地場代理店や商社系・メーカー系の大手代理店を担当。
その後エムスリーキャリアに入社し、医師採用コンサルタントとして全国の医療機関の採用を支援。現在は採用アウトソーシングサービスの営業責任者として営業全体の指揮や戦略の立案を行う。
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
関西外国語大学外国語学部英米語学科卒業後、水道インフラのメーカーに就職し、営業職を経て海外事業部に配属され営業管理職としてベトナム・ホーチミン市に駐在。
その後、エムスリーキャリアに入社し、医師採用コンサルタントとして全国の医療機関をクライアントに持つ。「戦略的な医師採用」をモットーに、医療機関にとって本当に必要な医師を様々な角度から分析し、採用活動を支援。
<協力:吉田力哉、柳牛寛行/写真:塚田大輔/編集:角田歩樹>
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