施設基準の届出に関する通知の中で、解釈上、特に大切なのが「届出受理後の措置等」です。施設基準上の数値的な判断条件を示したもので、医事の方なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし誤った対応により、地方厚生局から違反を指摘されるケースもあるので注意が必要です。今回は2つの落とし穴を解説します。
特例ルール内なら、施設基準を下回ってもいい?
「届出受理後の措置等」は、病院が地方厚生局に施設基準を届け出たものの、その内容と異なる事情が診療報酬請求時に生じ、施設基準条件を満たさなくなったときの対応を示したものです。当然、基準を満たさなくなった場合は、遅滞なく変更の届出を行うのが原則ですが、一部には例外条件があります。
例えば、平均在院日数や月平均夜勤時間数は「暦月で3か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動」であれば数値的な条件緩和が行われます。ややわかりにくいこの表現を噛み砕くと、「仮に施設基準を下回っても条件設定された数値の1割以内であれば、3か月間は条件を緩和する」という意味です。乱暴な言い方をすると、基準値ギリギリの病院なら4か月目で基準値をクリアできればいい、といった読み方もできます。
ここで誤解しないでいただきたいのは、1割を超えて下回った月が一度でもあれば、その施設基準は取り下げて、速やかに施設基準変更の届出をしなければならないのが原則だということです。
しかしながら、一部項目の「暦月で3か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動」に対しては、特別対応を認めているのです。施設基準の数値条件は4か月連続で落とさなければ良いものだと誤って認識している人が意外といるので気を付けたほうがいいでしょう。
実はここに落とし穴があり、施設基準の立入調査(適時調査)の時などに、とんでもない違反として指摘される可能性が潜んでいます。
そもそもこの通知は、基本診療料の施設基準等に対して特例的に示されたものです。当然、特掲診療料も含め、ここに示されていない他の施設基準が届出条件を満たさなくなった時は、「届出の内容と異なった事情が生じた日の属する月の翌月には、速やかに変更手続きを行なうこと」という原則があります。したがって本来、数値化された施設基準条件というのは、かなり厳格に監視する必要があるのです。そのため、決して担当者任せにせず、病院幹部もしっかりと目を光らせていなければなりません。
(1) 平均在院日数及び月平均夜勤時間数については、暦月で3か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動
(2) 医師と患者の比率については、暦月で3か月を超えない期間の次に掲げる範囲の一時的な変動
ア 医療法に定める標準数を満たしていることが届出に係る診療料の算定要件とされている場合
当該保険医療機関における医師の配置数が、医療法に定める標準数から1を減じた数以上である範囲
イ 「基本診療料の施設基準等」第五の二の(1)のイの②の3、四の(1)のイの④及び六の(2)のイの⑤の場合
常勤の医師の員数が、当該病棟の入院患者数に100分の10を乗じて得た数から1を減じた数以上
(3) 1日当たり勤務する看護師及び准看護師又は看護補助者(以下「看護要員」という。)の数、看護要員の数と入院患者の比率並びに看護師及び准看護師(以下「看護職員」という。)の数に対する看護師の比率については、暦月で1か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動
(4) 医療法上の許可病床数(感染症病床を除く。)が100床未満の病院及び特別入院基本料(月平均夜勤時間超過減算により算定する場合を除く。)を算定する保険医療機関にあっては、1日当たり勤務する看護要員の数、看護要員の数と入院患者の比率並びに看護職員の数に対する看護師の比率については、暦月で3か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動
(5) 算定要件(一般病棟用の重症度、医療・看護必要度Ⅰ又はⅡ(以下「重症度、医療・看護必要度Ⅰ・Ⅱ」という。)の評価方法を用いる要件は除く。)中の該当患者の割合については、暦月で3か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動
(6) 算定要件中の紹介率及び逆紹介率については、暦月で3か月間の一時的な変動
医事・電子カルテシステムにもある落とし穴
前述の誤解に基づく落とし穴のほかにも、システム面での落とし穴もあります。一般的に、「届出受理後の措置等」で挙がっている数値的な情報は、システム化が進んでいる部分でしょう。しかしながら、その算出条件の細かなマスター設定は病院側に委ねられており、医事や電子カルテのシステムを導入する際に統計システムと同時に組み込まれていることが多くあります。つまり、医事課や情報システムの体制が整っていない病院では、マスターの更新なく導入当時のまま放置されていることがあり、担当者も認識がないままシステムベンダー任せにしてしまっていることが少なくありません。
「届出受理後の措置等」の通知部分を参照してみると、医師や看護師等の数のほか、2018年度改定でかなり見直しが入った重症度・医療、看護必要度ⅠおよびⅡについて条件が触れられています。また、施設基準だけでなく「算定要件」についてもその条件を明示しています。ここで言う算定要件とは、診療報酬改定で示される、いわゆる「診療報酬の算定方法の告示及び通知」を指したものになりますので、診療報酬の算定本を通知まで含めてしっかり読み込むことが大切です。
さて、次回はこの続きの紹介率と逆紹介率について詳しく解説します。
<編集:小野茉奈佳>
・病院の生き残りを左右する「施設基準管理士」とは―日本施設基準管理士協会 田中利男代表理事
・変わる算定要件や施設基準、個別改定項目の読み込み方―診療報酬請求最前線
・急性期から在宅まで経験 たたき上げの事務職が40歳直前で環境を変えたわけ―国立大学病院データベースセンター 守野隆寛氏
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