選定療養費などの保険外サービスは、ただの増収策にあらず─診療報酬請求最前線

診療報酬請求最前線

昨今、病院では療養環境の充実がある種のトレンドになっています。たとえば病室に関して言えば、ホテルのように高級感のある部屋をつくったり、全室個室を実施したりする病院も。また、特に新病院の建設においてはハード面のみならず、外来・入院診療のソフト面でも“特別な対応”を設ける動きが見られます。他院との差別化を図る上でも戦略的にこうした対応を行う病院が増える中、鍵となるのが「選定療養」や「保険給付とは直接関係のないサービス」の取り扱いです。

これまで日本の医療は、保険診療の枠組みの中で横並びのサービスを展開してきました。しかし、医療経営環境の変化や患者側のニーズの多様化、さらに国際化の流れが急激に押し寄せていることなどに伴い、特別な環境づくりが求められていると筆者は感じています。こうした流れをふまえると、今後「選定療養」や「保険給付とは直接関係のないサービス」を適切に運用することは、ますます重要となるでしょう。

幅広いニーズに応える!保険適用外のサービスとは

医療には保険診療とともに、患者の選択により追加の費用負担を求める“保険適用外のサービス”があらかじめ定められています。これは「選定療養」という枠組みの中で実施され、法令上は「被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣の定める療養」と明記されます。具体的には、以下のサービスが選定療養として認められています。

  1. 特別の療養環境(差額ベッド)
  2. 歯科の金合金等
  3. 金属床総義歯
  4. 予約診療
  5. 時間外診療
  6. 大病院の初診
  7. 大病院の再診
  8. 小児う触の指導管理
  9. 180日以上の入院
  10. 制限回数を超える医療行為

一方、「保険給付とは直接関係ないサービス」という概念で、患者から実費を徴収する仕組みがあります(表1)。これには、病衣やテレビ代といった日常生活に関連するサービスから、証明書発行やカルテ開示といった文書関連の手数料、さらには在宅医療の交通費といった、保険診療に密接に付帯するものまで幅広い内容が含まれます。中には、近年急増している訪日外国人の医療通訳や、インフルエンザワクチン、美容形成といった直接的に医療行為に属する領域も設定があるのです。

このサービスの基本軸は、混合診療の禁止(保険給付に関連するサービスや物は、原則としてその費用を徴収してはいけない)にあります。しかし見方を変えれば、保険診療の枠組みに抵触しない範囲をあらかじめ定め、保険診療との併用を認めているといっても過言ではありません。つまり、保険診療で賄えないサービスのうち、直接医療とは関係ないけれどニーズの高いものに関しては実費徴収を許しているということです。

保険適用外サービスに求められるのは戦略

こうした保険適用外のサービスは、単なる増収策でなく、広報、そして他院と差別化するブランディングの一環として捉えることができるでしょう。そのためには、患者ニーズと今後の医療政策の流れを押さえつつ、医療機関の特徴を前面に出すことが必要です。そう考えると、保険適用外サービスは病院経営において、戦略的な展開を求められる活動の1つに位置づけられるのではないかと思います。

たとえば、代表的な選定療養費の一つである差額ベッド代。運営に関しては「特別の療養環境の提供」(療養担当規則)という縛りのなかで適切に運用することが定められていますが、この中で特別な療養環境の提供に関して、入院診療のみならず外来診療においても「療養環境の向上に対するニーズが高まりつつあることに対応して、患者の選択の機会を広げるために、一定の要件を満たす診察室等について、患者に妥当な範囲の負担を求めることを認める」としています。こうしたこともあって、最近では、単なる室料というよりも、高級・贅沢な療養環境の提供費として捉える傾向が見られます。診察室や病室の装飾はもちろん、アメニティや食事のグレードアップ、丁寧な対応にコンシェルジュの配置といったラグジュアリーなサービスで、他院と差別化を図る医療機関も増えています。

もう一つ、予約診療も新たな展開が見込めます。待ち時間に対する患者満足度が3割以下という調査結果もあり、時間に着目した保険適用外サービスのニーズは少なくないでしょう。たとえば、先ほどの特別な療養環境の診察室の提供以外にも、選定療養費から「予約診療」の一部に導入し、診察までの待ち時間なし、会計などで並ぶ必要もなし、さらには十分な診察時間を確保してじっくり話を聞きながら診療する、といったサービスも実現する可能性があります。こうしたプレミアムな外来診療スタイルの対価として、選定療養費を徴収するといった展開もありうるのではないでしょうか。

「平成29年受療行動調査(確定数)の概況」(厚労省)から抜粋

実際に、予約診療で選定療養費を徴収する流れは出てきています。以下の表は、全国の医療機関を対象とした選定療養費の調査の中から、予約診療に選定療養費を徴収している数と、その金額を表したものです。報告によれば、予約診療を実施する医療機関数は年々、増加傾向にあります。
中でも注目すべきは、最高54,000円という高額な予約診療料を徴収している医療機関もあるということです。これだけの高額を支払ってでも受けたいと思えるサービスを、この医療機関が提供しているということなのでしょう。

2018年11月の中医協総会資料より抜粋

 

※参考 保険診療とは別に徴収してはいけない費用

(1) 手技料等に包括されている材料やサービスに係る費用
ア 入院環境等に係るもの
(例)シーツ代、冷暖房代、電気代(ヘッドホンステレオ等を使用した際の充電に係るもの等)、清拭用タオル代、おむつの処理費用、電気アンカ・電気毛布の使用料、在宅療養者の電話診療、医療相談、血液検査など検査結果の印刷費用代 等
イ 材料に係るもの
(例)衛生材料代(ガーゼ代、絆創膏代等)、おむつ交換や吸引などの処置時に使用する手袋代、手術に通常使用する材料代(縫合糸代等)、ウロバッグ代、皮膚過敏症に対するカブレ防止テープの提供、骨折や捻挫などの際に使用するサポーターや三角巾、医療機関が提供する在宅医療で使用する衛生材料等、医師の指示によるスポイト代、散剤のカプセル充填のカプセル代、一包化した場合の分包紙代及びユニパック代 等
ウ サービスに係るもの
(例)手術前の剃毛代、医療法等において設置が義務付けられている相談窓口での相談、車椅子用座布団等の消毒洗浄費用、インターネット等より取得した診療情報の提供、食事時のとろみ剤やフレーバーの費用 等
(2)  診療報酬の算定上、回数制限のある検査等を規定回数以上に行った場合の費用(費用を徴収できるものとして、別に厚生労働大臣の定めるものを除く。)
(3) 新薬、新医療機器、先進医療等に係る費用
ア 薬事法上の承認前の医薬品・医療機器(治験に係るものを除く。)
イ 適応外使用の医薬品(評価療養を除く。)
ウ 保険適用となっていない治療方法(先進医療を除く。) 等

<編集:角田歩樹>

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