2024年4月から始まる「医師の働き方改革」。最大の目玉政策として、医師の時間外労働の罰則付き上限規制が始まります。この「罰則」は使用者である医療機関に科せられますが、その詳細をご存知でしょうか。今回は「医師の働き方改革」で定められた法律を遵守しなかった場合の罰則内容について解説します。
目次
「医師の働き方改革」で守るべき時間外労働の上限
「医師の働き方改革」の最大の目玉は、医師の長時間労働の是正です。安心・安全な医療の提供、医師の心身の健康確保を目的としています。
長時間労働を是正するために、医療機関の実態に合わせて以下のように時間外労働の上限が定められます。
すべての医療機関は原則として、以下に記した「A水準」を目指すことが求められています。
- 原則1日8時間(週40時間)、超える場合は36協定の締結が必要
- 36協定を締結している場合、勤務医の時間外労働の上限は月100時間未満(年960時間未満)
- 時間外労働が月100時間を超える場合は、追加的健康確保措置を実施
また、地域医療において救急対応が必要な病院はB水準、初期・専攻医の研修を行う医療機関はC水準として以下の時間が定められました。
- 月100時間未満、最大で年1860時間未満
- 時間外労働が月100時間を超える場合は、追加的健康確保措置を実施
ただしB・C水準はあくまで暫定的な措置とされています。
上限超えの罰則は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
所属する医師が時間外労働の上限を超えてしまった場合は、一般企業と同様に、労働基準法141条により、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が医療機関に科せられます。
「30万円以下の罰金で済めば、それほど大きな損害ではない」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、従業員から損害賠償請求をされたり、悪質な場合は刑事責任を追求されたりする可能性もあります。そして、法令違反をした医療機関として公表された場合は、地域住民や従業員からの信用を失い、集患や採用など、経営そのものに大きな影響を与えることになりかねません。
罰則を受けるまでは3段階
基準値となる上限を超えたら直ちに「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられるわけではありません。罰則を受けるまでは次のような流れが想定されています。
1.労働基準監督署による調査
2.違反が認められた場合は是正勧告・改善指導
3.是正勧告を無視した場合は司法処分
それぞれ詳しく見ていきます。
1.労働基準監督署による調査
労働基準法違反の取り締まりは、労働基準監督官が行っています。そのため、違反が疑われる場合は、実際に医療機関に立ち入り調査があります。なお、この調査を拒否したり、虚偽の回答をしたりすると30万円以下の罰金が科されることもあります(労働基準法第120条)。
調査は定期監督、災害時監督、申告監督、再監督の4種類に分類されます。
【定期監督】
労働基準監督署のその年の監督計画に基づいて調査を行います。前年までの実績などから対象事業所が決定され、原則は事前予告なしで行われます。
【災害時監督】
重大な労働災害が発生した場合、原因究明や再発防止のために行われる調査です。
【申告監督】
労働者から労働基準法違反などの申告(告訴・告発)があった場合、その内容を確認するために行われる調査です。労働者を保護するために、労働者からの申告と明らかにせずに行うケースと、労働者からの申告であることを明かして指定日時に呼び出すケースがあります。
【再監督】
監督の結果、是正勧告を受けた場合に、その違反が是正されたかを確認する調査です。是正勧告を受けたのに指定日時までに報告書を提出しなかった場合にも行われます。
調査で確認される内容は医療機関によって異なりますが、就業規則や、勤怠状況がわかるタイムカード、賃金台帳の提出、責任者や労働者への勤務実態の聞き取りなどです。
日頃から労務管理を整えておくことで、いざというときも慌てずに対応することができるでしょう。
2.違反が認められた場合は是正勧告・改善指導
労働基準監督署による調査で、法令違反や改善点が見つかると、書面で指示・指導を受けます。
法令違反が認められた場合は違反事項と是正期限を定めた「是正勧告書」、法令違反はないが改善すべき点が認められた場合は「指導票」が交付されます。これらの書面を受けた場合は、その後是正した内容をまとめて「是正(改善)報告書」を提出しなければなりません。
もし是正(改善)せずに報告書を提出しなかった場合は、再監督が行われることがあります。
3.是正勧告を無視した場合は司法処分
是正勧告を受けた後も是正しない、是正報告書の提出をしないとなると書類送検等の司法処分が行われます。その後、起訴、裁判を経て刑が言い渡されます。医療機関名も公表されることになるでしょう。
「医師の働き方改革」の実施は信用問題にもつながる重大事項
これまでも労働基準監督署が医療機関に立ち入り調査を行うケースがあり、都市部・地方、病院・クリニックを問わず、是正勧告を受けた医療機関は数多くあります。
医療機関の場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則そのものよりも、社会的・経済的な信用を一気に失ってしまう方が大きな損害につながってしまいます。
もちろん、医師の働き方改革に伴う法令だけでなく、労働基準法に従来から定められている強制労働の禁止をはじめ、休憩・休日、均等待遇といったこれまでの法令も引き続き遵守していく必要があります。
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