【事務部門編】地域包括ケア病棟導入ドキュメント リハビリ立ち上げから病床転換に挑む―医療法人社団愛生会 昭和病院

地域包括ケア病棟への転換において、事務部門はチームをまとめながら、細かい届出作業を滞りなく進める必要があります。2017年7月に地域包括ケア病棟を導入した医療法人社団愛生会昭和病院(岩手県一関市、54床)は、リハビリテーションは皆無、データ提出加算も初の試みという状況から6カ月で転換を完了させました。事務職にとっては荷が重い中、いかにして転換を成し遂げたのか、事務長の佐藤勝氏と事務長代理の佐々木彰徳氏に聞きました。

医療法人社団愛生会 昭和病院

岩手県一関市に位置する、全54床の中小病院。事務部、地域連携室、看護部門の連携により、2016年12月から2017年7月にかけて、一般病床30床を地域包括ケア病床に転換した。

6カ月の限られたスケジュールで、ゼロからの体制構築

医療法人社団愛生会 事務長

佐藤勝事務長

―事務部門にとって、地域包括ケア病棟を導入するときのハードルは何でしたか。

佐藤氏 リハビリテーション部門がまったく整備されていなかったことですね。2014年に地域包括ケア病棟が導入された時に、院内で「やりたい」という話が出ましたが、機能訓練室がなくて諦めていたんです。施設基準では100平米が必要なのに確保できそうな一番広い部屋で64平米しかありませんでしたから。

―そんな状況下で、なぜ転換を決めたのでしょうか。

佐藤氏 最近になって、リハビリ室はほかの部屋と合算できると分かったのです。それができるなら地域包括ケア病棟も思い切ってやろうと。ただ、ゴールがないとだらだらしてしまうので、最初に2017年7月から開始という目標を決めました。集患のためにも5月には、地域に周知のアナウンスを始めましたね。

佐々木氏 転換前は54床すべてが10対1の一般病床だったので、診療報酬請求をしながら平均在院日数21日のしばりがなかなか厳しいと感じていました。当院の患者さんも高齢化で体力が落ちていたり、ご家族の介護力が足りなかったりして、どうしても入院日数が伸びてしまうことがありました。そんな状況だったので最大60日入院できて、その間入院単価が変わらない地域包括ケア病棟は魅力的でしたね。

―一番のハードルだったというリハビリテーション部門の立ち上げのために、どのようなことを行いましたか。

医療事務 岩手県

佐々木彰徳事務長代理

佐々木氏 まずはリハビリ室の整備です。半分物置のような部屋を片付けて、エアコンや水道を設置というところからやりました。あと合算予定の部屋が内視鏡室だったので、別の部屋に機器を移動させる準備をしていました。ただ、その当時は知らなかったのですが、診察室を移動して名前を変えるとか、そんな単純にはできないんですよね。変更事項は必ず保健所に届出をして許可をもらう必要があると。その事実に気付いたのが、リハビリテーションの申請をしようという直前。保健所に電話をしたら、地域包括ケア病棟のスタートを7月に間に合わせるのなら、翌日には必要な書類を提出しないと間に合わないと言われ、本当にひやひやものでした。

―場所の確保にも相当な苦労があったように感じましたが、そこで働くリハビリスタッフの採用で工夫したことはありますか。

佐藤氏 正直、これまでの採用は応募を待つだけで、わたしたちから積極的に呼びかけるような採用活動はしていませんでした。でも、今回はリハビリスタッフがいなければ何も始まらない。紹介会社の活用やホームページ改善にも力を入れたおかげで、立ち上げに積極的な方に入職してもらえました。

―データ提出加算も、地域包括ケア病棟のために導入したのだと伺いました。

佐々木氏 そうですね。もともと電子カルテは導入していたので、ソフトの追加だけであればそれほど費用はかからないだろうと思っていました。しかし、そこで出てきた見積もりは400万円。コスト削減のために必死に交渉して、半額程度にまで値下げをお願いしました。
そして、導入では現場で働く医師や看護師の仕事がなるべく変わらないように配慮しました。先生はサマリーを書く一手間が増えてしまいましたが、看護師の仕事は変わらないままデータ提出加算の体制を整えることができました。

病院経営がプラスになり、ベッドコントロールもスムーズに

―地域包括ケア病棟に転換して、どのような変化を感じますか。

佐々木氏 予想通り、増収はしましたね。7月は導入直後でお試しのような入院も多かったので、一般病床のときと比べると700万円近く増えました。稼働率も地域包括ケア病棟に限れば8割以上を維持しているので、年間の全体平均でならしたとしても月あたり約500万円は増収していると思います(2017年9月末現在)。

地域包括ケア病棟 転換

佐々木彰事務長代理(左)と佐藤勝事務長(右)

佐藤氏 そのほか、導入の効果だと言えるのは、事務部門の結束強化です。6ヶ月にわたる病棟転換プロジェクトを一丸となって進めたことで自信をつけたのか、自ら積極的に動くようになりましたね。当院では、地域連携室や看護師に加え、病院の収支関係を把握している事務部もベッドコントロールに携わるのですが、地域連携室長や看護師とも目線を合わせながら、チームとして転換を進めたおかげで共通認識ができ、ミーティングの時間を設けずとも、空き時間にどんどん退院支援を進められるようになっています。入院日数にとらわれず、病床稼働率だけ考えればよいので、ベッドコントロールもしやすくなったのではないでしょうか。

―ちなみに、導入に掛かった初期投資を考慮に入れても、全体的な収支はプラスと言えそうでしょうか。

佐藤氏 確かにリハビリスタッフの採用やデータ提出加算の導入でそれなりの初期投資はしましたが、その後のランニングコストは新しく採用した職員の人件費くらいです。今はそれらをカバーできるほどの増収になったので、結果的にはプラスですね。

他の事例から学びつつ、自分たちができることを考える

―最後に、地域包括ケア病棟の導入にあたり、事務部門が心がけることは何だと思いますか。

佐々木氏 実態を知ることではないでしょうか。わたしたちは導入前、地域包括ケア病棟の全体像がつかめていなかったので、運営実績のある病院へ見学に行きました。そこで、データ提出加算で入力できない病名など具体的なことが聞けたので、導入を検討している方は見学に行ったり、現場の声を聞いたりすると良いかもしれません。

佐藤氏 当院の場合は、6カ月という期限を決めたことがよかったと思います。事務部がちょっと強引にでもリードするのは大事だと思いますが、当院の場合は「誰がいつまでに何をする」という指示をしなくても、各自が率先して動いたのが一番の成功要因だとは思います。

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