昨今、社会的に話題となっている「医師の働き方改革」により、以前にも増して医師業務を直接的に支援する“医師事務作業補助者”(いわゆる医療クラーク等)への期待が高まっています。
一方で、人材の資質にはばらつきがあり、定着しない、離職が多い、当初思い描いていた通りに活用できないなど、医療現場には課題も山積しています。この原因のひとつに、(施設基準上、指定された医療現場の基礎知識研修32時間は定められているものの)専門的な教育システムの未整備が挙げられます。ほかにも、そもそも医師事務作業補助者の業務内容が明確には定まっておらず、業務範囲と個々人の能力の関係性にも起因しているのではないかと筆者は感じています。
最近は、医師事務作業補助者を募集しても、なかなか人が集まらない、応募があっても医療に対する認識不足により、いざ業務に就くと現場のレベルについていけずすぐ辞めてしまう。この繰り返しに現場は疲弊、といった状況も発生しています。
筆者の経験では、診療情報管理士の資格保持者など、一定の医学知識や医療現場で働く意識(モチベーション)を持った人材が、優秀なうえによく働くと感じます。つまり、医療を志し、資格試験に向けて学習する間に養われるホスピタリティ精神や職能(専門性)といったプライドが、医療現場では必要なのかもしれません。そのような観点から医師事務作業補助者を育成する視点も、今後求められるでしょう。
医師の負担軽減だけではない?医師事務作業補助者に求められる役割
さて、ここからは医師事務作業補助者を配置する際の注意点について述べてみたいと思います。
医師事務作業補助者は、基本的には診療報酬の入院基本料等加算にある「医師事務作業補助体制加算」を取得し、指定された条件に則って必要人員を配置することになります。ここで大切なのは、指定要件(施設基準等)に縛られて、医師を支援する業務を制限(縮小)して考えないことです。もちろん、加算によって医療収入が得られ、人件費が捻出されるわけですが、そもそもこの加算で得られる金額は人件費と相殺できるほど多くはありません。
「医師事務作業補助体制加算」の本来のねらいは、医師事務作業補助者を活用し、医師(医療)の診療収入を増やすこと。決して、医師の負担軽減だけではないのです。
例えば、医師が担っている従来業務を医師事務作業補助者に行わせることで、適切なカルテ記載をしつつ医師一人あたりの外来患者数が増えたり、事務作業に手間がかかって取れていなかった種々の加算や医学管理料を確実に算定したり、病院経営に大きな効果を生むような配置が重要なのです。しかし、医師事務作業補助体制加算の当補助者には厚労省通知で禁止されている次のような業務があるので、業務範囲が萎縮し、活用できないポイントがあります。
通知
(3)医師事務作業補助者の業務は、医師(歯科医師を含む。)の指示の下に、診断書などの文書作成補助、診療記録への代行入力、医療の質の向上に資する事務作業(診療に関するデータ整理、院内がん登録等の統計・調査、医師等の教育や研修・カンファレンスのための準備作業等)並びに行政上の業務(救急医療情報システムへの入力、感染症サーベイランス事業に係る入力等)への対応に限定するものであること。
なお、医師以外の職種の指示の下に行う業務、診療報酬の請求事務(DPCのコーディングに係る業務を含む。)、窓口・受付業務、医療機関の経営、運営のためのデータ収集業務、看護業務の補助並びに物品運搬業務等については医師事務作業補助者の業務としないこと。
※太字下線は筆者
ここで重要なのは、医師事務作業補助者の業務内容をしっかりと検討し、その範囲を把握した上で、実際に加算対象の当補助者に行わせるのかどうかを決定・実施することです。このあたりは、業務が混在していると判断が難しい場合も想定されますが、通知や疑義解釈には次のように指示されているところもあります。
通知(一部抜粋)
(4)医師事務作業補助者は、院内の医師の業務状況等を勘案して配置することとし、病棟における業務以外にも、外来における業務や、医師の指示の下であれば、例えば文書作成業務専門の部屋等における業務も行うことができる。
疑義解釈(一部抜粋)
研究データの整理や統計・調査の入力業務など、個々の患者の診療と直接的に関係ない業務は、一般的に病棟又は外来以外の場所において実施されるものであり、敢えて病棟又は外来で行った場合であっても病棟又は外来における業務時間に含まれない。(「医師事務作業補助体制加算1」の外来・病棟の勤務時間に対する疑義解釈より)
これらを見ると、通知の中で業務や勤務場所に一定の縛り(限定)をかけている一方で、逆説的ではありますが、研究データの整理など明確に指定されていない業務については、勤務時間や勤務場所の縛りには含めないといった柔軟性も含まれているように読めると筆者は解釈しています。
以上のような点を十分理解した上で、適切に業務を選定し、勤務場所や勤務時間を勘案して配置することができれば、医師事務作業補助者の業務は適切に拡大できるのではないでしょうか。
<編集:小野茉奈佳>
・【連載一覧】診療報酬請求最前線
・働き方改革の切り札?医師事務作業補助者40名体制を築いた10年間―医療法人財団 荻窪病院【前編】
・「医師の悩みはビジネスチャンス」 医師事務作業補助がもたらすもの-メディカルトピア草加病院【後編】
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