6ヶ月で常勤医師4名を採用した、在宅医療クリニックの戦略―医療法人社団双愛会 ファミリークリニック蒲田 伊谷野克佳氏

転職を検討している医師のうち、在宅医療を希望する医師は1%未満(エムスリーキャリア調べ)と言われているなか、多くの応募者が集まるファミリークリニック蒲田(東京都大田区)。2005年の設立から10年以上、“断らない在宅医療”を行いながら、チーム医療体制を整備してきました。
多様な専門科目の医師をそろえたことで患者の満足度を上げただけでなく、医師の働きやすさも実現。結果、2016年12月から2017年5月の半年間で、常勤医師4名が新たな仲間に加わりました。今回は、仕掛け人である院長の伊谷野克佳氏に、ファミリークリニック蒲田の採用戦略を伺いました。

外科医から訪問診療医へ

伊谷野克佳―まずは、伊谷野先生ご自身のキャリアについて教えてください。
在宅医療を始める前は、胸部外科医として心臓血管手術などをしていました。研修医のころから、専門性を極める医師、地域医療を担う医師、その両方をやりたいと思っていて、専門医になってからも悩み続けていました。転機になったのは30歳を過ぎた頃。たまたま在宅医療を診る機会があって、これから注目される新しい医療として興味を持ったのです。その当時は在宅医療クリニックが少なかったので、自分で作り上げていこうと思い、2005年にクリニックを立ち上げました。

―在宅医療クリニック立ち上げの経緯について教えてください。
開業場所は、大学時代から住み慣れていた大田区に決めました。生まれ故郷の群馬県に帰る選択肢もありましたが、拠点となる蒲田は人口60万人の住宅密集地だったので、より多くの患者さんと出会い、経験を積めると考えたのです。
最初は、経営がうまくいく保証もなかったので、夜間を含めた診療から事務作業まで、すべて一人で行っていました。しかし、1年半ほどで患者さんが150人を超えたとき、肉体的負担と誰にも相談できない精神的負担はピークに達したため、今まで外科で行っていたチーム医療を在宅医療にも取り入れようと決めました。

医師の負担が減って医療の質が向上する、在宅での“チーム医療”

―チーム医療の実現を目指して、取り組んだことは何ですか。
まず、常勤医はプライマリ・ケアに取り組み、非常勤医は皮膚科や精神科といった専門分野を活かす方、夜間対応に注力する方というような役割分担をしました。
結果、わたし自身も専門外のことを相談できるようになり、一人の患者さんに複数の目が入るので自信を持って医療提供ができるようになりました。医師の負担が減るなかで、医療の質が向上するという好循環が起こってきたのです。

―一方、在宅医療の負担になりがちな夜間は、どのように対応されていますか。
夜間は、看護師と非常勤医が協力して、3段階方式で対応しています。ファースト対応は電話応対のみの看護師、セカンド対応は出動専門の看護師、サード対応は非常勤当番の医師が行う、という流れです。このような体制なので、主治医となる常勤医にオンコールがいくことはほとんどありません。
この仕組みを導入する前、自らオンコールを対応していて感じたのが、「心配なので念のため連絡した」というような重症ではない軽症な場合のコールが7割方を占めることでした。とはいえ、実際に医療従事者が行ってみなければ判断がつかないことも多いので、夜間専任の看護師と非常勤医を採用して協力してもらっています。こうした体制が整っているからこそ、コール免除、当直免除で働く常勤医もいて、日勤専従で1日15件の訪問診療を行う医師もいます。

知人にも、ブランドにも頼らない

―採用にあたっての目標数と達成数を教えてください。
常勤医師5人の採用を目標に掲げてきました。結果、半年間で4人が決まり、来春には5人目が決まりそうです。

―一連の採用活動は功を奏したように思いますが、苦労したことはありますか。
わたしの場合、以前の同僚や後輩などの知人に声をかけたりしましたが、ほとんどうまくいきませんでした。今まで同僚だった人も、“雇う・雇われる”の関係になってしまうと、ぎくしゃくして続かないことが多かったですね。特に在宅医療では、医学的には正しくても患者さんがその処置を望まない場面もあるので、そういう時に意見のすれ違いがよく起こりました。やはり、在宅医療に興味がある人でないと長続きしないのかもしれません。

在宅医療 伊谷野克佳―知人紹介が難しいとなると採用は苦戦しそうですが、工夫したことはありますか。
個人クリニックの場合、自分たちが誇れる医療を提供していたとしても、求職中の医師にはその魅力が伝わらないことがほとんどです。自分で言うのもおこがましいですが、当院は全国に189件(2015年度実績)しかない単独型の機能強化型在宅療養支援診療所で、ある程度の実績はあると思うのですが、いわゆる“ブランド力”がない。そのため、採用を始めたばかりのころは、給与を平均よりも少し高めに設定していました。また、勤務概要やわたしのインタビューを掲載したPR資料を作って、当院の特徴をアピールしましたね。

―採用時に定めた、求める医師像を教えてください。
求める医師像は3点あります。第一に柔軟性があること、第二に自分の専門領域(診療科)にこだわらないこと、第三に患者さんへの敬意を持っていることです。在宅医療の現場は、機材がなく、状況変化が激しいなかでの診療になりますので、第一と第二の条件は欠かせません。また、わたしたちが接する患者さんのほとんどが高齢者。人を見る目はわたしたちよりも優れていますから、信頼され、誠意ある仕事をするためには、敬意が大切だと考えています。
現在、採用に至った医師は、これらの点を満たしているのはもちろんですが、仕事とプライベートを両立させたいというワークライフバランス志向の方が多いです。実際、子育て中の方もおり、メリハリよく働いています。

日本全国、どこでも在宅医療が受けられるシステムづくりへ

ファミリークリニック蒲田―今後の展望を教えてください。
常勤医師5人目の採用目途が経ってきたので、次は総勢10人を目指し、より強固なチームをつくっていきたいと思っています。チーム医療体制も整ってきたので、次は大田区をはじめとした城南地区で、在宅医療が身近に受けられるシステムづくりをしたいです。
当会の理念が“医療を通じ「安心して生活出来る社会」を創造する”なので、今まで培ったノウハウを地域、そして日本全国に発信していきたいと考えています。

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