紹介患者を増やすための顧客インサイトの理解―病院マーケティング新時代(16)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。

かかりつけ医が紹介したくなる病院とは?

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課

急性期病院の集患方法は、医療連携機関に患者さんを紹介してもらうのが昔からのスタンダードです。そして、現在も依存度は高いでしょう。集患施策として、医療連携機関とのコミュニケーションだけに注力している施設も多いかもしれません。

当院も、かかりつけ医である医療連携機関とのコミュニケーションは重要視しています。少し前まで北九州市は100万都市でしたので、エンドユーザーとのコミュニケーションは時間もかかりますし効率が悪いのは事実です。医療連携機関であれば当院のマーケット範囲1,700施設に絞り込めるので、少しは気が楽ですね。

連携医療機関向けに実施しているアンケートを見直した

その一環で、当院では2年に1回、医療連携機関1,700施設を対象にアンケート調査をしています。以前からずっと実施されてきた調査ですが、私が企画広報課に来てそのアンケート調査の内容を見てみると、まぁビックリ。目的などを深く考えずに設計されていることがすぐにわかりました。俗に言う「えっ、だってずっと前からこれでやっているから」というやつですね。こうなると我慢しきれないのが松本です。本来は連携室の管轄なのですが「自分が全部集計するんで作り直させてください!!」と懇願し、すべてやり直しました。

その時に私が書いたアンケートの目的はこちらです。

<効果測定・ブランドタッチポイントの把握>
マーケティング戦略に沿った広報活動が有効なのか、何が効果であったのかを検証。

<インサイトの発掘>
当院を選ぶ連携医療機関と選ばない連携医療機関の違いはなにか!? 何を基準としているのか。
(後述する企画書より抜粋)

※編注:タッチポイントとは、顧客との接点。広報誌や広告以外にも、サービス提供時やクチコミなどさまざまなタッチポイントが考えられる。
※編注:インサイトとは、「顧客インサイト」などと呼ばれ、顧客を動かす隠れた心理を指す。顧客自身も無自覚な不満や欲求も含めて捉えようとする考え方に基づく。

目的を達成するために知りたいのは、4点です。

1. 患者さんを紹介する際に、重視するものは何ですか?(20項目をそれぞれ5段階で評価)
2. 急性期病院の医療内容についてどのように情報収集されていますか?(12項目をそれぞれ評価)
3. 小倉記念病院が以下の治療法を行っているのは知っていますか? (8項目をそれぞれ5段階で評価)
4. 小倉記念病院の情報発信や取り組みについて、良いと感じるものは何ですか?(12項目をそれぞれ5段階で評価)

最後に自由記載欄も加えました。

それで作ったアンケート枚数が5枚。連携室はあり得ないって言っていました(笑)。「先生方は忙しくて、こんな枚数誰も回答してくれないから回収できないよ」と。でも僕は中途半端な調査をするくらいならしなくていいと思うんですね。で、結果回収できた施設数が430施設。回収率25%ですけど、結構多いと思いません?? 僕だけかな??(笑)

あと送り方も重要ですよ。1回目はですね、広報誌と一緒に同封して送ったんですよ。それが全く返ってこない。ビックリするぐらい返ってきませんでした。それで手間と郵送料はかかりますが、アンケート単独で郵送し直しました。そうするとどんどん返ってくる。これで「今後アンケートをするときは単独で運用しないとダメだな」とわかりました。

実際に作成した企画書をご紹介します。

アンケート調査に関する企画書

連携室にて2年に一度行っている連携医療機関へのアンケート調査について、有効なマーケティングが行えるように 以下の内容でアンケート設計を行います。

アンケートの目的
<効果測定・ブランドタッチポイントの把握>
マーケティング戦略に沿った広報活動が有効なのか、何が効果であったのかを検証。

<インサイトの発掘>
当院を選ぶ連携医療機関と選ばない連携医療機関の違いはなにか!? 何を基準としているのか。

効果測定・ブランドタッチポイントの把握
以下の取り組みについて、ユニークでポジティブなブランド連想が蓄積されているかを検証します。
連携会・挨拶回り・ノベルティ・小倉循環器内科セミナー・病院パンフレット・HANDS・つなぐ・ホームページ・出張講演・市民公開講座・Facebook・テレビ・患者さんご家族の評判など

インサイトの発掘
以下の内容で、当院を選ぶ連携医療機関と選ばない連携医療機関との差異を確認します。
地理:地域によって、違いはあるか。
自我関与度:患者さんを急性期病院へどのくらい紹介しているのか。
認知度:急性期医療の知識がどのくらいあるのか。
価値観:急性期医療へ求めるものは何か。
*これまでは診療情報提供書のみで医療連携機関の優劣を付けていましたが、アンケート結果との比較検討も行います。

調査方法
対象:HANDS郵送先1,720施設から地域医療支援病院を除いた施設へ。
集計方法:各設問を5段階で評価してもらい、各設問のバラつきを図る。
配布時期:HANDS.71を郵送する3月下旬を想定。
提出期限:平成30年4月20日(金)
提出先:医療連携室

以上

結果に基づき、施策を変えていく

それで今回はごめんなさい。詳細な内容や結果を出すことはできないのですが、その時の傾向と考えた施策をちょろっとお伝えしますね。先ほど挙げた4項目別にまとめました。

1.患者紹介で重視するもの

●傾向
<緊急でも断らず対応してくれる><信頼できる医師がいる>ことが、もっとも優先度が高い。当院内では待ち時間が問題視されているが、医療連携機関の患者紹介においては重要視されていない。紹介患者数が少ない医療連携機関は、<患者さんが希望する病院>の優先度が高い。
●施策
病院季刊誌「HANDS」は「行っている医療」より「行っている医者」を少し前に出せるように構成する。

2.急性期病院に関する情報の集め方

●傾向
圧倒的に紹介状に対するお返事(診療情報提供書)の内容で把握されていた。デジタルよりもアナログでの情報交換が多いようである。
●施策
診療情報提供書を適切な内容にすることの徹底(当院医師にもこの結果を共有)と、セミナーの集客数UPや少人数交流会の開催も検討する。

3.小倉記念病院の実施している治療法を知っているか

●傾向
紹介数が少ない医療機関では、当院の医療内容が浸透していない傾向にある。
●施策
HANDSの評価は高いのに患者紹介数が少ない医療機関は、HANDSでは紹介までのハードルを超えられていない。Face to Faceのコミュニケーション機会を増やす必要がある。

まとめ

紹介数を増やしていくには、紹介数の少ない医療連携機関への対応が必要。投資(ヒト・モノ・カネ)は限られているので紹介の多い医療連携機関はHANDSを通じて選んでいただき、紹介が少ない医療機関に対しては、当院への理解や信頼を得るために、セミナーや交流会などを通じてFace to Faceのコミュニケーションを積極的に増やしていく。

ほかの医療機関でもこういったアンケート調査はされていると思いますが、課題を認識し、その解決のために何を知らないといけないのかを考えることで、アンケートの質も上がってきます。
「だってずっと前からこれでやってるから」という言葉をみんなで追放してやりましょう!!

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