「新たな医療経営の形を模索したい」事務長職の可能性とは─若手事務長キャリア座談会vol.5

事務長歴3年以内の若手事務長4名による本座談会。これまで、事務職や事務長に求められるものやその責務について、語り合ってきました。病院の経営を支える“縁の下の力持ち”として多くを求められる中で、彼らにとって事務長としてのゴールややりがいはどこにあるのでしょうか。最終回は、事務長という仕事の魅力について聞きました。


反発していたスタッフたちの変化

──前回、加藤さんから「嫌われ役を買って出る」というお話もありましたが、逆に事務長をしていて喜びを感じる瞬間はありますか?

加藤:
うーん、「これが嬉しい!」っていう局所的な喜びというより、たとえば、挨拶がなかったのに「おはようございます」の一言がみんなから出るようになったなとか、徐々に組織が変わってきていることを日々の中で感じる、そういうじんわりにじみ出るような喜びが事務長にとってのやりがいなのかなと思います。

酒井:
分かります。当法人では改善活動の結果、老健の基本報酬を在宅復帰加算型(在宅復帰率30%超などの要件がある)に上げることができました(2015年度)。もちろん、収益が増えること自体も嬉しい。でもそれよりも、最初は「あの利用者さんたちが自宅に帰れるわけない」って反発していたスタッフたちが、一緒にそこまで成し遂げてくれた、その過程で徐々にみんなが変化していった、ということが幸せです。

【酒井さん】

髙﨑:
やっぱり、プロジェクトを達成するとアドレナリンが出る感じはありますよね(笑)。単月で黒字が出た時も嬉しいし。でもそれって、加藤さんが言ったように、瞬間的なもの。極論すれば、僕は自分がいなくなった時の方が喜びを感じるかもしれません。事務長という調整役がいらないということは、それだけみんなが自分で考えて調整して、必要な合意形成ができるようになった、ということ。今はそのゴールに向かって走っている途中ですね。最終的には事務長無しで自走できるような組織になれればいいな。そしたら、自分はまたゼロから組織をつくるのかもしれません。

新たな医療経営のあり方を発信したい

──事務長にはゴールがないんですね。甲さんは、事務長として今後やってみたいことなどありますか。

甲:
私が今後やっていきたいと思っているのは、医業収益以外の部分でのマネタイズです。まだ模索中ですけど、「新しいクリニックの形みたいなものをつくっていけたらいいね」って先生方と話しています。

【甲(かぶと)さん】

私は患者としてこれまで「3分診療ってなんであるんだろう」とか、「やたら検査を薦めてくるな」と、もやもやすることがいっぱいで。でも事務長として経営に関わるようになって、診療報酬上、現在の医業の点数ではそうせざるを得ないんだなと分かりました。今後、医療費圧縮ということになれば、ますます状況は厳しくなる。これまでとは違う医療経営のあり方が求められているんじゃないかなって。だから、まずは自分の診療所がモデルケースになって、医療界に新たな風を吹き込めれば、と考えています。

加藤:
その点は当院も力を入れていますね。病院側が企画して「足ビジネスのアイデアハッカソン」(※)というのを実施していて。2か月毎に、いろんなメーカーに来ていただいて当院の取り組みを発信したり、個別に提携してやれることがないか相談したりしているんです。この前は靴のメーカーさんとコラボして靴を開発しました。メーカー側にとっては足の専門病院のドクターがお墨付きをくれたというPRになります。これまでは企業から提案するのが一般的でしたが、足の病院の可能性を広げるために当院主体でできることを模索中です。

※ハッカソン:さまざまな人が集まっていくつかのチームをつくり、短期間(通常、数時間~数日間)でサービスやソフトウェアを考案・開発して競いあうイベントの総称。転じて、チームをつくって短期間にサービス開発などすることを指す場合もある。

【加藤さん】

甲:
それ、おもしろいですね! 加藤さんは既に先進的な取組みをいろいろされていると思いますが、今後さらにやりたいことはあるんですか?

加藤:
うーん、まずは事務長として一人前になれるよう、責務を全うしながらもっと学んでいきたいという気持ちが大きいですね。もちろん、自院のためにできることは固定観念にとらわれずチャレンジしていきたいです。あとは、これまでお話してきたように、事務長をはじめとして事務職がもっと認められるように何かできないか、と最近すごく考えています。まだ具体的なやり方は見えていませんが…。じっくり考えを熟成させていく中で、自分にとって一番やりがいを感じられる方法を見つけたいと思っています。

地域目線を、裏方から模索し続ける

髙﨑:
やりたいことを考え続けるのって、難しいですよね。聖路加国際病院にいた10年間は、ちょうど院長先生が変わって過渡期だったこともあって、次から次へと新しいことに挑戦していました。ただ、ふと動きが止まって、視界が暗くなったように感じるタイミングがあるんです。止まらないようにするための手段が、加藤さんのやっているハッカソンや、医療機関によっては規模を拡大することなのかもしれないですね。

【髙﨑さん】

当院のことで言えば、地域に根差している病院なので、当たり前ですがまずは潰さない、なくさないというのが大事なミッション。あとは、患者さんにとっても職員にとっても「いい病院」をつくっていきたいですね。「この病院で働いた3年間はいい経験になった」「この病院があってよかった」と言ってもらえるような医療機関にするために何ができるか、今後も考えていきたいです。酒井さんはいかがですか。

酒井:
高崎さんのところと一緒で、うちも地域のためにある法人。患者さんもスタッフも地域の方ですし…。だから、正直に言うと、もし当院が地域に必要とされなくなったら、引き際を見極めるのも私の仕事なのかなと考えています。

とはいえ、目下のところは、「地域のリソースで足りない部分を補う」という役割をしっかり果たしていきたい。たとえば、近隣の小児科がどんどん撤退したこともあって、当院では日曜も外来を開かざるを得ないのが現状です。でも、小児科単科では採算がとれないので、他科で収益化して、維持していかなければなりません。

今後は、より長期的な視点で地域づくりに関わりたいなと思っています。もともと市の予防事業などに協力はしていたのですが、現在は設計段階から携わらせていただいていて。法人内にとどまらず地域のためにできることが増えるのが、いまのやりがいですね。

──事務長としてやりたいことや目指す地点はさまざまですが、そこに向かって新たな挑戦を重ね続けている点は皆さん共通しているんですね。ぜひ定期的に集まって、その後の変化をまた語り合っていただきたいです。ありがとうございました!

<取材:原田祐貴、写真:塚田大輔、文:角田歩樹>

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