東海・関東地方を中心に医療施設・介護施設等を運営する偕行会グループ。その法人本部で理事兼財務部長を務めるのが、内野裕介氏です。大学卒業後に半官半民の法人でバックオフィスの経験を積む中で、自身のキャリアに危機感を持ち、MBAを取得します。危機感を学びへのモチベーションと変え、未経験の医療業界で活躍するようになった同氏に、これまでのキャリアを伺いました。
偕行会グループ
法人本部 理事
財務部・総務部 部長
内野 裕介氏
経理・財務の経験がキャリアの基盤に
──まずは、内野さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
1995年に大学を卒業後、新卒でインフラ系の特殊法人に入社しました。そこは半官半民の法人だったので、多角的な視点が学べそうと考えたのです。入社後、5年ほどは経理や財務を担当させていただきました。その経験が私のキャリア基盤になっていると思っています。
その後は人事を2年ほど経験したのち、企画部門に7年間、携わりました。様々な指標をベースに経営計画を作成するのが主な業務です。2001年くらいに特殊法人改革が始まり、株式会社化を推進するプロジェクトに関わらせてもらったことが、非常に印象に残っています。
──入社当初からバックオフィスの経験を積んでいたんですね。
はい。大学では政治学科にいたので企画や法律を扱う部署に配属されるかと思いきや、経理部門は意外なスタートでした。予算担当などを務めていると役所と折衝する機会も多く、数字の取り扱い以外に、対外的な交渉スキルやプレゼンテーション能力を身につけることができました。現在の仕事でも官庁との折衝などがよく発生するので、結果的に当時の経験が非常に役立っています。
MBA取得の背景にあった焦燥感
──その後、MBA(経営学修士)取得をしましたね。何かきっかけがあったのでしょうか。
経営計画の策定に取り組む中で、外資系コンサルティング会社や証券会社の方と一緒に仕事をする機会が多くありました。様々なフレームワークを用いながら、私たちをリードしていく姿に非常に刺激を受けたのが、MBAに目を向けたきっかけです。恐らく私よりも少し若い彼らの活躍ぶりを目の当たりにして、自分自身のキャリア形成に危機意識を抱いたことも大きかったですね。知識をもっと補強して、さらなるキャリアの可能性を模索していきたい、という想いから退職を決意。MBA取得を目指しました。
──MBAでは、どんなことを学びましたか。
まずは、今まで経験ベースで捉えていた財務会計や経営戦略について、様々な角度から体系的な知識としてインプットしていきました。特に後半は、学んでいることをどういう分野や業務領域で活かしていくか、を意識しながら過ごしていましたね。中小企業診断士の資格も取得していたので、当時の先生に当たる方から案件をご紹介いただき、コンサルティング業務等にも携わっていました。
──今振り返って、MBAの経験が活きていると感じる場面はありますか。
はい。たとえば、MBAでは最終的に論文を書くのですが、執筆にあたっては科学的かつ多角的な検証をもとに結論を導く必要があります。この考え方は今でも活きていて、自分が業務上でメッセージを発するときも、抽象的な概念だけでなく、具体的な根拠をもって説明するようにしています。学んだ内容はもちろん、学びをアウトプットしていく過程で得た視点も貴重な財産になっています。
思いがけず医療の道へ
──その後、医療業界へ進まれた理由は何だったのでしょうか。
進路については悩みましたが、独立するより経営者の下で組織を支えるような仕事をしたいと考えていました。転職エージェントなどにも相談してみたところ、私の前職やキャリアを見て、医療法人を推薦されることが多かったんです。
当初は全く興味がなかったというか、ピンときませんでしたが、いろいろ話を聞いていると、この業界なら自分の経験が活かせるのではと感じるようになりました。医療法人の特徴として、例えば会計の分野では、ようやく医療法人会計基準が整備され企業会計並みの処理が求められるようになったことなど、業務や組織運営の体制がまだまだ標準化できていない点があります。一般の事業会社から比べると、改善の余地が大きく、自分が貢献できることも多いのではと考えました。
──偕行会グループを選択したのはなぜですか。
グループとして事業の内容や規模、業績がしっかりしていたことはもちろんですが、法人の理念や方針、またそれを体現する職員の存在が大きかったように思います。選考前に法人のホームページ等もチェックしていましたが、理念や医療方針が事業会社並みに明確にされていたのが印象的でした。中でも、医療方針の2番目に「豊かな財政基盤を確立する」という項目があったことに衝撃を受けました。経営の重要性を明示している医療機関が多いとは言えない中、こうした方針が打ち出されていることに、財務の立場を経験した身としては「自分の仕事が認められる環境なのでは」という期待感があったのです。
また、面接官の人柄や雰囲気からも、非常に働きやすそうな環境だと感じました。医療業界は一般的に医療従事者を中心に構成されているため、事務方は活躍の場が少ないといった話も耳にしていましたが、そういった雰囲気は皆無。グループの理念に「働きがいのある法人運営」が掲げられているのですが、それが体現されていると感じました。諸々をふまえて、最終的に入職を決めました。
──入職後は、どのような役割を担われているんでしょうか。
入職して8年ほどになりますが、一貫して財務部門を担当しています。当初は財務課長として月次収支や決算管理を中心に、金融機関対応にも一部携わりました。1年半後には財務部長を拝命し、業務管理はもちろん、経営層に対して財務状況等に関する情報発信をする機会が増えていきました。また、金融機関対応もより中心的に関わるようになったので、法人の顔として、正確な情報を金融機関にお伝えできるよう心掛けてきました。そのさらに3年後、財務部長と兼任で理事に就任し、現在に至ります。
キャリアアップに必要な視点とは?
──異業界から管理職として入職され、苦労した点はありますか。
財務会計の知識は業界問わず活かせるものなので、実務としての難しさは基本的にありませんでした。ただ、前述したように医療法人は相対的にみて会計制度の整備が進んでいないので、その仕組みづくりをどう進めるか、が難しい点ではあると思います。
たとえば私が入職したての頃は、月次決算でも収支報告の提出が遅れたり、月によって進捗がまちまちだったりすることがよくありました。そこで、報告日から逆算して締め日を設定し、スケジュール通りに収支報告が完了するようタスク管理の方法を変更。さらに金融機関への情報公開についても、締め日の1カ月後には試算表を全ての金融機関に提出するルールをつくりました。フローをつくること自体は難しくありませんが、それをいかにスタッフに理解してもらい、運用してもらうかが重要でした。
──スタッフの理解を得るために、心掛けていることを教えてください。
「自分ができることをきちんとやる」ということに尽きると思います。医療業界歴の浅い自分がいきなり医療人ぶるのは無理がありますから、まずはこれまでの知見や経験を活かせる範囲で、自分なりに組織に貢献することを意識していました。
また、マネージャーとプレイヤーの仕事を区分せずに取り組むことも重要と考えました。前職ではマネージャーの暗黙のルールとして、プレゼン資料や契約書などの作成はスタッフに任せ、出来上がったものを確認するといった仕事の進め方がほとんどでした。赴任後は、積極的にスタッフにわかりやすい資料を作るなど、自分で手を動かすよう意識しました。チームで取り組むべき業務には上司や部下といった線を引かず、自ら率先して動くことが周囲の人間を動かすことにもつながるのではないでしょうか。
──最後に、これから医療業界でキャリアアップしていきたいと考える読者にアドバイスをお願いします。
これは私自身、当グループの川原弘久会長から学ばせてもらったことですが、医療業界で働く上では、マクロ視点で医療業界の動向を把握することが重要だと思います。
目の前で起きている事象、たとえば「社会保障の財源減少」といった限られたテーマのみで医療について考えると、“頭打ち”、“成長は難しいのでは”と先行き不透明な印象が強いかもしれません。しかし、世界情勢や各国の政策といった大きな視点から、世界・日本の医療が今後どのように展開し、その中で医療法人がどういった役割を担うべきか考えていけば、「数年先を見据えてこの領域を強化しよう」などと、法人としてやるべきことも見えてきます。
実際に偕行会グループでは、将来を見据えたグローバル戦略として、インバウンド事業の推進やインドネシアへのクリニック開設を行っています。自身の専門性を活かしながらそうした事業に貢献できていることは、私にとって非常に大きなやりがいにつながっています。マクロ視点で業界や法人を俯瞰できれば、きっと自分のキャリアにも広がりが出てくると思いますよ。
<取材・撮影・文:浅見祐樹、編集:角田歩樹>
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