医事課編:対立しがちな経理課とどう向き合う?~事例でまなぶ病院経営 病院事務管理職のすゝめ~vol.1

病院事務管理職の業務に必要なスキルは、体系的に学べないものがほとんどです。経理や医事、労務管理の知識であれば書籍などで習得できますが、理事長・院長をはじめとする経営幹部が病院事務管理職に求めるスキルはそれらにとどまりません。
本連載では、病院事務管理職が経験しがちな“あるある”課題を事例として紹介します。事例を通して、より円滑に効率よく仕事するためのノウハウを学んでいきましょう。

解説者:加藤隆之氏 株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員/中小企業診断士/経営学修士(MBA) 


病院事務管理職は、直属の上司・部下だけでなく、他部署の事務職や、院長をはじめ医師、看護師、コメディカルなどさまざまな組織・職種と接する必要があります。このため、それぞれの特性に合わせたコミュニケーションスキルが求められます。相手のバックグラウンド・ニーズ・優先事項を把握した上で対応しなければ、いわゆる“地雷”を踏んでしまうことにもつながりかねません。

連載1回目のテーマは、病院事務職の中でも最大勢力である医事課です。その業務と私なりの勝手な“生態”分析を踏まえて、医事課長が抱える課題の解決方法を検討してみましょう。

目次

医事課の業務の特徴とは?

医事課の業務の大きな特徴として、

  • 全ての患者・ほとんどの部署との接点がある
  • 収入に関する算定と請求を行う
  • 中でも、診療報酬に関係する業務をメインとして行う

などが挙げられます。病院の基幹となる部署であることは言うまでもないでしょう。

病院にとって、医事課が活発なことは極めて重要です。医事課が元気であれば、受付での患者対応や院内職員の風通しがよくなり、算定もきちんと行われるため適正な収入を得ることができます。

しかしながら、「医事課職員がオドオドして縮こまっている」という病院は少なくありません。

たとえば、診療報酬が算定できていなかったとき、各部署がすべて医事課の責任にしてしまうというケースはよく耳にします。もちろん医事課の立場からすると、記録がないものは請求できません。しかし、各部署から度々高圧的な言い方で責められると、オドオドした医事課職員が多くなってしまいます。つまり、院内で軽視され続けると、医事課はどんどん委縮していくのです。

そうなると、患者に対して作業のように最低限しか対応しなくなり、請求についても積極的な算定を控えるようになっていきます。病院にとっていいことはありませんよね。トップや他部署が、こうした医事課の生態を理解できていないと、病院全体の雰囲気は悪くなっていく一方です。

そこで今回の課題事例として、医事課と経理課の関係性を取り上げたいと思います。どの病院でも、医事課と経理課の関係は課題となりがちですが、その根本にあるのは、両者が日々の業務で重視するものの違いです。事例を見てみましょう。

【事例紹介】

まるで嫌味?経理課からの「管理体制・ルールを見直せ」指摘にうんざり

(A医事課長:54歳男性、部下14人)

経理課長から、今月も電話がきた。「支払基金からの入金と、医事課から事前に報告を受けていた金額との乖離があまりに大きい」という内容だ。詳細確認のためと言いながら、「これほど違うと理事長に説明しきれない」と嫌味がだらだら続く。先々月も同様の電話を受けた。いや、年中幾度となく、同じことを言われているように感じる。

経理課には毎月、レセプト請求をした金額を報告しているが、実際の支払基金からの入金は同額にならない。請求金額は査定されるものだし、返戻されることもある。当然、再請求して承認された分の入金もある。

経理課長には再三説明した上で「レセプト請求金額と入金額は異なる」と伝えており、本人も理解しているはずなのにこうして電話してくるのだ。単純に医事課が気に食わなくて、いわれなく批判しているのではないか?とさえ感じてしまう。

経理課とは、未収金についてもひと悶着あった。
以前、経理課長に「回収のためにどんな工夫をしているのか」と尋ねられたため、当院のルールを説明したら、事務長から医事課に「ルールの見直しを検討できないか」と連絡がきた。どうやら、経理課長が事務長に「この運用方法でよいのか」と投げかけたらしい。

医事課のやり方が気にいらないのであれば、未収金回収はむしろ経理でやってもらいたい。未収金が発生するような患者から現金を回収するがどれだけ難しいか、経験すればわかるはずだ。経理課はいつも全く動こうとしない。その癖、口だけは出してきて「管理体制がなっていない」「ルールを見直せ」と言ってくる。

課長同士の不和にとどまらず、医事課職員たちも経理課職員に対して不満が募っているようだ。経理課の電話には、医事課同様に代表電話のコールがなるが、職員は手が空いていたとしても出る気配がない。代表電話の対応は基本的に医事課の業務とはいえ、もう少し協力してくれてもいいのではないか。病院で働いているにも関わらず、「患者対応は我々の仕事ではない」と関わろうとしない。そんな経理課の姿勢を医事課側は理解できず、不満が増す一方だ。

そうこうしているうちにまた経理課長からの電話が鳴り、うんざりする。

【解説】

経理課の立場で考えてみよう。業務上、最も重視するのは?

今回の事例はやや極端ですが、医事課長に経理課が「動かないのに口だけは出す」「患者と接点のある業務はしない」部署と映ってしまう事は現実にもあるでしょう。

そもそもお金に対して、両者には以下の違いがあります。

  • 医事課:請求主義 ※1
  • 経理課:発生主義(医業収益については現金主義とも言える)※2

※1「請求主義」という言葉は一般的ではないが、医事課はレセプト請求した金額を院内に報告するため、このように記載

※2「発生主義」は、は金銭のやり取りに関係なく、取引が発生した事実に基づいて費用と収益を認識する考え方。「現金主義」は、会計において現金の支出と収入があった時点で金額を計上する考え方。

このため、感覚が異なるのはある程度仕方ありません。しかし、お互いが相手の立場に立ち、相手が業務上最重視しているものが理解できれば、これほど不満が募ることはないでしょう。

さて、経理課の立場になって考えてみます。

経理課が一番大切にしているのは“お金の出入りの管理“です。また、他部署からすると、医事課の業務はレセプト請求のみと思われがち。経理課にとって、医事課は「現金の回収に対しては、私たちは知りません」という姿勢で、未収金もほったらかしにしているように映っているのかもしれません。「医事課はお金の管理意識が低い」と見えている可能性があります。

両者は、業務をする上での目線が大きく異なります。

医事課は日々患者と接しているため患者視点が強いですが、経理課の主な業務は経営陣へのお金の管理報告ですから、どうしても経営視点になります。

経理課の認識では「電話対応(患者対応)は医事課の仕事」

医事課は構造的に残業が多く、レセプト提出のため月初には集中的に残業時間が増えてしまいます。医事課職員たちには「自分たちは忙しい業務を担っている」という意識があるのです。一方、経理課では、請求書の締め切りを前倒しにするなどの調整により、比較的期日に余裕を持った対応が可能です。職員の給与計算を経理課でしている病院は、給与計算のタイミングで残業が増えてしまうかもしれませんが、一般的には残業が多いのは医事課であることが多いでしょう。

医事課が経理課に「電話くらいとって欲しい」と思う裏には、「自分たちよりも余裕があるんだから」という気持ちが見え隠れします。しかし、経理課にとっては、「そもそも患者対応は私たちの仕事ではない」「それぞれの担当業務を全うすべき」という認識なので、すれ違ってしまうのは当然なのかもしれません。

医事課には嫌味な態度として映っていた経理課の行動も、視点を変えれば、当然の指摘をしているだけと思えてきたのではないでしょうか。自分の立場だけで物事を見ると、相手への不満ばかり募り、思考がストップしてしまいますし、業務も円滑に進みません。業務を行う際や、他者への不満を抱いた際は、“視点を移す”ということを意識してみましょう。

また、この事例を読んでいただいている事務長や経営陣にもお伝えしたいことがあります。事務職の管理職や職員に業務についての相談、指摘をする際は、ぜひ、各部署の立場をふまえて、それぞれの言い分を聞くことを意識してください。その上で、部署間・職種間の溝を埋めていくような発信をしていただきたいです。現場レベルから、病院の運営方針に関する本質的なものまで、さまざまな課題・改善のヒントが見えてくるかもしれません。

【筆者プロフィール】

株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員 加藤隆之
中小企業診断士 経営学修士(MBA)
「事例でまなぶ病院経営 中小病院事務長塾」 著者
病院専門コンサルティング会社にて全国の急性期病院での経営改善に従事。その後、専門病院の立上げを行う医療法人に事務長として参画。院内運営体制の確立、病院ブランドの育成に貢献。現在は日本M&Aセンターで医療機関向けの事業企画・コンサルティング業務等に従事する傍ら、アクティブに活躍する病院事務職の育成を目指して、各種勉強会の企画や講演・執筆活動を行っている。

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